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客席放浪記

月例三三

2016年9月15日
イイノホール

 柳家ろべいが、「来年三月、真打昇進が決まりました」と挨拶すると拍手が沸いた。「名前をどうするかなんですが、私、東京農工大出身なものですから、人から柳家素柳枝なんてどうだ」と言われまして・・・」。アハハハハ。来年の真打昇進を前にして師匠の喜多八が亡くなってしまったのはかわいそうだが、とりあえずおめでとう。
 初めて見る鯉の洗いの身が真っ白なのに驚いた『青菜』の植木屋さん、「漂白剤で洗ったんですか? 漂白剤は塩素系ですか、酸素系ですか?」。驚く隠居さんに、「理系なもので」。この理系の植木屋さんが大うけで、このあとの三三の噺のなかでも、「理系」は何回かキーワードとして使われることになった。こういう連携って楽しい。

 今日で三か月目になった柳家三三『嶋鵆沖白浪』は、『五』と『六』。『二』から登場したお虎が、吉原の花魁になり花鳥と名乗ることになる。いわゆる『大坂屋花鳥』の部分。私は10年前と4年前に、むかし家今松で聴いているが、吉原に火をつけるところと、三宅島に流されてから島抜けをするところを中心にした一時間程度のもの。今回ようやく『嶋鵆沖白浪』の全貌が聴ける上に、じっくり噺を楽しめる。『二』で登場した時のお虎はかわいさを見せると同時に、喜三郎をヤクザたちから助出すという男勝りなところもある人物。それが吉原で花魁になった途端に悪女に変身する。
 『五』では花鳥は貴三郎によく似た武士の梅津長門をを骨抜きにしてしまう。ついに金に困った長門は見ず知らずの人を殺して金を奪い、花鳥のもと通うことになる。殺人の場面の凄惨さも息を飲むが、長門を逃がすために吉原に火をつけるくだりは、サスペンスたっぷり。紅蓮の炎が瞼に浮かぶようだ。
 『六』は伝馬町の牢での噺。拷問に耐える前半部分、嫉妬に狂って牢での同居者殺しの後半。いやもう、その噺の展開のスピーディで面白いこと! 
 今日だけで、吉原を舞台にしたサスペンスものと、監獄ものの二つの、まったく違った噺の世界を聴くことができた。談州楼燕枝のストーリーテリングの巧さに舌を巻くと同時に、三三のテンポよくわかりやすく、それでいて迫力ある語り口に我を忘れて聴き入ってしまった。
 あと三回。半分まできたが、この物語が終わってしまうのが惜しい。もうそんな気持ちになってきた。

9月16日記

静かなお喋り 9月15日

静かなお喋り

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