直線上に配置

客席放浪記

わらいぐま現る 金津泰輔作品集

2013年8月15日
ことぶ季亭

 柳家さん生が、金津泰輔の作品を日替わりで口演する会の三日目。

 「結婚は、狐と狸の化かし合いでなどではなく、我慢だ」「結婚ははずみでするが、離婚は力がかかる」「結婚を続けていると、いつの間にかふたりは同志になれる」と言った結婚にまつわる実感をマクラに、一席目は『結婚の挨拶』
 和菓子屋にやってきた青年。店主に、これから結婚相手の父親に挨拶に行くつもりだと話す。次にやって来たのは今年70歳になるご隠居さん。写メを見せて、今度21歳の女性と再婚するんだと告げる。そして、そのあとにやってきたのが・・・。正岡子規の句「羊羹の甘きを好む新茶かな」を上手く入れ込んだ噺。

 さん生の弟子、柳家わさびの一席は『佐々木政談』。この噺に出てくる子供は利発な子でいて少々憎たらしいのが特徴。これが案外難しい。

 「人間、すべてのことを記憶しているのは難しい。そしてほどよく忘れていって、いい思い出だけがのこればいい」とのマクラから、二席目は『パチパチ』
 おばあちゃんの88歳の誕生日に、孫が銀座の高級洋食店に連れて行く。メニューを見せて「何が食べたい?」と訊くと、「パチパチ」と答える。はて、パチパチって何だろう。ここで噺は、このおばあちゃんが7歳のときに、父親にこの店に連れてきてもらったときのことに遡る。現在と71年前をうまく対比させた噺。

 仲入り後が『いくじなし広重』。広重が62歳でこの世を去ろうとしているとき、ある一言を呟く。その言葉の意味するものは何だろう。そこから広重の人生をフィクションも交えて浮き彫りにしていく。そして最後に明かされる広重の辞世の句。それがピタリと合わさる。
 おそらく作者が、この句から作り上げていったロマンチックな噺。もしそのとおりの意味だったら、広重の人生は素敵だったろうな。

8月16日記

静かなお喋り 8月15日

静かなお喋り

このコーナーの表紙に戻る

トップ アイコンふりだしに戻る
直線上に配置