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客席放浪記

橘連二 夢になるといけねえ 出版記念の会

2016年11月14日
国立劇場小劇場

 開口一番前座さんは春風亭一花『たらちね』。女性がやる『たらちね』っていいものだなぁ。前座修業頑張ってね。

 いつものように猫背で客席に向かって何度か軽いお辞儀をしながら出てくる神田松之丞。これが釈台の前に座ると一転して彼の世界にググーッ引き込んでいくのだから面白い。いつもながらの長いマクラで笑わせておいて、「相撲っていいですね」と話し出したから、これは『谷風の情け相撲』かなと思ったら、これがなんとなんと!(松之丞の口調が移っちゃったよ)『寛政力士伝 雷電の初土俵』。初土俵でいきなり幕内。「これを落語に例えると、前座見習いからいきなり真打!」。大きい強い、勝率九割六分二厘(だったかな?)。初土俵から破竹の連勝を続ける雷電の取口を迫力で読み上げる。その怒涛の如くの高座を終えると、また猫背で何度もお辞儀しながら舞台袖にはける松之丞。このギャップがまた楽しいんだな。

 柳家三三が高座に座るなりスッと噺に入った。あっ、これは『不幸者』じゃないか。今から十年ほど前、『東京かわら版400号記念の会』があって、そこで三三がやったのを聴いたのが、私は最初で最後。圓生→圓窓と受け継がれて、今この噺をやるのは私の知る限りでは三三ひとり。地味だが、とてもいい噺で、最後のオチでニヤリとさせる。三十分くらいあるが、これを飽きさせずに聴かせるのは、なかなかできるもんじゃない。

 仲入り後は、遠峰あこのアコーデオンと歌。いつもの『シウマイ慕情』(崎陽軒CMソング)から始めて、『秋はうれしや』、『秋田音頭』。『ヤーサカリンリン』。そしてヨーロッパ・ツアー中に作ったというシャンソン風のオリジナル『哀愁のマグロブツ』。フランスでも歌って受けたそうだが、歌詞の説明はしなかったそうだ。スーパーで売れ残って色が悪くなって半額シールを貼られてしまうマグロブツの歌なんて説明のしようがないって、もっともだよなぁ。アハハハハ。

 トリは立川志の輔。橘連二の本のタイトルにひっかけて、いきなり『芝浜』に入ったとみせたが、これはフェイク。志の輔が『芝浜』をやったというのは聞いたことがない。なにしろ『芝浜』は談志が得意としていた演目。これをやるのは少し憚られていたのかもしれない。しかし談志亡き後、志の輔が『芝浜』をどうやるのか聴いてみたかった。
 「日本橋本町三丁目に和泉屋与兵衛という呉服屋がありまして・・・」と噺に入った途端に、思わず「あっ!」と声を出してしまった。『帯久』じゃないか。パルコで聴いて以来だ。あれからもうもうずいぶんたつ。また聴きたいと思っていたのだが、ようやくまた出会えた。これも『不幸者』と同じで、今では誰もやらなくなってしまった噺。遥か昔に圓生で一度だけ聴いた記憶があるのだが確かなことは言えない。上方ではどうなんだろう? 大岡政談もののひとつなのだが、噺としてはなんだか嫌な噺なのだ。いかに落語は人間の業の肯定だとはいえど、これは嫌だ。帯屋の了見も嫌だが(なんであんないい人の和泉屋の旦那を逆恨みしなけりゃいけないんだ?)、大岡越前のお裁きも嫌がらせみたいで好きになれない。それなのに長い間聴かないでいると、また聴きたくなるという不思議な噺。
 家に帰って、You Tube で圓生のものを聴いてみたら、志の輔はサゲを変えてあった。志の輔のものの方がわかりやすい。

 毎日のように高座の写真を撮り続けている橘連二。かなり知識もあり、耳が肥えているはず。三三と志の輔のネタは彼からのリクエストだったのかもしれないな。

11月15日記

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