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客席放浪記

鈴本演芸場十二月下席昼の部

2014年12月24日

 鈴本演芸場恒例、毎年十二月下席昼の部は、日替わりで主任が『芝浜』をかける。もうほとんど一巡したのか、今年は『芝浜』に限定せず、『芝浜』にまつわる噺にまで範囲を広げて、面白いラインナップになった。クリスマス・イブの今日は、三遊亭白鳥の芝浜リスペクト噺『黄昏のライバル』。開場15分前に行くと、もう30人くらいの列ができている。そして係の人が「本日の演目は『芝浜』ではありません。ご承知の上、ご入場ください」と言っている。ハハハハハ、年末に聴きたい噺『芝浜』。てっきりあの感動的な世界に浸れると思って入って、白鳥のあの凄まじい新作を聴かされちっゃたら怒り出しちゃう人もいるかもねぇ。

 開口一番前座さんは春風亭ぽん吉『元犬』。前座になってまだ一年。それにしては上手いね。前座修業頑張ってね。

 春風亭朝也『牛ほめ』を聴くのは二度目かな。一朝のお弟子さんで、ここの一門の人は声が聴きとりやすくていいね。二ツ目になって九年。そろそろ真打昇進が近付いてきてる。

 翁家社中の太神楽。今日は小楽和助。今年、和楽が亡くなってしまって、ちょっと寂しくなったけど、和助の明るい芸は和楽を引き継いでくれそう。

 古今亭菊之丞はおしゃれだ。街を歩いている姿を見かけても実にセンスのいいものを着ている。今日の高座着は緑。どうやらクリスマスツリーを意識しているらしい。帯も遠目からだとよくわからないが、クリスマス仕様なんだとか。それに襦袢は赤。『替り目』の一席を終えた後、着物の裾をまくって赤の襦袢を見せながら楽屋に帰って行った。緑の着物の裏地も赤だったね。

 ペペ桜井のギター漫談。駅の発車メロディーを弾いてみせる。恵比寿は『第三の男』。これはエビスビールのCMで、この曲が使われているから。地下鉄銀座駅は『銀座カンカン娘』。いやあ、注意して聴いていたことなかったなぁ。

 柳家喬太郎は、クリスマスイヴとあって自作の『聖夜の鐘』。脱力オチのこの噺のあと、客席に向かって「今日のトリは『芝浜』じゃないってことはご存じですよね? トリを取る白鳥という人を初めて観るってお客様、どのくらいいらっしゃいます? ああ、けっこういらっしゃいますね。あのね、今日の『黄昏のライバル』って『芝浜』はほんのちょっとしか出てきません。それにね・・・つまんないですよ」(場内大爆笑)。「喬太郎、今日は噛ませ犬ですね。ところで『芝浜』って落語自体知らないというお客様はどれくらいいらっしゃいますか? ははあ、知らない方も多いですかね。『芝浜』は演るとなると最低でも30分。長くすると40分。中には50分って方もいらっしやいます。『芝浜』という噺を簡単に紹介しますと(と、ここで『芝浜』のあらすじを、ところどころ演じてみせながら語る)・・・このように2分で済んでしまうんです。それでは今度は、この『芝浜』を歌に乗せて、始まりからサゲまでを3分でお送りします」と、『ブルーライト・シバハマ』を熱唱。

 仲入り後、三味線漫談の柳家紫文が出てくると、客席から「お誕生日おめでとう」の声が方々から飛ぶ。へえー、クリスマスイヴが誕生日なんだ。「普段は歌わないんですが、今日は誕生日ということで一曲」と、『かえるぴょこぴょこ』。そこからいつもの『長谷川平蔵市中見回り日誌』。薬屋、横綱、干物屋、隠れキリシタンなど。旧作、新作織り交ぜて。

 隅田川馬石は、あまり耳にしない珍しい噺『安兵衛狐』。私も初めて聴くことができた。こういうのが突然聴けた時ってうれしい。

 橘家文左衛門『ちはやふる』を始めた。文左衛門の『ちはやふる』はお騒がせな一席。水くくるとはの「とは」の意味の解釈をおあとの演者に振って降りてきてしまう。やっぱり「トリの白鳥に訊いてくれ」で降りてしまった。

 林家正楽の紙切りは『除夜の鐘』『柳家紫文』『サンタクロース』。柳家紫文は、三味線を抱えた紫文に加えて、長谷川平蔵、水商売の女、それに相撲取りの姿まで切ってあった。

 三遊亭白鳥の『黄昏のライバル』を聴くのは、私は二回目かな。「毎日別の人が上がって『芝浜』をやるんだそうですが、私『芝浜』できません。私のはプログラムを見たら、芝浜リスペクト噺となっていますが、私今までリスペクトってどういう意味か知りませんでした。馬石に訊いたら、敬意を表するって意味なんですってね。敬意なんて感じられない噺なんですが」(場内大爆笑)。今から二十年後のお話。日本一の落語家になった柳家喬太郎は、なぜだか元気がない。それはもう自分にはライバルというものがいなくなってしまって、やる気が失せてしまったから。それを見た喬太郎の弟子Q蔵は、喬太郎のかつてのライバルで、今では落語家を廃業して池袋でおでん屋をやっている三遊亭白鳥のところに行き、復帰してくれないかと頼みに行く。いいように喬太郎がいじられる噺だが、その可笑しいのなんのって。そのうえに落語界の、危ない裏話がバンバン出てくる。当然インターネットには書けない。文左衛門が押し付けた「とは」の意味も噺の中で、きれいに返して見せたし、白鳥、今、乗りに乗ってる感じ。『芝浜』はちょっとだけしか出てこないといっていたけれど、調所に散りばめていたから、また改良したのかもしれない。白鳥にはほかにも、千葉の海岸でねずみを拾う『チバハマ』というネタもあるそうで、来年は是非『チバハマ』に期待したいな

12月26日記

静かなお喋り 12月24日

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