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客席放浪記

トライブス(Trives)

2014年1月21日
新国立劇場小劇場

 なんか神経がピリピリするような芝居。ずーっと嫌ーな、なんとも言えない不快感が舞台に満ちている。何でこんな芝居を見せられなくてはならないんだろうという感じ。いや、決してつまらない芝居ではないのだが、テレビドラマだったら途中で観るのを止めてしまっただろう。そのくらい奥が深い問題作。

 五人家族がいる。父親は学者。母親はなにやら推理小説家志望らしくて小説らしきものを執筆中らしい。長男は学生なのかなんなのかよくわからないのだが論文を書いている。長女はオペラ歌手を目指している。そして主人公と思えるビリー(田中圭)は、生まれついての聴覚障害者。どうやら家は裕福らしくてビリー含めて誰も働いているようには見えない。

 ビリーは読唇術に長けていて、手話は憶えずに相手の唇を見ているだけで、何を言っているのかわかる。父親は最初から手話を習わせずに健常者と同じ生活をさせようとしたらしい。

 やがてビリーにはガールフレンドができる。シルビア(中嶋朋子)だ。シルビアは両親が聴覚障害者で、やがて自分も耳が聞こえなくなる運命にあり、どうやら小さい時から手話を習っていたらしくて、手話も上手だ。それでビリーに手話を教え込む。それが父親には気に入らないらしい。父親はシルビアに食ってかかる。手話には「もしも」や「かもしれない」という表現できないという事実を知ると、それを攻撃する。嫌だねぇ。嫌な学者の典型だ。

 やがて手話を憶えたビリーは家族に反抗するようになる。これからは自分は手話でしかコミュニケーションしない。自分は小さい時からみんなに合わせて読唇術を学んだのだから、今度はみんなが手話を憶えてくれというのである。これに家族は慌て始める。

 とにかく嫌な家族なのだ。みんながトゲトゲしている。それでいて全員が、私に言わせれば虚構の産物を作り出そうとしている職業の人たち。いやそれでもかまわないのだが、父親は学者といっても実態はよくわからないし、母親の書いているらしい小説も途中までしか書けていないし、長男の論文も書きかけ、長女はオペラ歌手をめざしているものの、まったく向いていない。そのくせにしてなぜか裕福で、みんな具体的な仕事をしないでいる。そんな中、ビリーは読唇術の技能を買われて、裁判所で証拠ビデオの解読の仕事に就く。彼だけがいかにも働くという職業に就くのだ。もう家族は輪をかけての大騒ぎ。ほんと、嫌な家族だねぇ。なんか全員がニートだった家族が、息子ひとりだけ抜け出しちゃったようで、ある意味笑える。

 リビングルームにはグランドピアノが置かれていて、それをテーブル代わりにしている。冒頭での食事シーンでは、暗闇の中でナイフやフォークがカチャカチャ鳴って耳障りだったが、そのあとも水差しや瓶を置くたびに大きく響く音がして、観るものに不快感を与える。おそらくこれは意図してのことだろう。

 ビリー以外の家族がみんな嫌な性格だったのが、最後はビリーさえも嫌な奴になっている。反ホームドラマみたいな芝居とでもいうのかな。家族が崩壊していくドラマ。面白くはあるけど、後味は悪いよねぇ。

1月22日記

静かなお喋り 1月21日

静かなお喋り

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