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客席放浪記

深夜寄席

2015年5月9日
新宿末廣亭

 地下鉄の駅を出ると雨だった。そういえば天気予報で今夜は雨が降るかもと言っていたのを思い出したが、もう遅い。深夜寄席は21時15分ごろの開場まで、外に並んで待たなければならない。コンビニに行って傘を買い、列の最後尾に付く。

 深夜寄席は、あいかわらず毎週大入りが続いているが、今日はまた一段とお客さんの数が多い。左右の桟敷席は何回も「お膝送り」が行われていたが、それでも入りきれなくて、客席後方にも立見が出ている。これはやはり松之丞が出るからなのではないかと思われる。ちょうど一年ほど前、やはり松之丞が出たときに入った深夜寄席も同じような大入りだった。

 マエセツで松之丞らから、「楽屋で緊張しているから出てきたら面白くなくても笑ってやってほしい」と言われて出てきた三遊亭遊里。そんなに緊張した様子もなくマクラで笑わせながら『まんじゅうこわい』。「お前は何が怖い?」「フナ虫。こいつに餌あげよとして、目の前に鮒を置いたら無視するんだ」「シャレかよ! そっちは?」「カメ虫」「もういいよ」「チーター。動物園でチーターの檻の柵に手をかけてたらチーターに手を引っかかれて。血ーたー」「そっちもシャレかよ!」「受けないギャグ」「そりゃ確かに怖い」「うちのかみさん」「現実的だな」

 前の遊里が長くやってしまったので15分しか持ち時間がないと言う春風亭昇々。それでも風俗の体験談をマクラに『お見立て』。少なくとも20分はかかる噺だろうにと思っていたら、やはり時間が足りなくなって、杢兵衛大尽を山谷に案内する部分を大きくカット。墓の前に来たところに突然持って行くという荒業。アハハハハ。でも、この人の『お見立て』、喜瀬川花魁と杢兵衛大尽、どちらもぶっ飛んでいる。いや〜、どちらも見事に嫌な奴だわ〜。特に喜瀬川をこんなに嫌な人物にしたのは初めて聴いた気がする。いつかたっぷり持ち時間があるときに聴いてみたいな。

 「テレビドラマが好きで、一シーズンに4〜5本観ています。でも最後に『この番組はフィクションです』と出るのが嫌ですね。どんなドラマも映画も落語だってフィクションです。最近では『クローズアップ現代』も・・・。このフィクションというキーワードを頭の隅に置いて、これから入る噺を聴いてください」と春雨や雷太『春雨宿』。えっ!? 最後に「この落語はフィクションです」ってサゲるつもりか・・・と思っていたら、アハハハハ、そういうことね。

 神田松之丞は二ツ目になって三年というところだが、すでにして大物感が漂っている。ちょうど神田北陽(のちの三代目山陽)が出て来た時のような勢いを感じる。今夜は『天保水滸伝/ボロ忠売出し』を気合いもろとも読んでみせた。『深夜寄席』終演の23時を10分廻っていたことには気が付かないほど、引き込まれてしまった。

 いや〜、うれしい講釈師が出てきてくれた。ひところ女流ばかりになってしまった講談界だが、こういう人がまだ出てくるんだから、わからないものだ。

5月10日記

静かなお喋り 5月9日

静かなお喋り

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