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客席放浪記

2012年8月4日 露出狂(PARCO劇場)

 なんだか思わせぶりなタイトルに惹かれて観に行ったところもある。ところがこんなタイトルの芝居にもかかわらず、客席の女性率がやたら高い。しかも若い子ばっかり。「これは外したかな」と思ったときはもうすでに遅かった。どうやらこの芝居に出ているイケメンの男の子らのファンが大挙して来ているらしい。高校のサッカー・チームの話で、14人の登場人物全員が男だということからも、予測できたはずなのに、うーん、失敗だったなあ。

 サッカーの話なら、舞台美術も何にも無い舞台で、という予想は外れて、舞台中央に妙な造形物があって、そこに出演者が立って話が進んでいく。だからサッカーの話なのに、役者の横への動きがほとんど封殺されてしまう。「ええっ!」なんでこんな舞台にしたんだろうと思っているうちに、この芝居の構図がわかってくる。これは高校サッカー・クラブの話で、毎年三年生は去っていき、また新入生が入ってくる。だんだんこの造形物が何かに似ていると思っていたら、そうだ、これは動物園の猿山だ。いわば力関係の象徴でもあるんだと思えてくる。

 新入生4人がサッカーが天才的に上手くて、2年3年のレギュラー・チームと、4対11の試合をして大差で勝ってしまう。・・・なんだこりゃ。負けたレギュラー・チームは、クラブを辞めてしまう。・・・もっと、なんだこりゃ。勝った4人はカラオケボックスで男同士でホモり合う。・・・もうこの時点で、なんだこりゃを通り越して、私はついていけなくなってしまった。

 これは私だけじゃなく、客席の大多数を占める若い女性は引いているだろうと思いきや、みんなキャーキャー笑いながら観ているではないか。ここにきて、ようやく気がついたのが、これはいわゆる女性コミックのBL(ボーイズラブ)なんだということ。うわー! 私は何が苦手といって、この手の世界が一番苦手。

 「参ったなあ」と思って、それでも観ていたのだが。というのも、途中で席を立って出ていくのは相当に勇気のいること。

 4人だけになってしまったサッカー部。それでも何とかクラスメイトを集め格好をつける。あああああー! ありえねえ!! 今はサッカーやりたがっている奴なんて山ほどいるだろ!!! やがて新入生も入ってきて11人が揃う。ここで強いチームをつくるためにチームワークをよくしようと彼らは考える。チームワークも大事だけど、まずは練習だと思うけどなあ。そういうところは一切触れられず。で、どうやってチームワークをよくするかというと、ふたりずつアベックなるホモペアを作る。って、もうこっちが気絶しそう。

 ここにきて私はもう完全に放棄してしまった。もう早く終わってくれる事を願うのみ。いや、もちろん、これは作る側は悪くない。こういう芝居を楽しめるお客さんもいるはずだ。現に若い女性客は夢中で観ている。それを知らないで観に来てしまった私の方が悪いのだ。

 カーテンコールで作・演出の中屋敷法仁が出て来て、初めて顔を見たが、ああ、けっこうイケメンの優男じゃん。挨拶も終わり、出演者が客席を駆け抜けて去っていくと、若い女性が出演者に触ろうと一斉に立ちあがってキャーキャー大騒ぎ。

 家路につきながら、ところでなんでこの芝居、『露出狂』なんていうタイトルなんだろうと考えていた。露出狂って言葉が一般に使われるのは公衆の面前で、男性が女性に局部を見せて、女性が騒ぐのを見て喜ぶ異常者のこと。ははあ、こういう芝居を見せて、女性をキャーキャー言わせたいってことなのかな。

8月5日記

静かなお喋り 8月4日

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