たいこどんどん 2018年5月20日 紀伊國屋サザンシアター 私にとって井上ひさしというと、NHKの人形劇『ひょっこりひょうたん島』や『ネコジャラ市の11人』であったり、あるいは、てんぷくトリオのコントの人。芝居ともなると当時私はまだ学生でほとんど行かれず、テアトルエコーに書き下ろした作品を戯曲の形で読んで舞台を想像していた。 お金にある程度余裕が出てきたころに、何回か劇場に足を運んだものの、私にはそれらの作品群はあまり楽しめなかった。以来、井上ひさしの芝居はスルーすることが多かったのだが、今回の『たいこどんどん』再演に関しては、主演が落語家の柳家喬太郎であることから、これは観に行こうとチケットを買った。 時は江戸時代。喬太郎の役は幇間の桃八。絵に描いたような「よいしょ」の幇間というよりは、現実にいそうな、お旦の取り巻きで世の中を楽しく生きて行こうという気楽な考えを持った男。日本橋の薬種問屋の放蕩者の若旦那(江端秀久)に付いて船に乗り江戸をおさらば。気ままに遊んで暮らす旅の日々・・・と思いきや世の中そんなに甘くなかったというお話。物語の後半はどんどん暗くなる一方で、「何もこんなに暗い噺にしなくても」と思ってしまう。そこが落語との違いかね〜。 構造としては、暗い浦島太郎物語。♪帰ってみればこわいかに、元居た店も人もなく・・・。気が付けば世の中、明治の時代に入っていて文明開化。鎖国の世の中から、今度は日本は自由ならぬ銃を取って海外に進出するのでしたという結末は、なんだか取ってつけたような唐突さを感じてしまった。 カーテンコールで演出のラサール石井が呼ばれ、まともにやると4時間かかるものを、なんとか3時間程度にできたと言っていた。また主演の喬太郎を労い、「プロの役者でも断る役を、よく引き受けてくれた」と述べた。実際、膨大な台詞量だし、体力的にもたいへん。初演で桃八を演じた佐藤B作は、「自分がやったなかでも一番過酷だった」と言っているそうだ。喬太郎は稽古初日から.5.5キロ痩せたという。「もうやりません」と開放感に慕っていたようだが、石井から「もし奇跡が起きたらまたやりたい」という言葉に、「やるの?」と不安そうな表情。お疲れ様でした。実際にこの芝居、喬太郎はほとんど出ずっぱりで、まるで3時間に渡る喬太郎の長〜落語を聴いたような錯覚を覚えてしまった。 5月21日記 静かなお喋り 5月20日 静かなお喋り このコーナーの表紙に戻る、 |