2012年6月20日扉座『つか版忠臣蔵・スカイツリー篇』(すみだパークスタジオ倉) テレビ放送された『つか版忠臣蔵』と、つかこうへいの書いた小説版を基に、横内謙介が書き直して、演出したもの。 これ、複雑な思いがある。なにしろテレビで観た『つか版忠臣蔵』は、抜群に面白かったという記憶があって、じゃあだからといってよく憶えているかというと、案外心もとない。 テレビ版は、 室井其角 風間杜夫 志乃 松坂慶子 大石内蔵助 平田満 近松門左衛門 萩原流行 吉良上野介 石丸謙二郎 阿久利 美保純 松尾芭蕉 田中邦衛 浅野内匠頭 酒井敏也 もうまさに贅沢なキャストだった。よーく憶えているのは浅野内匠頭の切腹のシーン。辞世の句「風誘う 花よりもなお 我はまた 春の名残を いかにとやせん」が読めなくて、「イカ煮とリボン」 「イカ煮と痩せる」などというやりとり。あそこだけは鮮明に憶えているのだが、あとはもう記憶が薄れているなあ。 今回の配役では、事実上主役の其角役をつか芝居常連だった山本亨が演じている事。さすがに山本亨は、つか芝居の間をよく掴んでいる。 あとは近松門左衛門役の岡森諦。オリジナルの萩原流行をそのまま持ってきた感じ。 あとの役者さんたちは、つか芝居体験がどのくらいあったのかはわからないが、「うーん」と思ってしまう人もいるような。 おそらく脚本は最初からキッチリ書かれているものを、そのまま完成台本としたんじゃないかという印象を持った。つまりつかこうへいのように、稽古しながら口立てで作り上げていくのではなかったのではないか。横内謙介の頭の中で、つかこうへいなら、今、こういう台詞を入れるだろうと考えながら作ったような気がしてならない。まあ、それはそれでいいと思う。そこまで、つかこうへいにしてしまっては、ますます泥沼になりかねない。とはいえ、脚本が整然としすぎてしまっているように感じるのは私だけだろうか。 こうしてこの話を観直してみると、『つか版忠臣蔵』の原点はやっぱり『熱海殺人事件』だったんだなという気がしてくる。骨子が、ダメな浪士を戯作者が立派な家来に作り上げるというストーリー。これは『熱海殺人事件』のつまらない犯人を、刑事が立派な死刑囚に育て上げるのと似ている。 人によって評価は割れるところだろうが、私は案外楽しく観る事ができた。つか芝居をうまく後世に引き継いでいくには、この方法が実は一番正しいのかもしれない。 ちなみにクライマックスの討ち入りの場面、客席の横の壁が開いて、芝居小屋の外で浪士たちが勝鬨をあげていると、そのうしろをこちらを見ながら自転車に乗った女性が通って行ったのにはクスッと笑ってしまった。 6月25日記 静かなお喋り 6月20日 このコーナーの表紙に戻る |