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客席放浪記

神田阿久鯉・松之丞『天明白波伝』連続読み・中日

2018年5月8日
深川江戸資料館小劇場

 以前は講談というと、どうも積極的に聴きたいと思わなかった理由は、とにかく長くて冗漫だという苦手意識があったからだろう。一席が一時間近いのもあり、しかもテンポがゆっくりで、噺がなかなか進まない。さらには連続物の抜き読みとなると、いったいどういう噺のどんな部分かわからない。そして面白くなってきたところで切られてしまうから、結局なんだかわからないままになってしまう。
 松之丞の登場は画期的だった。長すぎる講談の一話をギュッと凝縮して、しかもテンポよく、それでいて熱っぽく語って聴かせる。
 今回の『天明白波伝』の連続読みでも、一日二時間〜二時間半の間に三席から四席押し込める。今まで通りにやっていたのでは全十席を三日間で聴かせることはできなかっただろう。

『第四話 むささびの三次』 神田松之丞
 稲葉小僧新助がむささびの三次と、金を持っているらしい寺に押し入るが、住職の抵抗にあい三次は住職を殺してしまう。八十両を山分けに。悪いやっちゃな〜。泥棒はしても人を殺しちゃいけない。
 三次には不倫相手がいる。鍛冶屋の六蔵の女房で女郎あがりのお登紀。ある日湯屋で六蔵はお登紀と三次がデキているという噂を耳にしてしまう。
 大山詣りに出掛けたと見せかけてお登紀をつける六蔵。案の定三次の家で密会しているふたりを見て逆上した六蔵はお登紀を殺し、三次を追う・・・。
 この事件がきっかけで泥棒に対する取り締まりがキツくなっていくというところで第五話へ。
 内容的に盛りだくさんの第四話。「25分で」と言っていたが、もっと短かかったような気がする。落語の『短命』や『厩火事』をクスグリに使いながら、わかりやすく熱の入った一席になっていた。

『第五話 むささびの三次召し捕り』 神田阿久鯉
 第三話に登場した金棒お鉄がここで出てくる。前半は金貸しで女郎屋を経営しているお鉄が、お茶をひいている女郎に尻に火箸を当てるという制裁をするという情景などが語られ、そしてそのお鉄の女郎屋に、むささびの三次が通って来るようになり、ようやく金棒お鉄と泥棒たちとの接点が訪れた。
 お鉄は、むささび三次の正体を察し通報。三次は獄門。
 このまま噺は終わってしまうが、どうやらこのあと稲葉小僧新助が三次の仇と、お鉄を殺しに行く噺があるそうだ。松之丞にその部分を補強してやらせたら、さぞかし面白い一席になりそうだが。

『第六話 悪鬼の萬造』 神田松之丞
 半助と萬造という泥棒コンビが上総屋長兵衛に押し入るが、上総屋長兵衛とは仮の姿、実は神道徳次郎の家だった。徳次郎と知って驚くふたりだったが、徳次郎はふたりに大金を渡し、まっとうな仕事をしろと諭す。ふたりはそれの金を元手に女郎屋を始めるが、萬造は仕事もせずに遊び放題。そのうち女郎屋は経営難に陥り、半助は萬造が留守の間に店を閉めてしまう。徳次郎のところに出向いた萬造は説教をされた腹いせに、徳次郎のことを番所に通報。徳次郎は江戸を旅たつことにする。

『第七話 首無し事件』 神田阿久鯉
 旅に出た神道徳次郎と稲葉小僧新吉は浜松までやってくる。そこで耳にしたのは、祝言の日に花嫁が首無し死体で発見されたという事件。徳次郎は首のない死体は生き返ることはないが、首のない死体は生きていることがあると言い出す。首無し死体は生きているという推理小説黄金のセオリーがここで出てきた。これ一席でも読み切りとして通用する。60分くらいある噺だそうだが阿久鯉は30分にまとめて聴かせてくれた。

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