直線上に配置

客席放浪記

新宿末廣亭四月下席夜の部

2015年4月28日

 昼の部が終ったところで入場。昼夜入れ替え無しだが、今は昼の部の方がお客さんが多く、夜の部に入ると客席は空く。今日も昼の部は椅子席は満席。桟敷席には余裕があるといった入りだったそうだ。昼の部終了と同時にお客さんがドッと帰ったところで椅子席も空いた。

 開口一番前座さんは柳家さん坊『まんじゅうこわい』。もう前座生活四年を回っているようだ。しっかりした語り口で人物の演じ分けもはっきりしている。そろそろ二ツ目だね。

 二ツ目枠からは柳家小太郎。『やかん』だなと思ったら『魚根問』の部分で下りてしまった。持ち時間10分だったのね。「鯛というサカナは一匹では泳がない。タイをなして泳ぐ。先頭を泳ぐのがタイチョウ。その後ろがヘイタイ。はぐれて泳ぐのがグレンタイ」

 ひびきわたるのキセル漫談。久し振りに聴いた。結構新ネタも混ざっている。「おいでおいでおばあさん」なんていうのも笑える怪談ネタとして面白いなぁ。

 古今亭菊太楼『子ほめ』。この噺、前座さんがよく演るのでもう聞き飽きているのだけど、なぜか真打になった人が演るとものすごく面白いんだよね。それだけ奥が深いっていうのかな。

 柳家一琴の子供の夏休みの宿題を親が手伝うというマクラが可笑しい。読書感想文を子供の代わりに書いたら、「主人公の気持ちがいまひとつ理解できてない」と書かれて戻ってきて、落語家としてドキッとしたとか。アハハハハ。でも『初天神』の親子、親の気持ちも子供の気持ちもうまく理解して表現していたね。

 伊藤夢葉のマジック。喋りまくりマジック派のひとり。この人の師匠の伊藤一葉も喋りで煙に巻いた人だけど、この人の喋りはそれ以上に多い。この人のマジック、好きなんだ。

 柳家さん八を観るのは随分久し振りだ。噺はやらずに漫談。先代の柳家小さんと天皇陛下をめぐる事実談。小さんといえば、人間国宝になった人だし、園遊会にも招かれて陛下とお話をした人。しかし、この小さん、若い時に226事件に関与した過去がある。いわば国賊だという。いやあ、この話、面白いなぁ。こういう人の話を聞くためにも寄席に来なくちゃいけないのだよ。この人、まずホール落語で見かけることが無い。寄席にはまだまだ面白い人がたくさん眠っている。

 初音家左橋『粗忽の釘』。この人も久し振り。隣の家に行って男が話すのろけ話がやけにエロチック。平日とあって子供の姿も客席に見当たらず。いいねえ、こういうのが安心して聴けて。

 三増紋之助の曲独楽。この人も喋りが面白い人。今日は空港で日本刀を持ち歩いているのを咎められて別室に連れて行かれたエピソードを詳しく語っていくれた。

 三遊亭歌之介はいつもの『爆笑龍馬伝』だが、久し振りに聴いたらギャグがかなり入れ替えられていた。やはり寄席には頻繁に足を運ばないと。

 川柳川柳もいつもの。「ハワイ攻撃。ボクシングでいえばゴングが鳴る前に相手を殴りに行っちゃったようなもの」と言った後、お客さんに「笑えよ! 私、84歳だよ。私より上の人間はもう客席にいなくなっちゃったのかねぇ」と寂しそう。そうだよなぁ、84以上の人はもう寄席に来る元気も無くなっちゃってるかもね。日本の前打ちリズムとアメリカの後打ちリズムの違いを説明するのが上手くなっていた。残念なのはガーコンまで行かずに、「『歌は世につれ』でございました」と言って楽屋に引っこんでしまったこと。足腰も弱くなってきて、あのガーコン部分に自信が無くなって来たのかなぁ。

 仲入り後は橘家円太郎から。「先日歌舞伎座で四代目中村雁治郎襲名披露興行が行われていましたよ。ガンにジロウなんて病名みたい」と毒を吐いてから『権助芝居』。別に歌舞伎が嫌いじゃないようだ。

 漫才のホームランが三列目のお客さんに話しかける。「今日はお休みですか?」。どうやら知っているお客さんらしい。「鈴本の社員の方ですよね」。へえー、余所の寄席の人まで観に来ているのか。予定していなかった差し歯の話を始めてしまって、どうやら時間配分が狂ったらしく、不思議な終わり方。日高屋の野菜たっぷりタンメンの話が可笑しかった。

 柳亭小燕枝『短命』。この噺、最近はオーバーに演じる人が増えたが、小燕枝のはあくまでオーソドックス。最後に出てくるおかみさんも普通のどこにでもいそうな人物。「ご飯をよそって、渡しておくれよ」と言われて、「外で寂しいことでもあったの? 甘えたくなったら、いつでもなぐさめてやるよ」なんて返す。いいおかみさんじゃないの。

 桂南喬『鰻屋』。サゲ近くになって「糠」という言葉が出てこなくなったが、うまく乗り切った。南喬はまだ60代だが、やはり突然に名詞が出てこなくなることがあるのかもしれない。私も人のことは言えないのだよ。こんなのしょっちゅう。

 鏡味仙三郎社中の太神楽曲芸。いつものことながら仙三郎の、どびんはいぶし銀の業だね。

 トリは柳家さん喬。おっ、今日は大好きな『百川』だ。さん喬の百兵衛はなんともほのぼのとして好きなんだなぁ。クワイのきんとんを飲み込んで目を白黒させるところなんて、なんとも可笑しい。これをやりすぎずに適度な力加減にするところがユーモラスでいいんだな。

 やっぱり寄席はいいね。これからもなるべく足を向けるようにしなくちゃ。

4月29日記

静かなお喋り 4月28日

静かなお喋り

このコーナーの表紙に戻る

トップ アイコンふりだしに戻る
直線上に配置