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客席放浪記

月例三三独演

2013年2月22日
イイノホール

 数ある古典落語の中でも『鈴ヶ森』に出てくる新米の泥棒くらいバカで可笑しい人物はいない。いわゆる与太郎キャラなのだが、こんなに憎めない男は珍しい。「俺だってそんなにバカじゃな」の「い」まで言わせないでアニキが「バカだよ!」と被せてくる。この呼吸が何回も繰り返されていくと、ますます可笑しくなってくる。入船亭小辰も、この呼吸をうまく演っていた。

 バカと言っても、いろいろなバカがある。柳家三三一席目の『近日息子』にもバカな息子が出てくる。あまりのバカさ加減に親父さん「だから上総屋(かずさや)のバカ息子って言われるんだ」とぼやく。と、それに息子が「何のヒネリもない言い方だね」なんて言うものだから、親父さん,ますます怒りが込み上げてくる。それにも「心中お察し申し上げます」なんて答えるものだから、ハハハ、それこそ親父さんの心中お察ししちゃうね。

 バカと言われても平気な『鈴ヶ森』や『近日息子』の能天気なキャラクターだけなら「バカ」と言われてもいいが、二席目『首提灯』のお侍ともなると、そうはいかない。酔った勢いで通りがかりの侍に、言いたい放題の町人。唾まで吐く始末。さすがに侍の目の色が変わるる。そこへ、さらに「怒ったか!? バカ!」なんて言ったものだから、侍の腰の物が一閃。しかし町人、何が起こったかわからない。「ズボラな百姓じゃあるめえし、肥(声)かけてそれだけって・・・」と気が付けば首を斬られている。有名なこの噺の見立てオチは、それこそ、「そんなバカな」

 仲入り後は『梅は咲いたか』の出囃子に乗って登場。熱海の梅園の土産物売りや、梅で有名な湯島天神のマクラから『質屋庫』へ。なるほど、学問の神様菅原道真を祀った梅の湯島天神は、この噺のサゲに繋がってくる。うまい演出とマクラだ。バカじゃ出来ない噺家稼業。だからといって学問だけじゃ、こういう上手い構成は考えられないんだろうけどね。

2月23日記

静かなお喋り 2月22日

静かなお喋り

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