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客席放浪記

2012年10月24日志の輔らくごinACT(赤坂ACTシアター)

 1300席を超える大ホール。立川志の輔本人も言うに、落語向きのホールとはとても言えない。毎年この時期になると、志の輔がここで落語会をやる。行こうか行くまいか迷う。それでもほぼ毎年足を運んでいるのは、何かしら志の輔なりの工夫があるんじゃないかという期待感から。

 今年のポスターは、志の輔の名前や写真より大きく『中村仲蔵』の文字。志の輔の『中村仲蔵』は何回か聴いており、少しずつ進化してきた過程も体験してきている。いわば志の輔の十八番。ここにきて、わざわざネタ出しまでしているからには何かがあるのだろうと、チケットを購入した。

 18時30分、ほぼ定刻開演。浴衣姿の立川志の輔が出てきて、今年四月、新橋演舞場で『仮名手本忠臣蔵』を観て感動したという話をして、これから『中村仲蔵』を演る前に、『仮名手本忠臣蔵』の内容を一気に紹介してしまうと言い出す。

 なるほど、以前『牡丹燈籠』完全版を目指して、落語の前にこの膨大な噺の解説を入れたことがあったが、今回は『中村仲蔵』に関連する五段目が、いったいどういう位置にあり、そも『仮名手本忠臣蔵』とはどういう噺なのかということを、主に歌舞伎を観たことのない人に向けて、説明しようという試み。

 私の歌舞伎体験は何回かあるが、たいてい途中で寝てしまったという経験から、いまだに敷居が高いという感がある。『仮名手本忠臣蔵』は通しで観るとなると12時間くらいかかるらしいのだが、それを志の輔はパネルを使いながら、コンパクトに、それでいて面白く一時間で解説してくれた。

 なるほど、赤穂事件と『仮名手本忠臣蔵』は異なったものなのだという、基礎の基礎から教わった気がする。

 仲入り後が『中村仲蔵』。途中、鳴物が入る。それも寄席の鳴り物ではなく歌舞伎そのままの音が入る。なるほどこれは小さな小屋では、あの歌舞伎の空間、空気というものが感じられまい。この噺に関してはもう何も言うことはない。志の輔十八番なんだもの。1300を超す観衆が志の輔の落語に引き込まれる。

 面白いなと思うのは、歌舞伎って、こんなに役者にとって自由な世界なんだろうか? 演劇の場合、演出家というものがいて、その指示に従って役者は演技をする。そこには勝手な事は許されない。しかし、落語で聴く限り、歌舞伎って何て自由なんだろうと思う。ほとんど役者が自分で勝手なプランで演じているではないか。これって、落語に似てはいまいか? 一応誰かに教わるという形を取るが、教わってしまったらあとはどう変えようが本人の自由。

 歌舞伎が本当にそんなに自由な形態なんだとしたら、本気でまた観てみようかなと思うのだが。

10月25日記

静かなお喋り 10月24日

静かなお喋り

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