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客席放浪記

田茂神家の一族

2015年3月19日
紀伊國屋サザンシアター

 三谷幸喜書き下ろしの東京ヴォードブィルショー公演。三谷幸喜って舞台以外にも、映画やテレビも含めて、いまだに書きまくっているなぁという印象で、しかもどれもこれも、よくまあこれだけ面白く作るもんだと感心してしまう。だって、去年再演分を除いたって舞台の台本だけで、『酒と涙とジキルとハイド』『紫式部ダイアリー』『ショーガール』『吉良ですが、なにか?』と書きまくって、もうこれが出るだもんなぁ。

 それにしてもよくもまあ次々とアイデアが浮かぶもので、今度は小さな村の村長選挙の話ときた。有権者が105人しかいない村。6期24年務めた村長が勇退。そのあとを務める村長選をしようとしたら立候補したのは元村長の息子やら、息子の嫁やら、実の弟やらで、全員田茂神姓を名乗る者ばかり5名。その合同演説会が舞台。選挙コンサルタントの入れ知恵で、対立候補のネガティブ・キャンペーンが始まってしまい、一族の素行の暴露合戦に発展してしまう。村の人間たちは自分が誰に投票するか隠すこともしないので、情勢は手に取るようにわかってしまう。当初は実質5人の候補の内のふたりの一騎打ちとみられていたものが、この合同演説会の最中に票が動き始める。果たして村長になるのは、有力候補のふたりのうちどちらか。あるいは泡沫候補とみられていた人物か。はたまた突如現れた別の人物か。話が二転三転する面白い台本で、これはネタバラシしない方がよさそうだから何も書かない。

 三谷幸喜としても、去年の『吉良ですが、なにか?』と同じく、良質な誰にでもわかる喜劇を目指したものらしい。村長選挙という泥臭いネタだが、台本が実によく出来ているのには感心する。『吉良ですが、なにか?』に続いて伊東四朗に喜劇をやらせようという意図で書かれたものなのだろうが、伊東四朗一座や熱海五郎一座がやっているような、なんだか散漫な印象の台本とは大違い、二転三転するストーリーはさすが三谷幸喜だよなと思わせる。

 客演という形で参加した伊東四朗、角野卓造も楽しそうに演じているが、東京ヴォードヴィルショーの主要メンバー、佐藤B作、佐渡稔、石井愃一、市川勇、山口良一、あめくみちこも当て書きしたんじゃないかと思うくらいはまり役。1時間45分という時間も、こういった喜劇としては疲れなくてちょうどいい。やはり年齢的に気遣ったのか伊東四朗の出番は45分過ぎたところまでないし、台詞の量もそれほどてもない。それでいて登場シーンは衝撃だし、作品の中でもこの人の登場で話が大きく動くという重要な役だし、最後まで印象が強い。うまい台本だなぁ。もちろんほかの役者さんの役柄も、どれもこれもキャラクターが立っていて重要な役柄。こういうのって、一度劇団を主宰した人でないと、なかなか書けるものではないのかもしれない。

3月20日記

静かなお喋り 3月19日

静かなお喋り

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