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客席放浪記

酒と涙とジキルとハイド

2014年4月30日
東京芸術劇場 プレイハウス

 三谷幸喜の芝居って、一番好きなのは伊東四朗を使った『アパッチ砦の攻防』とか『バッド・ニュース☆グッド・タイミング』といったシチュエーション・コメディ。最近の歴史上人物シリーズとか、外国の名作舞台の三谷なりの解釈での演出とか、悪くは無いのだけど、私としては「なんだかなぁ」と思っていた。それがここにきて、この芝居は、もうあとに何も残らない、笑うだけの芝居だった。

 ジキル博士(片岡愛之助)が、人間の邪悪な部分だけが現れるクスリを発明する。ところがこれが失敗していたことが、学会での発表の直前になってわかる。なんとか学会での発表を、その場だけでもすり抜けようと思ったのが、クスリを飲んで変身した時に別の誰かとすり替わってしまおうというアイデア。それで呼ばれたのが無名の役者ビクター(藤井隆)。ジキルに雇われて、すり替わる稽古をする。髪型も違うし、どう見ても似てない。そして邪悪になった方が藤井隆って逆でしょと思うのだが、そこらも三谷幸喜は計算済で笑いを取る。

 ふたりで、すり替わる稽古をしているところに現れるのが、ジキルのフィアンセ、イヴ(優香)。イヴの前に変身して邪悪な部分だけになったハイドが現れると、ジキルに物足りなさを感じていたイヴは、ハイドに変身したジキル(実はビクター)に惚れてしまう。そのうちイヴもクスリを飲んでしまうのだが、このイヴ、思い込みの激しい性格で、自分も変身したと思い込んで、別人格のハイドならぬハイジが出てきてしまう。

 もうなんかね、三人の役者が、ジキルとハイドごっこをしているようで、それが可笑しくて可笑しくて。本人たちも遊んでいるようなところがあって、実に楽しそう。でもこれって相当に実力が無いと、自分たちだけが楽しんで、面白さが客に伝わって来ないということになりかねないのだけど、さすが芸達者たちですな。こっちも童心に帰ってしまったようなところがある。もっともちょっぴりエッチだから、これぞ大人のための遊び心いっぱいの芝居ですね。

 楽しんでいると言えば、もうひとりの登場人物が、ジキル博士の助手プール(迫田孝也)。終始クールなんだけど、三人を使って遊んでいるんじゃないかと思わせるところがあって、この人物がいると笑いが倍増して行く。

 上演時間も1時間45分とコンパクト。なんだか長いコントを見たような楽しさだけが残った。こういうのが好きなんだよね、私は。

5月1日記

静かなお喋り 4月30日

静かなお喋り

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