三遊亭遊雀・春風亭百栄二人会 おかしなふたり 2016年9月27日 新宿文化センター小ホール 開口一番前座さんは、三遊亭馬ん長で『元犬』。最近の前座さんは落ち着いてしっかりした口調の人が多い。この人も初めて聴いたが上手いねぇ。前座修行頑張ってね。 三遊亭遊雀が高座に上がると、「まるます家!」の掛け声がかかる。まるます家は、遊雀が住んでいる赤羽の有名な居酒屋。朝9時から夜まで通し営業をしているらしい。赤羽は呑兵衛の天国みたいな街だ。「まるます家から、ガード沿いに歩いてくるとね、米山っていうもつ焼き屋があって、いい匂いがするんだ。ここの煮込みが絶品でして・・・って私はまだ食べたことが無い。いつも列ができてて入れない」 居酒屋の話から始まって、芸恊まつりに来たクマモンの話やら、ものもらいに罹ったなんやらの話でマクラ20分以上。こういうどうってことないマクラがやけに可笑しい。 一席目は、亡くなった古今亭志ん五に教わったという『浮世床』。蒸しタオルの小噺を力いっぱい入れて話す。「こんなに力入れて演らなくていい小噺なんですが、志ん五師匠に、こう教わったんで」。その『浮世床』は夢の部分。芝居の桟敷席で出遭った女性と、しっぽりの部分も力が入る。「これね、演ってる方は恥ずかしいんですよ」。 春風亭百栄の一席目。文蔵襲名披露の席でのことや、現在池袋演芸場で行われている三遊亭白鳥トリ興行のことをマクラにして笑わせて『マザコン調べ』。ツッコミどころ満載の社長夫人の言い分をポカーンとして聞いている女性の表情が浮かぶよう。ここまで言ってしまう人っていうのはいないだろうけれど、これに近い人っている。『大工調べ』が元になっているけれど、ここまで行くともうパロディでもなんでもないオリジナル。 百栄の二席目は『ホームランの約束』。ペーブ・ルイスが病気で入院中の少年を訪ね、サインボールを手渡し、予告ホームラン宣言をしたという逸話は、コントなどで散々ネタにされているが、これも百栄らしい切り口で落語にしてみせた。『マザコン調べ』のおかあさんと同じように、このプロ野球選手も恐ろしくゲスな人物。こんなところ来たくなかったけれど球団に言われてやってきたんだと言い放つ。一方の少年も、男の子はみんな野球やサッカーが好きだと思ったら大間違いだと返す。その少年が好きなこととは・・・。このあとの遊雀が、「悪い人を出したら、(百栄は)すごく面白いですね」と語ったように、ここまでゲスな物言いができるキャラクターは、百栄の落語の登場人物が、ほぼ共通して持っている性格。これがいいんだなぁ。 マクラで百栄の新作落語を褒めた遊雀の二席目は『締め込み』。噺に出てくる夫婦が実は『マザコン調べ』の恋人同士の未来の姿という改変がやけに可笑しい一席になった。 そういやぁ、笑いの多い落語って悪い人間ってあまり出てこない。百栄の落語に出てくる悪い奴キャラクターって珍しい目の付け所なのかもしれない。 9月28日記。 静かなお喋り 9月27日 静かなお喋り このコーナーの表紙に戻る |