深夜寄席 2016年3月26日 新宿末廣亭 上方落語に接する機会が少なかったせいもあるのだが、笑福亭竹三の『木津の勘助』は初めて聴いた。講談にもなっている侠客もの。その勘助に大商人の娘が惚れて結婚するというのが、この噺。へえ〜、こういう噺だったんだ。大金持ちの娘が女房で、持参金が三千両。人が困っているときに、ポーンと二百両用立ててやるって、それってそういうバックがあったればこそでしょ。大阪らしい噺だなぁ。男を上げるには、やはり逆玉になるのが一番。 瀧川鯉輪が、また人を食ったマクラで客席を沸かしている。坊さんばかりの前で落語をやったときのこととか、動物園の非常事態訓練の様子を見たこととか、これって本当なのかウソなんだかわからない。客席を煙に巻いて『初天神』。もうすぐエイプリルフール。この人、周りをどんな話で騙して楽しんでいることやら。 滝川鯉八の『やぶのなか』を聴くのはこれが二回目。最初聴いたときは「なんなんだ、これは」と意表を突かれた思いがしたが、今回聴き直してみると、今までの落語の手法とは全然別の手法を持ち込んでいることがわかる。普通の落語は登場人物が出てきて、お互いに上下に分かれて会話を交わして話が進行する。『やぶのなか』というのは、言うなれば映画のモンタージュ手法。四人の登場人物の誰かと誰が交わした会話を、喋った人のクローズアップだけにして切り取り、バラバラにしたものを再構成する。噺に入る前に「落語とは会話の妙だとされるが、それに反旗を翻した落語をやります」という意味がこれでわかる。このモンタージュ手法を取り入れたことで、四人の腹の内が、すべて見通せるという作り。これを落語というのかという議論も出そうだが、私は落語っていくらでも自由であっていいと思っている。 本日のトリは、この春真打昇進が決まった橘ノ圓満。何と53歳で真打だそうだ。早ければ高校を卒業して30代の前半で真打になる人がいるなかで、落語家になったのが40歳近くになってからというのだから、人それぞれの人生とはいえ面白い。今日が『深夜寄席』卒業公演というわけだが、力むこともなく『花見酒』を聴かせてくれた。 人生いろいろ。一度きりの人生だもの、自分の好きなように生きるのが一番だよな。 3月27日記 静かなお喋り 3月26日 静かなお喋り このコーナーの表紙に戻る |