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客席放浪記

鈴本夏まつり さん喬・権太楼特選会

2013年8月20日
上野・鈴本演芸場

 この番組は前座も二ツ目も高座に上がらず、いきなり真打の柳家我太楼が開口一番。前座噺の『子ほめ』をやってもさすが面白く聴かせる。前座さんが『子ほめ』をやると、「また『子ほめ』か」となるが、この噺、年期を積んだ噺家が演るとほんとに面白い噺だ。

 三増紋之助の曲独楽。「待ってました、ひまわり娘!」の声が飛ぶ。数年前から、紋之助が風車をやるときは『ひまわり娘』がかかる。「それほどのものじゃありません」と言いながらも、これもすっかり定着してきた様子。

 春風亭一朝『紙屑屋』だ。紙屑の仕分け作業をするのに、ついつい手紙やら本やらが混じっていると読んでしまう。この気持、よくわかるわ。今はインターネットの時代。パソコン作業をしていると、ついついどっかのサイトを覗いて読みふけってしまったりする。その気持ちは同じだね。

 この時点で18時。そろそろ会社も終わって駆け付けるお客さんも多い。前座さんがメクリの前で客席が落ち着くのを待っていると、入船亭扇辰がもう出てきてしまった。「時間がないものですから」と前座さんを帰して、すぐに『目黒のさんま』に。ちょっとさんまには早い時期のような気がするが、せっかちなのか、来月早々どっかでかける稽古がてらなのか。

 柳家喬太郎『鸚鵡の徳利』に、ようやく出会う事ができた。この噺は喬太郎が復活させた古典落語ということになっているが、実態は『法事の茶』と趣向が似ていて、喬太郎が落語家の形態模写、声帯模写をやりたい放題という噺。円丈、馬風、雲助と演ってみせて大受け。特に馬風は体型も似ているから可笑しい。

 当代江戸家猫八の息子さんが、動物ものまね師を目指しているというドキュメンタリーを以前観たが、知らないうちにデビューしたらしい。おとうさんの名前をそのまま貰って江戸家小猫。レパートリーも随分増えたようで、フンボルトペンギン、アシカ、トド、テナガザルなど今までにない動物も。これで話術を磨いて行けば、おとうさんや、おじいさんを超える芸人になるかも。

 喬太郎の落語と江戸家小猫が、ものまねでネタかついた格好だが、桃月庵白酒は出て来るなり、「うちの師匠(雲助)は、もっと小走りで高座に出てきます。それにあんな言語障害みたいな喋り方はしませーん! 最初のころよりだんだん酷くなってる」
 おっ、ネタは『粗忽長屋』。このところ白酒のこの噺は鉄板になってきた。「小粋なフラメンコ」(いき、だおーれ)から始まって、行き倒れ本人を連れてきたアニぃに、本人なる者が「こんな着物持ってない。アニぃこんなの持ってたじゃない。これ、オレじゃなくて、アニぃなんじゃないの?」「おれかなぁ」。混乱に拍車がかかってしまう。

 上方からのゲストは露の新治。「20年前に鈴本に来た時は、喬太郎も白酒もまだ前座で楽屋にいました。『がんばって』と声をかけましたが、いまや頑張りすぎでしょ!」
 パリでもアムステルダムでも朝は早い(ネスカフェ)が奈良も早いというわけで、『鹿政談』。確かにこういう噺は上方の言葉で聴く方がいいね。

 仲入り後は、林家二楽の紙切り。お題は、『盆踊り』に『高校野球』。先日の『二楽劇場』でも出たし、もう定番のお題。迷うことなくハサミを動かしていく。そして余裕なのか、喋る喋る。もう紙切りなんていいから、二楽のお喋りをいつまでも聴いていたくなる。

 柳家権太楼も出て来るなりね「喋りすぎですね」。昔の人の紙切りは、もう少し切り方が雑だったと二楽を褒めて、ネタ出ししてあった『くしゃみ講釈』。この十日間のネタは、あらかじめ発表されていて、私はこの権太楼の『くしゃみ講釈』が聴きたいがために、この日のチケットを買ったようなもの。さすがに可笑しくて、ドカンドカンと笑いが起こる。この空間を多くの人と共有しているのがうれしい。

 鏡味仙三郎社中の太神楽は、今日は仙三郎、仙三、仙四郎の三人。いつみても安定した曲芸だ。

 トリは柳家さん喬『文違い』。男と女、客と花魁の騙し合いの噺だが、さん喬が演ると、不思議とそんなに後味が悪くない。騙し合いなのにどこか滑稽で、悪い奴なのに、どこかみんな憎めない。
 この噺を聴いて、いい気持ちにで家路につけるって、なかなかないよね。

8月21日記

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