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客席放浪記

扇辰日和vol.57

2015年11月21日
なかの芸能小劇場

 この会始まって以来の満員御礼。キャンセル待ちが出て、何人かの人には帰ってもらうことになったという盛況ぶり。それというのもゲストが桃月庵白酒ということもあるが、その白酒も扇辰も、九月に池袋演芸場昼の部で口演した三遊亭白鳥の『任侠 流れの豚次伝』シリーズのなかの一席を、この会でもう一度かけるというネタ出しがあったからに違いない。池袋演芸場の昼の部に一度だけかけて、あとはお蔵。観に行けた人は少ない。それを土曜日にかけようというのだから、この手の落語好きは集まるわけだ。

 開口一番前座さんは、入船亭辰のこ『たぬ札』。このあと上がった白酒に、「ネタかついている」と言われてしまった。ああ、『任侠 流れの豚次伝』は動物たちが言葉を話す噺。そういわれれば『たぬ札』もたぬきが人間の言葉を喋る噺。白酒は「ネタがついたんじゃなくて、あえてぶつけてきたんでしょう」と言っていたが、それでいいんじゃないでしょうか。今のお客さん、そんなこと気にしてない。前座修行頑張ってね。

 マクラで「二度と演りたくなかった」と言う桃月庵白酒。いやだいやだと言いながら柳家喬太郎が『任侠流山動物園』を嬉々として演っていたりするから、案外本人も楽しいんだと思う。白酒の担当したのは『任侠 流れの豚次伝 第1話豚次誕生秩父でブー!』。基の白鳥の噺も聴いたことはなかったがこれは面白かった。秩父の養豚所で生まれた豚次が自分はいずれ人間の食べ物にされると知り、脱出。狸と熊に武術を習い強くなる。某空手映画と某ボクシングマンガからのそっくりいただきな部分があって大笑い。具体的な作品名は言ってないけれど、これはバレバレ。そこがまた可笑しい。白酒もなんだか演っていて楽しそう。演る場所を選ぶことになりそうだが、またどこかでかければ、ぜひとも聴きに行きたい。

 一方の入船亭扇辰。こちらは『任侠 流れの豚次伝 第6話男旅牛太郎』。こちらは流れの豚次でも、豚次が出てこない番外編とでもいうもの。行方不明になった豚次を心配して、流山動物園から牛の牛太郎が東海道を西にやってくる。そこで名古屋で待ち構えていたのが犬の親分。これに以前の噺で登場していた虎や、したたかな猫の女がからむドラマ。今思わず、人間ドラマと書きそうになってしまったが、扇辰の手にかかるとこの噺、基の白鳥のギャグをぜーんぶ捨て去ってしまっている。残ったのは骨格となるストーリーだけ。それを構成しなおしているものだから、牛も犬も虎も猫もまったく意味がなくなってしまった。普通に聴いていると人間しか出てきてなくて、名前だけが牛らしかったり犬らしかったり。よく言われるように白鳥の作る噺は骨格はかなりオーソドックス。それに白鳥流の、やや毒のあるギャグを分厚く塗り固めてある。これを扇辰は、ギャグを取り去り、極めて端正な物語として提示してみせた。ただ、あまりに笑いもなく進むので、途中で聴いていて、やや疲れてしまった。この噺も私は基のものを聴いたことがない。一度、白鳥版のものを聴いてみたいなぁ。

 扇辰に言わせると、白鳥の作る噺は登場人物が多すぎるために、本人もカミシモがわからなくなってしまうんだとのこと。仲入り後の『徂徠豆腐』は登場人物も少なく、噺自体も複雑なものではなく、ベタな笑いもない。こういうやや地味な噺が扇辰の得意とするものなのかもしれない。豆腐屋から豆腐をもらって、おいしそうに食べる所作なども抜群に上手い。さすが安定した落語で、落ち着いて聴いていられるところがある。ただ私の好みからすると、落語を聴く楽しみというのは、ときにはっちゃけちゃうのが落語というもので、あまりに端正に語られると疲れてしまうのですよね。一度、白鳥の噺をオリジナルに忠実に演る扇辰の姿をみせてくれないかなぁと、ちょっぴり思ってみたり。

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静かなお喋り 11月21日

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