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客席放浪記

先代

2013年1月23日
下北沢・楽園

 小宮孝泰ひとり芝居、三作目。
 弁護士『接見』、鉄道員『線路は続くよどこまでも』ときて、今回は落語家。

 下北沢ならぬ下北の寂れた劇場で落語をやっている男・朝日楼遊玉。そこへ東京から朝日楼一門のご贔屓の旦那が訪ねてくる。遊玉の師匠が自分の名前を継がないかと言っているとの知らせ。本来ならば謹んで申し出をうけるところだが、素直には喜べない事情、曰く因縁がある。

 ひとり芝居は俳優ひとりで演じる芝居。多くは芝居の中の一人物を通して進行するが、前作『線路は続くよどこまでも』で多人数を演じるという手法を取ったのを引き継いだのか、今回は三役を場面に応じて、どれかの役になって進行していく。その役柄とは、

一、朝日楼遊玉
二、遊玉の女房
三、贔屓にしてくれている旦那

 このどれかになるわけだが、変わり方は基本的には上手に衣装を着替えるスペースがあり、そこで変身する。イッセー尾形が芝居が変わるごとにやっている手法だが、小宮の場合は一本の芝居の中。当然間が空いてしまうわけにはいかないので、メイクは変えず、上から着物を羽織ったり、小道具を変えたりする程度。それも着替えスペースには置かず、黒子が手渡し、芝居はほとんど切れ目なく進む。場を繋ぐのはアコーディオンの音楽と、黒子が場面転換でセットを動かすだけ。ときには演技しながら、役柄がすり替わっていく巧妙な演出もある。
 これはやはり、ひとりで何役も演じる落語の手法も取り入れているのかもしれない。

 演じられることはないが、自分の名前を継いでもらいたいという師匠の希望。遊師匠の名前を襲名することへの弟子の遊玉の複雑な心境。売れない落語家の妻になった女性の考え、そしてある事実。一門を贔屓する旦那の深い思い。それらが混然となって進行していく。
 ひとり芝居で、これだけ多面的に何人もの人物を描いたのは珍しいのではないか。特に三役の中に女性が入っている点。今までのひとり芝居だと、男性が女性役を演るからには、ちゃんと女装してやらないと女性にならなかった。しかも場合によっては、オカマに見られかねない。それが落語というテーマ、手法になると、まったく違和感が無いのが斬新で面白かった。

 こうなると、早くも第四作が気になるところだが、今度はどんな役になるんだろう。コント赤信号を思わせる三人コントの芸人なんてのを観たい気がする。

1月24日記

静かなお喋り 1月23日

静かなお喋り

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