客席放浪記

鈴本演芸場十月中席夜の部

2016年10月16日

 最近の前座さんは、びっくりするくらい上手い人がいる。今日の開口一番は春風亭朝七。前座になってまだ半年だそうだが、もう文句のつけようがない『子ほめ』。前座だから余計なことをしない『子ほめ』なのに、面白く聴けた。一朝のお弟子さんって、いい人材が集まってくる気がする。

 二ツ目の古今亭始『悋気の独楽』を熱演してくれた。高座に飛び散った汗を手拭いで拭いて高座を降りる。

 翁家社中、小楽、和助の太神楽。安定の芸だね。
 今日の客の入りは決していいとは言えないのだが、お客さんの反応がいい。よく笑うし、こういう曲芸も溜息や拍手が、盛んに起こる。

 古今亭菊生『親子酒』。息子との禁酒の約束を破って、酒を飲み始めようとする父親。おかみさんに「息子が帰ってきますよ」と止められても、「せがれは麹町の中沢さんのところに行ったから遅くなる」だって。麹町の中沢さんね。アハハハハ。

 古今亭志ん輔の代演は古今亭志ん弥『浮世床』の将棋、それに本のさわりだけやって、立ち上がってかっぽれ。

 ニックスの漫才。先月観たのと同じ、結婚ネタ。

 三遊亭歌之介は、自分と母親のことをカミングアウトして、親子の情愛を語る漫談風感動落語『かあちゃんのあんか』。歌之介のネタのなかでは、私は一番好きかも知れない。

 五街道雲助『代書屋』だ。そういえば6月に来た時も仲トリが雲助で、やはり『代書屋』だったし、確か2年半前にも仲トリで『代書屋』だったことがあった。雲助は仲トリで上がるときに『代書屋』をかけることが多いのだろうか? そして雲助というと大ネタの人というイメージがあるが、雲助の『代書屋』は面白い。上方の『代書屋』のようなハチャメチャさはないが、昭和初期の時代背景を感じさせるようなレトロな味があるのが好きだ。

 仲入り後のクイツキは、柳家小菊の粋曲。『きんらい節』から始まった小菊姉さん、今日は気合が入っているなと感じた。客がいいからだろうね。『蛇がにょろにょろ』あたりに逃げちゃうときは大勢のお客さんを相手にするとき。今日はすぐに都々逸に入って、今まで聴いたことのなかったアンコ入りの相惚れ都々逸。大げさな表現で力の入ったアンコの部分、迫力だなぁ。今日の小菊を聴けたのは大儲けだった。

 柳家ろべえの代演は同じ二ツ目の春風亭朝也。この人も一朝のお弟子さん。やはり上手い人だ。『やかんなめ』は、小三治や喜多八でしか聴いたことがなくて、こういう若い人が演るのは初めて聴いた。侍がすごく元気なの。テンポも速くて爽快な『やかんなめ』。こういうのもいいね。

 紙切りは林家楽一の代演で林家正楽。「不動坊火焔」、「凱旋パレード」、「紅葉狩り」。で、私が出したお題が「凱旋パレード」。「初めて切るお題です」と、切っている最中も言葉少なめ。「(短時間で切るには)これで限界」と上の作品を切ってくれました。

 トリは古今亭菊之丞。吉原のマクラを振っているから廓話だなと見当がつく。よくかかる廓話といったら『明烏』。あるいは『錦の袈裟』あたり。それに次いで多いのが『お見立て』、『紺屋高尾』といったところ。私の好きな『五人廻し』、『三枚起請』、『付き馬』といったあたりって、まず滅多にかからない。今日も『明烏』だったら残念だなと思って聴いていたら、やはり『明烏』だった。まあいいや、流して聴いて帰ろうと思ったら、これがとても気持ちいい『明烏』で引きこまれてしまった。ほかの人のとお大きな変更はないものの、ところどころに、面白いくすぐりが入る。そしてテンポがよくって、音楽でも聴いているように流れる感じがいい。ああ、これが古今亭の落語だなという感じ。これだよな、古今亭の良さは。

10月17日記

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