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客席放浪記

志の輔らくご in Parco 2013

2013年1月22日
渋谷Parco劇場

 八年目だという立川志の輔Parco正月一ヶ月興行。「一ヶ月やってますから、一日くらい来られる日もあるでしょうから来てください」とは志の輔の言葉ではあるが、肝心のチケットは大人気で入手難が続いている。それでも、落語というものはこの程度の規模の劇場で観るのが限界だと思う。Parco劇場は椅子の座り心地もいいし、どこから観ても高座は観やすい位置にある。東京にたくさんあるホールの中でも、こんなに落語にも向いている劇場は、ほかにないと言っていいだろう。

 一席目は、もう長年かけ続けている新作落語『親の顔』。テストの問題に思いもよらない回答を書いてくる生徒と、それを上回る回答を持ち出すその親。談志の遺伝子を継いだ志の輔のひねった、あるいはひねくれた論理が見事に詰まった一席。
 「81個のみかんを三人で均等に分けるにはどうしたらいいですか」
 子供の回答「ジューサーにかける。大きいのや小さいのもあるし、甘いのも酸っぱいのもあるから」
 父親の回答「バカ! 正しくは81個はジューサーに入りきりませんだ」
 私の回答「大きな容器を用意すればいいだけの話だと思いま〜す。ジュースにしちゃうとどっちにしても大した量ではありませ〜ん」

 二席目は今年の新作『質屋暦』。旧暦から新暦に切り替わったときのエピソードを志の輔自身が取材してまとめた解説というのかマクラというのか、それが長い。興味深い話ではあるし面白いのだが、あまりに長いので途中で、ややこっちが疲れてしまう。それもそのあとの噺に繋がるという意味では重要なのではあるが。
 落語でよく言う「女房を質に入れてでも」を逆手にとって、それじゃあホントに入れたらどうなるかという発想で作られたらしい噺。ここでも立川流並びに志の輔らしい論理のひね繰り返しが効いている。ここ数年、笑わせようとして空回りしたり、人情ものに行ってちょっと「う〜ん」と思っていたが、今年の新作は、志の輔らしさが出てよかった。この噺、前半をもう少し整理して定番化していくといいなぁ。

 仲入り後は『百年目』。普通にやっても尺が4〜50分ある噺。志の輔がやると案の定一時間を超えた。それほど増やした場面は無いと思うが、店の旦那と番頭がニアミスした翌朝、旦那が番頭を呼んで話をするところで、旦那が番頭に茶を入れてあげるところは、志の輔の工夫かもしれない。前日に店に帰ってきた旦那が、番頭は風邪をひいて寝ていると聞き、聞こえよがしに「大切な番頭さんだ。医師にかかった方がいいと思うがな」と声を張り上げるところは、まだひょっとして店の金を使い込んだんじゃないかと疑っているからだろう。それが一転、翌朝は帳簿に穴が開いていない事を知り、番頭さんにすまないと思ったんだろう。態度が変わっている。一方、聞こえよがしな声を聞いた番頭は、自分は暇を出されると震えあがったということは理解できる。
 ここには、談志イズムたる、ひねくれた論理は無い。胸にそのまま入ってくる。おそらく談志は『百年目』を演らなかったと思うが。
 人を雇う側、人の下で働く側の思いを描いたこの落語、ぜひ世の中の会社経営者、社員どちらの方にも聞いて欲しいと私は思っている。
 談志にはできなかっただろうね、こういう噺。

1月23日記

静かなお喋り 1月22日

静かなお喋り

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