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客席放浪記

第11回 The Woman's 落語会

2014年11月4日
お江戸日本橋亭

 女流の落語家はどんどん増えてきている。しかしもともとも男性が演じるために作られた落語というものを、女性がそのまま演っても違和感を感じるだけで、あまり面白くならない。それなら女性が演じられるように作り変えてしまったらどうだということで、三遊亭白鳥が現在二ツ目の女流落語家を中心にして集めて開いている会。白鳥の短めのトークのあと三人の女性落語家が登場した。

 柳亭こみちはアンデルセン童話『裸の王様』を翻案した『奥方様の打掛』。着道楽な奥方様に、汚れた心を持った者にはボロキレにしか見えないが、美しい心を持った者には七色に輝いて見える打掛を仕立てるとやってきた詐欺師の噺。こみちは小三治門下柳亭燕路の弟子。どうやら白鳥に小三治一門の悪口を入れると受けると入れ知恵されたらしくて、出るわ出るわ、危ない話を入れまくって、受けまくっていた。落語って毒が入った方が面白くなる。この噺自体が毒を持った話だから、ドンビシャ。これでこみちもスイッチが入ったかもしれない。アハハハハ。

 今回、この会を観たいと思ったのは三遊亭美るく『棒鱈』が聴きたかったから。別の会で白鳥が話していたのだが、たまたまこみちが『棒鱈』をかけているのを聴いて、この噺は女性には無理だと感じたそうだ。なにしろほとんど男しか出てこない噺。しかも田舎侍が酔っぱらって珍妙な歌を歌ったりして、それを江戸っ子がバカにして喧嘩ざたになるって、確かに女性には向いてない噺に属する。それを白鳥の提案で、ホストクラブ初体験の若い女性二人組が入ってみたら、酔っぱらった田舎者の女性客がいたという噺に変えてみたらどうかということになったのだそうである。その発表の席が今日だというので、私は来たわけだ。そしてこれは私の期待以上の出来になっていた。二人組の女性の一人は出身地を自由が丘ということにしているが、実は千葉の外房の小さな町。これはこみち本人の実家だそうで、地元ネタをたくさん放り込んである。酔っぱらった女性も千葉の出身で、なのはな体操などを始めるものだから、ついにキレてしまい喧嘩になる。もうサゲになる棒鱈も無くなってしまっているが、これは爆笑篇。いいちこのMAXコーヒー割りなんていうのも、こみちの実体験だそうで、白鳥の言う「この人は、凄い鉱脈を持っている」は的を得ている。そういう人には無い経験などをどう持ち込むかが創作活動の要なんだろうな。

 仲入り後に、三遊亭白鳥『トキそば』。この人の落語は、どんどん変化を続けていく。この噺でやっていたあの座布団芸はついに姿を消してしまった。そして題名にかかわるサゲも、以前のものとは変わっていた。観るたびに違う『トキそば』。次に出会うのがまた楽しみだ。

 トリは橘ノ双葉『明烏』。廓噺というのも女性にはハードルが高いが、これを、女性の視線から作り直してある。つまり吉原の女性の側から語っていくわけだ。噺は、いきなり吉原。源兵衛と太助が堅物で有名な時次郎を騙して連れてきたと吉原の女たちが話している。こうして吉原に来る前の部分を大胆にカットしてしまうのはうまい。ただ、どうなんだろう。このやり方で作られた『明烏』は本来の『明烏』とはかなり趣が変わっている。笑いの多い話から、なんとなく人情噺のような味わいのものに変化してしまっているのだ。部屋に入れた時次郎の頑なな心を、優しくほぐしていく浦里花魁の部分は、緻密に描かれていて美しい。笑いが少なくなった分、難しい噺になったような気がするが、あとはどうせ女性がやるなら浦里花魁をもっともっと妖艶に演じられたら、これは凄い噺になると思う。

11月5日記

静かなお喋り 11月4日

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