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客席放浪記

早朝寄席

2016年3月20日
鈴本演芸場

 その天然さが面白い三遊亭日るね。今日もマクラで、天然ドジエピソードをズラリと披露してみせている。二ツ目に上がった初高座で袴を破いてしまったとか、まだ客だった時に客席でお茶をぶちまけてしまったとか、この人のこの手のエピソードって、いったいどれくらいあるんだろうか。
 噺に入ってからも、この人の噺というのは、不思議な落語としかいいようがない。この人の落語に似たものを、今まで聴いたことがない。なんともホワッとしていて笑える。少女マンガに出てくるギャグキャラクターのように、落語の登場人物がカリカチュアされているとでもいうのだろうか。とにかくマンガチック。今日の『ろくろ首』の与太郎もそんな感じ。これは男の演じ手ではできない。私がこの人の落語を好きなのはそういうところなのだと思う。
 いわゆるフラのある人ということでいえば、今この人くらい面白いフラを持っている人は、なかなか思いつかない。

 鉄道マニアで、鉄道を題材にした新作の多い古今亭駒次は、今日もそんな落語『終着駅のエトランシジェ』。赤字鉄道路線の終着駅、それは商店に業務を任せた委託駅。そこにやってきた鉄道マニアの外国人が、そのままそこに居ついてしまう。やがてこの鉄道も廃線ということになってしまうのだが・・・。これはきっと鉄道マニアの夢なんでしょうな。鉄道にそんなに興味のない私にはピンとこないけれど、いい噺を聴いたなぁと思う。鉄道マニアだったら涙ものかもしれない。

 柳亭市江は、季節のネタ『花見酒』。花見客でいっぱいの向島まで三升の酒を持って行って商売しようと考えたふたりの男、向島に着く前に、ふたりですべて飲んでしまうという噺。朝っぱらからこんな噺を聴いていると、こっちも酔ってしまって眠り込んでしまいそうになる。

 去年、二ツ目に上がった柳家やなぎ。さん喬の弟子だそうだが、二ツ目になってから聴くのは初めて。しかし前座時代にはずいぶん聴いているぞ。白酒が自分の会でよく使っていて、ちゃんとマクラまでやらせていた。前座時代はまだ抑えた落語をやっていたが、果たしてどうなったのかと思ったら・・・。いやあ、すごいわこの人。さん喬の弟子とは思えない落語をやる。おそらく今日の『初天神』もさん喬から貰ったものだと思うが、さまざまな工夫を盛り込んでいる。この噺を大きく変えたのはおそらく三遊亭遊雀だろうし、そのあと多くの人が工夫してきた。やなぎの『初天神』も、まだ二ツ目になりたてながら、ちゃんと工夫がしてある。父親と子供の、屋台を前にした攻防戦は白熱している。さまざまな手を繰り出してくる子供だが、最後は策が尽きたと見せて逆転に持ち込む展開は壮観。北海道出身のご当地トリビアも入れ(道東ではアメリカンドッグとはいわずフレンチドッグといって砂糖がまぶしてある)、退屈させない。導入部を大胆にカットしたり、父親が飴玉を選ぶ部分をカットしたりして親子の攻防戦に絞ったのもいい演出だと思う。

3月21日記

静かなお喋り 3月20日

静かなお喋り

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