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客席放浪記

第6回よみらくご・新作好みふたたび

2016年4月22日
よみうり大手町ホール

 よみうり大手町ホールの『よみらくご』は、ほかの落語会の雰囲気とは大きく違う。ホールスタッフの対応が、まるで一流ホテル並みの上品さ。普段、都内の寄席あたりの従業員の対応に慣れていて、これからペットボトルのお茶と乾きもの片手に、演芸を観てゲラゲラ笑おうといった気分とは大きく異なる。「あっ、すいませんね、こんな格好で来ちゃって。ほかの人の迷惑にならない程度に、上品に落語を楽しませていただきます」というふうになる。

 今回は新作特集だが、いわゆる新作というのとは、ちょっと趣が違う噺がほとんど。三笑亭夢丸『思ひ出』は、先代古今亭今輔のものを甦らせたもの。
 前座から二ツ目に上がって、なんといってもうれしいのは羽織が着られるようになることだと語って、「しかし着てみると。暑い!」と言って笑わせる。先輩が浅草の古着屋で上物の羽織を格安で手に入れたものの、実はその羽織には、安く売るとんでもない理由があったというマクラが面白い。
 古着屋に着物を古着屋に売ろうとする奥さん。ところが着物の傷や染みを指摘されて、買値は安くなってしまう。奥さんはその染みには大切な思い出があるんだと、ひとつひとつの着物にまつわる話を始める。私は初めて聴いた噺だが、奥さんと古着屋の様子が可笑しくて気に入った。これは今でも十分にできる噺ではないか。

 芸人はやはり、現場で即現金でギャラが貰える方がうれしいのだろうか? 昔々亭桃太郎が、今日来てみたら振り込みだというのでやる気がしないとこぼす。
 しかしこの人の落語って、肩から力が抜けた感じが面白い。『ぜんざい公社』もいわゆる昭和の新作といわれているもの。演じ手も多いが、この噺を力いっぱい演る人よりも、桃太郎の力の抜けた演じ方が、なぜか面白い。

 仲入り前は、なぜか芸恊ばかり三人。三人目が瀧川鯉昇。演目は『蕎麦処ベートーベン』となっているが、実は『時そば』。少しずついじっているうちに改作に近いまでになってしまったらしい。なぜベートーベンなのかは是非聴いた時の楽しみにしてほしい。お代の勘定に、「ひい、ふう、みい・・・」ではなく、「ひとつ、ふたつ、みっつ・・・」にしたことにより、結果的には同じなのに、なぜか普通に『時そば』を演るよりも、とぼけた味わいになった。

 桂吉坊『そってん芝居』は、桂米朝が戦前に聴いて憶えていた噺を弟子たちに、こんなものだったと聴かせて、今の形になったものらしい。これはさぞや大変な作業だったろうと思われる。髪結いの手つきを再現しなければならないし、歌舞伎も知っていないとできない。そして後半の駕籠のところのバカバカしさ。その割にそれほど面白いとも思われないだろうという噺。吉防、熱演!

 三遊亭白鳥の『任侠流山動物園』は、白鳥以外に誰も演じ手は現れないだろうと思っていたが、まず喬太郎が楽しそうに演りだしたのが最初あたり。そうしたら、やがてほかの人も演りだして、私も一之輔のものを観たり、浪曲の玉川太福のものに遭遇したりするようになった。今日は柳家三三でこの噺を聴くことができた。白鳥のこの噺を取り上げようという落語家は、基本的に白鳥をバカにしていない。しかも実力者ばかり。つまらない落語しかできない落語家に限って白鳥のことをバカにしたりするのだ。三三は、白鳥のものを、基本的なスジはいじらず、それでいて、より落語らしく再構成している。速いテンポはそのまま残し、白鳥流のギャグもほぼそのまま残し、さらに三三のギャグも加えて、盛りだくさんな内容。白鳥がよくやる落語界を風刺したギャグも入れ込む。キッチリとした古典を演る人かと思われたが、こういうのも得意。どうやら、三三は流れの豚次全十話すべてを口演することも考えているらしい。これは楽しみ。『任侠流山動物園』、いよいよ名作の仲間入りをすることになりそうな勢いだ。

4月24日記

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