鈴本演芸場九月中席夜の部 2016年9月18日 開口一番前座さんは、桃月庵はまぐり。『他行』から『金明竹』になる型というのは初めて聴いた。同じ店番でも傘や猫の断りよりもこちらの方がわかりやすい気がする。もっとも他行という言葉自体が今は死語になっていると言えるかもしれないのだけれど。前座修業がんばってね。 三遊亭わん丈のいつもやっているマクラ(金髪にして学校に行ったら、母親が呼び出しを受けたという話)にドッと笑いが起こった。 噺は、これまた最近この人の定番になってきた『寄合酒』。わん丈のアレンジが上手くいっている噺になっていて、これはもう鉄板で受けるネタを手にした感じ。 それにしても今日のお客さんは噺家さんにとっては、いいお客さんだろう。何をやっても、よく笑ってくれる。 三増紋之助の曲独楽も、お客さんの反応がいいので、いつも以上に乗りがいい。こういうときの紋之助は強い。 柳家さん助の『雑俳』。「初雪や これが塩なら 大儲け」 「初雪や これが砂糖なら 大儲け」 「初雪や これが片栗粉なら 大儲け」 「初雪や これが天ぷら粉なら 大儲け」 「初雪や これが覚醒剤なら ・・・・・」。 隅田川馬石が珍しくマクラを長く喋っている。浅草に初めて来たときに雷門やら吾妻橋の赤い色、うんこビルの異様さに、「ここは日本じゃない」と思ったことなど。浅草の観光人力車の車夫と地方から来たお客さんとの会話。「お客さん、あそこに流れている川の名前わかりますか?」「・・・江戸川?」 「惜しいなぁ。江戸川じゃなくて隅田川って言うんです」 「ああ、あれが隅田川。隅田川馬石っていう落語家で憶えました」。アハハハハ、そんなバカな。 そこから『反対俥』。この人には珍しい動きの大きな噺。 林家正楽の紙切り。お客さんからの注文は、「お月見」、「赤ちょうちん」、「寛一お宮」、「ゴジラ」。切り慣れてそうなお題ばかり。いいお客さんだ。 「オレオレ詐欺。東京の人よりも大阪の人の方が騙されないらしいですね。お金にうるさいですから」と、柳亭燕路が大阪のオバチャンのオレオレ詐欺対処の例をあげて笑わせる。 噺は『出来心』。 仲トリが五街道雲助の『粗忽の釘』。「脇の下コチョコチョ」が可笑しくてかわいいが、エロチック。 仲入り後のクイツキは、ニックスの漫才。この人たちの漫才を初めて観たのは、もう15年くらい前。当時は、彼女たちまだギリギリ20代だったけど、今は40代。それでもネタは女性らしく結婚ネタ。「ねえ、私、教会で結婚するのが夢だったの」 「落語協会?」 落語協会の大喜利王選手権で、下ネタ全開の五明楼玉の輔。『宮戸川』はお手の物だね。 花島世津子のマジック。今日は紐のマジックばかりでまとめた。「紐に仕掛けがあるとお思いでしょうから、ご覧に入れましょう」と最前列の男の人に紐を渡すと見せかけて、紐から手を離さない。仕掛けのある紐を手渡すわけないやね。 トリは桃月庵白酒の『宿屋の仇討ち』。 侍が番頭の伊八の名前を憶えてくれないのは、もともとある笑いの部分だが、白酒にかかるとこの部分がさらに増える。「伊八と申します」「鶏の尻の穴から血を吸う」「それはイタチでございます」「ご飯を入れておく」「それはオハチでございます」「松田聖子の本名」「蒲池でございます」。三人組からは「スズキ目の魚」「イサキでございます」。さらに酔っぱらってしまうと、「ササキ、ササキ」「一言も合っていません」。この言葉遊びの可笑しさだけでも、クレージーさが加速する。芸者がやってきて「コンバンハ」「おお、いい女こっち、ニックスはあっち行け」には大爆笑。どんちゃん騒ぎも水が入ってお開き。芸者さん、三味線で『蛍の光』を弾く騒ぎ。そのあとの相撲でも、実在の力士を登場させて笑いはもうマックスを振り切りそうなほど。 今日のお客さんはよく笑うお客さんで、しかも結構落語を聴き慣れていると判断しての白酒のこの演目なのだろうけれど、うまくハマったいい寄席だったな。 9月19日記 静かなお喋り 9月18日 静かなお喋り このコーナーの表紙に戻る |