October.24,2001 猫のエサ

        猫は肉食動物ということになっている。日本では猫はサカナも食べるが、外国ではほとんど肉しか与えないらしい。本当は猫はサカナよりも肉の方が好きなのだということも聞いた。しかし、猫なんてエサに困れば何だって食べる。私の知っているある人は、残ったご飯粒を野良猫にあげている。

        日本の昔の猫は肉なんてもらえなかった。母方の実家で飼っていた猫は、決まってダシをとったあとの出涸らしの煮干をご飯にまぶし、味噌汁をぶっかけたものと決まっていた。ウチで飼った初代のネコのトラは鰹節ご飯しか与えなかったはずだ。

        時代が変わり、クロがウチにやってきたときには乾燥キャットフードの時代だった。もっともこのクロ、なんと蕎麦を食べた。短めに切った蕎麦を口に持っていってやると、ツルツルと食べるのだ。さすがに蕎麦を食べたのは、このクロだけだったが、野良猫ならばまず喜んで食べるだろう。きっと鰹節の匂いを嗅いでウチに紛れ込んできた猫だから、蕎麦ッ食いの猫だったのかもしれない。

        ノラは大食漢だった。鰹のナマリブシを煮て、ご飯に混ぜてやるとドンブリ一杯たいらげた。オス猫でもあり、なかなか家に居着こうとしないその名の通りのノラだったから、家に帰ってくると食事をうるさく要求し、ドンブリめしをたいらげると、またどこかへフイッといなくなってしまう。しまいには、メシを食いに帰って来るだけという不良猫になり、そのうちに家出してしまった。

        チェリーは乾燥キャットフードが好きだった。しかもゲインズのチキン味しか食べない。試食用にいろいろなキャットフードを貰うので与えてみたが、絶対に食べようとしない。やがて、大変なことになった。ゲインズがチキン味の製造を止めてしまったのだ。最後のチキン味のキャットフードを与えるときに、私はチェリーに言い聞かせた。「いいかい、チェリー。ゲインズはね、もうチキン味を作らないんだってさ。他のじゃダメかい? 我慢してマグロ味かビーフ味を食べてくれないかい? だって他にないんだもの」 そうするとその言葉が通じたのか、翌日から与え始めたマグロ味を何事もなかったように食べ始めた。

        それでも鶏肉が一番好きだったようで、店で使っている鶏肉をこっそりあげると、喜んで食べた。雀を捕ることを憶えると、よく捕まえて来てはバリバリと食べていた。何故か頭の部分が嫌いで、よく畳の上に雀の頭だけが残っていた。ネズミは雀に較べると好きではないようだった。おもちゃにして遊ぶだけ。それでも子ネズミは肉が柔らかいらしく、これもまたバリバリと食べた。こちらは頭も食べたが、何故か尻尾だけ残す。畳の上にネズミの尻尾があると、「ああ、また食べたのかあ」と思うのだった。
        シラス干しや鰹節はもちろん喜んで食べた。猫はチクワを食べると聞いて、チェリーに与えてみたが、まったく食べようとはしなかった。むしろカニカマに反応した。なぜかカニには興味がなく、あのまがいもののカニカマが大好物だった。それが後年、あるときにカニを与えてみたらば、大喜びで食べるようになった。それがキッカケだったのだろうか、今度はカニカマを食べなくなってしまった。

        歳をとってからは、乾燥キャットフードは消化に悪いらしく、たびたび吐き出すようになってしまった。それからは、キャットフードの缶詰。これがまた、好き嫌いがあるらしく、嫌だと思うものは絶対に食べない。かといって、同じ銘柄の同じものを与えつづけると、これまた飽きるらしくて、食べなくなってしまう。昔と違って、現代の猫は難しい。


このコーナーの表紙に戻る


ふりだしに戻る