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客席放浪記

月間「根本宗子」
スーパーストライク


2017年10月24日
ザ・スズナリ

 どうも記憶が曖昧なのだが、私は幼稚園および保育園に通っていた時に、園内で仲間と遊んでいたという記憶があまりない。思いだすのは誰とも一緒に遊ばずに、ぼんやりと庭を眺めていたという記憶。実際はお遊戯などをしていたのだろうが、そういう記憶がまったく残っていない。
 小学校に入ってからの二年間というのは。もう学校生活で楽しかったなんていう記憶がなくて、学校に行くのが嫌で嫌でたまらなかった。勉強は大嫌いだったし、担任の先生ともクラスメイトともうまくいかなかった。友人は何人かできたが、クラスのなかに溶け込んで休み時間に一緒に遊ぶなんていうことはできなかった。おそらく人のなかに入っていくのが苦手だったのだろう。そのうちにどうもクラスでも浮いた存在になってしまっていたらしい。もう自分のなかでは暗黒時代だった。
 やがて担任の教師も私にサジを投げてしまったようなところがある。全寮制の施設の学校があるから、そちらに行ったらどうだと勧められた。私としても、担任の先生が大嫌いだったし、クラスメイトともうまくいっていない。そういうことなら喜んで出て行く気になった。
 それからの小学校3年生から6年生までの4年間、私は親元を離れて全寮制の小学校で生活した。施設は静岡の山の中で都会で過ごして来た私には別世界だった。担任の先生はいい先生だった。そして近くに親がいないでひとりで全寮制の社会でやっていくとなると、頼るものは誰もいない。自分だけでやって行かなくてはならないとなると、周りとの関係をなんとか保つ必要がでてきたこともある。自然と周りに合わせて生きるようになった。

 なぜこんな自分の話から始めてしまったというと、『スーパーストライク』には、友達のできない男が登場するから。
 ミュージカルの役者を目指す青年が出てくる。名前は横手南(田村健太郎)。オーデションを受け続けているが、いつも選に漏れ落ち込む毎日。そんな気持ちを誰かに話したくても友達が誰もいない。誰か友達を作りたいと、勘違いから出会い系サイトに登録する。
 男からは誰も来ないなあと思っていると、3人の女性から同時に反応がある。一人目は足立麻里(長井短)。見るからに面倒そうな女。自分がイケてると思っていて、ツイキャスに1500人の視聴者がいて、それで収入を得ているらしい。最近視聴率が落ちてきたことを気にして犬を飼い始めているが、犬にはまったく興味がなく、ただ犬を出せば視聴率が上がると思い込んでいる。自意識過剰な嫌な女。
 その足立に憧れて同じマンションに住んでいるのが橘エイミー(ファーストサマーウイカ)。職業がトリマーということもあって、足立は犬の世話を橘にまかせっきりにしている上、パシリのように使ってもいる。
 三人目は黒川桃子。昔から自分をイケてないと思っていて、中高六年間、足立に憧れ続けていた。
 三人の女と横手との個人的付き合いが始まる。というか、横手は友達を作るのが下手で、友達を作りたくて出合い系サイトに登録してしまった男。付き合うという気持ちは女性側だけ。
 横手は三人と別々に会って遊んでいる。しかも女性と付き合った経験もなく、距離感がわからずハグしてしまったりするもんだから相手は本気になってしまう。「好き」と言ってほしいのに、「好きだよ、あくまでライクだけど」と煮え切らないものだから、「?」となってしまう。どうもミュージカルが自分の全てになっている横手はミュージカルのことしか考えられず、アメリカではハグすることは、それほどの意味じゃないだろとしか思わない。「ここはアメリカじゃなくて日本なの!」
 どうも横手はこの三人だけじゃなく、出会い系サイトから連絡のあった女性がもっといるらしくて、全員とお友達になろうとしているらしい。
 やがて四人が一度に会ってしまう日が訪れる。互いを罵り合う三人の女たち。あくまでも三人の女とお友達でいたい横手は三人を仲良くさせようとする。そして話は今度は三人の女と横手の対立という構図になっていってしまう。

 最後はうまく着地点に持って行ったなという感じ。
 舞台を二階構造にして、四人の部屋を割り振るというのがポツドールを思わせるし、女同士の裏表のある関係の描き方はプス会*を思わせるし、多分に笑えるところもあって、私の好みにスーパーストライクな芝居だった。根本宗子、ちょっとこれからも注目だな。

10月25日記

静かなお喋り 10月24日

静かなお喋り

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