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客席放浪記

トーキングブルース

2014年10月18日
EXシアター六本木

 舞台が暗くなって、古館伊知郎の声だけが聴こえてくる。「こんなことやりたくなかったんだ」。途端に客席から笑いが起こる。

 舞台後方から古館伊知郎が現れると拍手が沸く。「拍手なんか無く、静かに始めたかったんだ」と呟いたかと思うと、「オレが『報道ステーション』を辞めるらしいって、週刊誌が書きたてている。オレはそんなこと一度も言って無い。これからも続けるぞ。この『トーキングブルース』を復活させたことが『報道ステーション』を辞める暗示だって、何を言ってるんだ。これをやたっらどうですかって言いだしたのは、テレビ朝日の社長の方だぞ!」。のっけから古館伊知郎は吠えた。

 『報道ステーション』のキャスターになって10年。それをきっかけにするように、古館伊知郎は、16回続けてきた『トーキングブルース』を止めた。中立な発言をするためになのか? それまで古館伊知郎の話術を楽しみにしていた人たちはがっかりした。それが11年ぶりに復活したのだ。

 『報道ステーション』で堪ったガス抜きを盛大に吹き出している感じ。「御嶽山の事故で、搬送される人をすべて心肺停止って言わなくちゃならない。医師に診てもらって確認してもらわなければ死亡って言えないって、おかしいだろ!」

 『報道ステーション』を始めてからの自分の24時間の生活をすべて克明に曝す。
 金曜夜の『報道ステーション』を終えてから飛行機に乗って海外取材に行く。日本時間月曜夜には現地から実況する。それからすぐに飛行機に乗って日本に帰り火曜夜の10時にはテレビ朝日のスタジオにいる。その強行スケジュールの実態を語る。

 そうかと思うと、中学の時に六本木に遊びに来て、テレビ朝日(当時NET)の前に偶然来た話から、このテレビ局のアナウンサーになった話。六本木の街の変遷。自分がスポーツアナウンサーからフリーになったときの話。六本木交差点から飯倉片町へ向う左側に並ぶ飲食店を一軒一軒実況中継のように描写してみたり。まあ、その言葉、話術の凄さに酔いしれることになる。

 そうかと思うと、自分の姉、母親を癌で亡くした時の話を切々と語ったかと思うと、地球温暖化は何を意味しているのかの考察。話は四方八方に飛んでいく。

 「会社で疲れたOLが、海外へ行ってイルカと一緒に泳いで『癒されたわ』なんて言う。イルカの方にしてみれば知らない日本人の女が隣で泳いでいてストレスでいっぱいになってるかもしれないのに。そんな女が日本に帰ってきてある夜、部屋のドアを叩く音がして、誰かと思って開けてみたら、イルカが立っていて『来ちゃった』と言ったら部屋に入れてあげて、一緒に寝てあげるか!」。アハハハハ。これだよね、古館伊知郎の発想って。

 こういうことを言いたい放題の2時間10分。カーテンコールで出てきて、先日の劇団新幹線&大人計画の公演が9000円。今日、オッサンが一人出てきてくっちゃべっただけで一万円。土下座をしてみせて、「世の中、損得だけじゃないんだ」と締めくくった。

 ガス抜きでもなんでもいいから、また来年もやってくれないかな。

10月19日記

静かなお喋り 10月18日

静かなお喋り

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