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客席放浪記

失望のむこうがわ

2014年2月23日
Space雑遊

 三浦大輔の芝居は、2006年の、ポツドール『夢の城』からずーっと観続けている。一貫して描き続けてきたのは、無気力で無節操な若者とセックス。その演出はかなり過激。人によっては目を背けたくなるものもあっただろう。そしてここにきて『失望のむこうがわ』。平田満、井上加奈子夫妻による、アル・カンパニーの芝居。その作・演出という形。

 なにしろ、今までとちょっと違うのは還暦になった役者夫婦を主役にした芝居。今までおそらく三浦大輔がやったことがないタイプの芝居になるだろうことは想像がつく。どんな話になるのやらと、期待して観に行った。

 Space雑遊は、百人くらいしか入れない小さな劇場。舞台にはダイニングテーブルと四脚の椅子。そしてテレビ。三浦大輔の芝居によくあるようにテレビはつけっぱなし。平田と井上の夫婦の会話劇。夫が妻の携帯メールを覗き見したことから、妻の浮気がバレてしまう。子供はいないながらもふたりで、この年まで何事もなく過ごしてきたというのに、突然の事件。妻は許しを請うが夫は納得がいかない。

 妻はパチンコに行って、そこで知り合った若者と浮気を繰り返していた。もうすでに20回も会っていた(セックスしていた)。それが夫には許せないことなのだ。ふたりで北海道旅行したときに、摩周湖の霧が突然、奇跡的に晴れたことを夫は何回も繰り返して言う。自分たちは特別な存在なんだと。さらに許せないのが、浮気相手の若者には彼女がいて、妻はその彼女から慰謝料を請求されて、その契約書に判を押してきたというのが、なんとも納得がいかないのだ。

 夫は、浮気相手の若者(平原テツ)を呼びつける。土下座までして謝る若者。しかし本心が知りたくて、いったいどう思っていたのか無理矢理に引き出す。若者は、ババアとやって、それを面白おかしく仲間に吹聴していたということを打ち明ける。このへんはいかにも三浦大輔っぽいところが現れた。

 ボロボロに傷ついたふたり。ここで今までの三浦大輔だと、破局へ向かって行きそうだけれども、ふたりは徐々に再生への道を歩き始めるようなラストで終わる。

 今までのような過激な描写は無い。静かな会話。時に爆発。それでも掴みあったり、殴ったりは無い。つけっぱなしのテレビは時間経過を見せる以外にも、今、たいへんなことが室内で起こっていても、なんとなく点いていないと落ち着かない現代人を現しているかのよう。

 いつも絶望の果てで終わる三浦大輔の芝居が、こういう終わり方をしたのは珍しい。いつもは、カーテンコールなし、拍手なしで終わるのに、今回はちゃんとカーテン・コール、拍手で終わった。

2月26日記

静かなお喋り 2月23日

静かなお喋り

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