セマイ落語研究会 立ち食いそば 2015年8月19日 国立演芸場 入口でカードを渡された。これは仲入り後に林家二楽に切ってもらう、お題のリクエストカード。喉を手術して以来、声がまともに出なくなってしまった私には、こういうシステムは助かる。お題は立ち食いそばに関するものとなっているので、しばらく考えて記入し、係の人に渡す。 この落語会は、立ち食いそば縛り。柳家喬之助は『蕎麦の殿様』。これは立ち食いではないが、まあいいか。殿様が作るまずいそばの噺だからねぇ。ハハハハハ。それにこの噺、珍しいよ。さあて、私は一度どこかで聴いた記憶があるのだが、はて、どこで誰のを聴いたんだっけ? 一生懸命思い出そうとするのだが、どうも思い出せない。なにしろこの噺、殿様が自己流で、酷いそばを打つってだけの捻りの無い噺。いまいち面白くないから演じ手が少ないんだろう。ツナギ無しの十割そばを打つのにそば粉だけだと硬くて打ちにくいってどうなんだろう? 私はそば粉十割のそばなんて作ったことは無い。硬いかどうかは知らないが打ちにくいことは確かだろう。第一、初心者だったら麺は繋がらないと思うなぁ。それはさておき、この噺、もうひと捻り加えて面白く出来ないだろうか。サゲも予想が付いてしまうし。 三遊亭白鳥には、ここでは取って置きの噺がある。自作の『アジアそば』。この噺、最近ではほかの人も演るようになって、本家白鳥版は久しぶりに聴いた。やはり白鳥版はスピード感があるし、インド人のそば屋の怪しげ感は、この人ならでは。実際にある立ち食いそば屋の実名を出してディスる危険さも織り込んで、実に楽しい一席。サゲが『蕎麦の殿様』と同じだということで、急遽サゲを変えてきた。おそらく自分で作った時にいくつかサゲを考えたのだろうな。思えばこの人には『時そば』ならぬ『トキそば』もある。『時そば』自体、屋台の立ち食いなんだから、それでもよかった気がする。 『時そば』といえば、そのマクラでのコロッケそばの話が有名になってしまった柳家喬太郎。それじゃあ喬太郎は『時そば』かなと思っていたら、ネタおろしの新作『立ち食い幽霊』。立ち食いそば屋の主人が、毎月、仲の良かった夫婦の月命日に、かき揚げそばを供物として捧げている。そこへ幽霊になって出てくる夫婦。このかき揚げそばを毎月食べたくて成仏できないでいる。そこへ今度は、ビンボー生活をしている彼氏を連れた、この家の娘が現れる。腹を空かしている彼氏に、こっそりそばを作ってあげるのだが、出来上がった蕎麦はグラグラ煮え立つほど熱い上に、そばつゆが濃すぎて飲めない。それを見ていた幽霊はある行動に出る。いかにも喬太郎らしい、ほのぼのした中にも、どこか凶暴なギャグの入る一席。まだネタおろしの段階だから、これからもっと膨らんで行く予感がする。 仲入り後、まずは林家二楽の紙切り。リマエストカードの中から喬太郎がセレクトして、二楽に切らせる。一つ目は「一味と七味」。「それ本当に欲しいんですか? ただ私を困らせようとしているだけなんじゃないですか?」と言いながらも「はい、わかりました。それでは切ります」と言って切り上げたのは、七色仮面と悪者一味。ちなみに東京下町限定の言葉で、七味唐辛子のことを七色(なないろ)と言う。二つ目は「立ち食いそば屋をしている進撃の巨人」。巨人が丼の中から人間を掴みだして食べようとしているところ。 そして三つ目、うれしいことに私が書いたお題が選ばれた。「発車のベル」。これならイメージが湧いて切ってくれるんじゃないかと思って書いたお題。よかった〜。ついでに一つ目と二つ目のお題のアナザーサイドB面もいただくことができた。 出演者四人による、立ち食いそばトーク。みんなそんなに立ち食いそばを食べているのかというくらいに詳しい。どの繁華街に立ち食いそばのチェーン店がどれだけ出店しているかなんていう話題で盛り上がる。白鳥が「オレ、立ち食いそば屋の天丼が好きなんだけど、かき揚げそばを頼んで、上に乗っているかき揚げを十分汁を吸わせて、ご飯を貰って、その上に乗せて食べるの」と発言したら、すかさず喬太郎が、「それは矢来町(古今亭志ん朝)式だよ」と言いだした。「上野と人形町にある翁庵・・・人形町はおやめになったようですが、そこの、ねぎせいろって、温かいつけ汁にイカのかき揚げが入っているそばのかき揚げを、小さなご飯を貰って乗せて、あとから天丼にして食べるんだよ」。うれしいねぇ、ウチのこと話してくれてる。 そのあとは、カレー南蛮、冷麦、かつ丼うどん、緑のたぬきを食べる仕種大会。 いや〜、今夜は、いろいろな意味で実に楽しい夜になりました。 8月20日記 |