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客席放浪記

粋歌の新作コレクション2014冬

2014年12月16日
内幸町ホール

 開口一番、前座さんは柳亭市助『一目上がり』。前座修業頑張ってね。

 今年は自作、他人から貰ったものを含め、七席の新作落語をネタおろししたという三遊亭粋歌。古典は三席だったから全部で十席。七割が新作というのは初めてのことだと言う。一席目は私は聴くのは二回目になる『銀座なまはげ娘』。ああ、去年四月の『いつかは朝日名人会』だったっけ。あれからずいぶんあちこちでかけているらしくて、すっかり喋り慣れた感じ。代表作になりつつあるのかも。

 二席目は一番最近に出来た噺で、ことによると何回かかけて、もうやらないかもしれないといういう噺『卒業』。私は今日の三席の中では一番面白いと思った噺で、これをボツにしてしまうのは惜しい気がする。ある男が女性の前に突然に現れ、「私、あなたから卒業します」と告げる。この告げられた女性松本さんにとっては、この男性は見ず知らずの人間の上、何を言われているのかわからない。実はこの男、松本さんの秘かなストーカーだったのだが、もう止めると言うのだ。男の話が進むに従って、この女性は現在三十路の独身女性。男は43歳の登山家だということがわかってくるのだが、男は松本さんが高校生のころからのストーカー。松本さんの痛い人生をみんな知っているという噺。この、男と女の現在の年齢が後になっていくに従ってわかってくるという手法が面白くて、私は気に入ってしまったのだが、ストーカーという題材がご本人は、「こんなことを考えているのか」と思われるのが嫌で、あまりやりたくないらしい。でもこれ、面白い作りの噺だと思うな。

 ゲストは柳家喬太郎。喬太郎の定番マクラの中でも、私が秘かに『新橋の悲しみ』と名付けている大好きなマクラから、『同棲したい』。還暦間近の男が妻に離婚届の用紙を差し出し、「離婚してくれ、そして同棲しよう」と言いだす。若い頃に同棲に憧れたことのある男。ふたりで家を出て三畳一間のアパートを借りて同棲生活を始めるという、ぶっとんだ噺。これも最後の方に来て、しがないサラリーマンと思っていたこの男が実は専務だとわかる展開。喬太郎には『午後の保健室』という、この手の凄い噺があるが、こういう風にスパイスを利かせて使われるのは面白い。

 粋歌、三席目。実家の母親のところにオレオレ詐欺の電話がかかってきたというマクラから『オレオレ』。町内の一人暮らしのおばあちゃんの家がゴミ屋敷になってしまっているので、町内の人が説得に行くのだが、まるで応じない。そこでこのおばあちゃんの息子に成りすまして、おぱあちゃんのところに電話をして説得するのだが、という噺。これも話が進むにつれ、おばあちゃんがなぜゴミ屋敷に住んでいるのかが明らかになっていくという構成。三席の中では一番ヒューマンな内容。聴き終って、いい気持ちにさせてくれる、なかなかの力作だった。

12月17日記

静かなお喋り 12月16日

静かなお喋り

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