鈴本演芸場初席第三部 2016年1月7日 普段と比べて高い入場料。一組の持ち時間10分たらず。それでもやはり初席ってにぎやかで楽しい。 三増紋之助の曲独楽も10分という持ち時間だと、どんどん芸をこなさないと収まらない。末広、輪抜け、真剣刃渡り、風車と、スピーディーに。風車では干支のサルの人形が独楽に乗った。 柳亭燕路は『幇間腹』。へー、この噺、10分でできるんだね。ハリを打たせろと若旦那に言われた一八、「今月はハリ撲滅月間。ハリやめますか、人間やめますか」。 ホンキートンクの漫才。嵐のデビュー曲『A・RA・SHI』が、どうしても吉幾三の『オラ東京さ行ぐだ』になってしまうというネタ。古いタイプのネタだけど若い人向けに作り直しているのが、いかにも寄席の漫才。 宝井琴柳は、さすがに10分で講談は無理なのか、いろいろな講談話のさわり集。 マギー隆司の奇術。仕掛け丸わかりのものから、「えっ! どうやったの?」までこぢゃまぜで煙に巻く10分。 五街道雲助は『子ほめ』だが、赤ん坊をほめるところだけという、有名な正月短縮バージョン。キチッと笑いを取るところはさすが。 「鈴本の電機はすべて楽屋で足でペタルを漕いで発電しております。また、エスカレーターは前座が奴隷船のようなところで発電しております」。正月から省エネだね。桃月庵白酒は『浮世床』の本の部分。 柳家小菊は、『きんらい節』、『お江戸日本橋』、『年中行事』に、都都逸。 柳家権太楼が『つる』。前座噺だけれど、十年前に亡くなった文朝が、よく楽しそうにやっていた。権太楼にかかるとこの噺も、かなり破壊的なおかしさに行く。真似してやろうという男が、もうほとんどマトモな人間じゃないだよね。ウハハハハ。 仲入りは、太神楽社中の獅子舞から。これが見られるのも初席ならでは。 柳家小三治が『初天神』。ホール落語や定席のトリでは見られない小三治の姿がここにある。10分で団子の部分だけの『初天神』。遊雀のように団子だけで30分という人もいるが、この小三治の団子で10分も、うまくまとまっていて楽しい。小三治らしい笑いもところどころ入れられている。短い噺でも長くしてしまう小三治としては、これはうまくまとめた一席。短い小三治もいいよ。 江戸家小猫の動物鳴き真似。干支にちなんだ鳴き真似も、卯辰巳と続く三年間は受難の年だそうだ。今年は申でゴリラの鳴き真似。今の小猫も寄席に出るようになって四年目に突入。研究熱心なのは父親以上。パンダ、アルパカ、ヌーまでやるし、アシカの新解釈芸も面白い。どんどん面白く、上手くなってきた。 柳家喬太郎は、そのあとに出るはずだった喜多八の持ち時間も貰って20分。最近どさくさで定着してきてしまった大人のハロウィンをくさすマクラから、『同棲しよう』。離婚して、今の妻と改めて同棲生活をしようと言うお父さん。なんのことない、70年代、由美かおるの映画で大ブレイクした『同棲時代』の世界を、還暦前になった自分も体験したいという無茶な願望。せっかく手に入れた家から出て、おかあさんと飯田橋のボロアパートに引っ越し、会社の有休を取ってアルバイトに出る。「なんで家があるのにわざわざ部屋を借りてアルバイトまでするの?」と言う息子に、「安定した同棲があるかー!」。やがておかあさんもその気になってパンツ一枚で畳に寝転んでいるなんていう展開も可笑しい。お母さんがパンツの中から肌身離さず持っている離婚届を出す仕草に大爆笑。「小三治師匠がもう楽屋にいないからできるんです」にさらに大爆笑。今年も喬太郎は新春から飛ばしてるね。 林家正楽の紙切り。いつも鋏試しは、相合傘と決まっているのだが、正月限定で今は羽根突き。おきゃさんからのお題が、出初式、鶴の二題。正月らしいね。 トリは柳家三三。屋台で回ってくる鍋焼きうどんの中の具は、せいぜい蒲鉾に青菜にネギくらいのものだったというマクラ。具がたっぷり入った、今の鍋焼きうどんに比べると質素なものだったんだなと思う。 『うどん屋』は、先代小さんのものをよく聴いた。三三の『うどん屋』が細かいのは、サゲに繋げるためなのだろう、大店の人が声を潜めて、うどん屋を呼ぶ声がガラガラ声を混ぜて小声で話す様子にしてある。それに合わせてうどん屋も小声でさらにガラガラ声だ。これがサゲにうまくはまる。私は数ある落語の中でも、このサゲが大好き。これが落語なんだよというサゲだと思う。 1月8日記 静かなお喋り 1月7日 静かなお喋り このコーナーの表紙に戻る |