August.29,2000 『筒井ワールドFINAL ラウンド4』

        今月のこのコーナー、大阪のことと、芝居の話だけだったようですね。もう一回だけ、芝居の話で勘弁してください。

        『通いの軍隊』―――戦争状態に入っているガリビア国に出向勤務中の、日本の軍需産業の会社員。この国では、自宅から戦場までの通勤勤務が認められている。会社の売った銃に不良個所があるために、前線まで出張して修理をすることを命じられてしまう。こうして、主人公は通勤満員電車に乗って、最前線まで行くことになる。そんなバカなという設定が筒井らしくて好きな作品。通勤用のスーツが迷彩柄なのが笑える。ラストのオチも落語風。これ、落語でやっても面白そう。

        『陰悩録』―――これ、芝居にできるとはとても思えなかった。だって、風呂のバスタブの排水溝に金玉が挟まってしまって、抜けなくなる男の話ですよ! 登場人物は3人だが、実質的にはひとり芝居。ひとり芝居というのは苦手で、まず見に行かないことにしているのだが、これはいい。バスタブの中でのひとり芝居のシーンだけで、20分くらいあるが、まったく退屈しない。これも演じた上山克彦の上手さだろう。まあ、イッセイ尾形にも通じる、コント風のひとり芝居だから、けっこう引きこまれる。これも実は話全体に仕掛けがしてあり、ラストにきて、あっというオチになる。これは、すっかり忘れていた。

        『ヒノマル酒場』―――『通いの軍隊』『陰悩録』に出ていた役者も総出演するから、総勢30人の役者が入り乱れる、快作。私は『筒井ワールド8』で一度見ているが、筒井康隆らしくドタバタが収拾つかないとこまでいってしまう物凄さ。

        大阪の通天閣の前にUFOが着陸。中から緑色の宇宙人が出てくる。宇宙人役が今回もプロデュースして、この会を引っ張っている井沢弘。このトボケタ表情の宇宙人が、もうこの人しかないという程の適役。宇宙人は、地球人の食文化の研究にやってきたのだ。実際、今月書いてきたように、大阪通天閣前には行ってきたばかりだが、通天閣前というのは、物凄く狭い空間なのだが、まあ、いいか。

        一方、近くのヒノマル酒場では、女主人、てんかん持ちの女店員、神経質な板前に、労務者、学生、会社員、ご隠居らで一杯。そこへ、この宇宙人が入ってきたから大変。てっきり『どっきりカメラ』だと思いこんだ客が、ふざけているうちに、この宇宙人を殺してしまったから、さあ大変。

        吉本風のセットに、吉本風の演技を導入したと思われるが、役者が、あそこまでコテコテの演技をやりきれなかったのが、ちょっとおしい。本当に吉本で、これやらないかなあ。とくに、間違って宇宙人を殺してしまうシーンを、吉本で走りまわらせながらやったら面白いだろうなあ。

        主にマスコミ批判をテーマにした話だが、絶筆宣言までにいたった筒井康隆の主張が、まるごと盛りこまれているような作品になっている。絶筆のひきがねとなった[てんかん]、それに[どもり]まで出てくる。そしてさかんに繰り返される「きちがい!」のセリフ。ちょっと、こういった空間以外では発表できまい。

        クライマックスは、平安人、ターザン、象、武富士のダンサー、昭和天皇まで舞台を駆回り、狂気の世界に突入する。

        筒井康隆自身も出演すると聞いたときから、この役しかあるまいと思っていたとおり、筒井の役は酒場でしんみり飲んでいるご隠居役。誰にでも「今朝、猫が死んでのう」を繰り返し伝える、なかなか笑いがとれる得な役。マスコミに「何がその人にとって重大な事件なのかは、それぞれの人によって違うことであり、押し付けてはいけないんだ」と諭すところは、わかる気がするが、ちょっと行きすぎか?

        その筒井康隆、開演前にロビーでサイン会をやっていた。作家らしく和服を着たのかと思ったら、なんとこれ、舞台衣装だった。


August.27,2000 ありがとうございました

        本日明治座千秋楽。今月は堺正章座長公演『ご存じ一心太助・目から鱗の物語』でした。今月は出演者ほとんどの方から出前の注文をいただき、楽屋まで蕎麦を出前させていただきました。堺正章様、植木等様、多岐川裕美様、柴俊夫様、大門正明様、小川範子様、龍虎様、黒田アーサー様、星セント様、市川勇様、石見栄英様、小柳久子様、藤井多恵子様、鴨川てんし様、植松鉄夫様、藤森大樹様他の皆様からご注文をいただきました。まことにありがとうございました。

       堺正章様、関係者のみに配るという手ぬぐいをいただいてしまってありがとうございました。毎回いただいておりますが、これで5枚目になりました。大切に保存しております。

        大門正明様、前回ご出演のとき、私があなた様のデビュー映画、増村保造監督作品『遊び』が大好きだと申し上げたとき、「目当ては関根(高橋)恵子だったんでしょ」とおっしゃいましたね。図星です。「その後、明治座の楽屋で高橋恵子さんの姿を拝見できました。あいかわらずおきれいでした」と今回申し上げたら「そうかい? あいつもう50だぜ!」とのお言葉。いやいや、まだ私にとっては天使のようなお方でございます。そうそう、いつか『遊び』および増村保造監督のことを書かねばならないのに、今だに果たせずにおります。書かなきゃなあ。

        今回の公演、5日目に拝見しました。かなり良質なコメディとして、すっかり堪能しました。一幕目の堺さんの意外な登場の仕方から、それにつづくギャグの乱れ打ち。二幕目の堺正章、多岐川裕美の夢の道行きシーンを邪魔する龍虎とのからみのギャグ、三幕目の船上でのギャグなど、よく工夫がなされておりました。喋くりの名人星セントにほとんどセリフを与えないで笑いを取らせるなど、新機軸も見られ、こんな手もありかと、それこそ目から鱗の思いをしたことを書き添えさせていただきます。


August.25,2000 『筒井ワールドFINAL ラウンド3』

        渋谷ジャンジャンは、教会の地下の劇場だったが、その自由さときたらなかった。何をやってもお咎めなし。『筒井ワールド2』は、この渋谷ジャンジャンで行われたが、よりによって『信仰性遅感症』を演ったというのは、何とも罰当たり。今回のラウンド3で、この芝居の再演を見ることができた。五感が、それを体験した10数時間後になってから初めて感じることができるという奇病にかかった修道女の話。かなり、お下劣な内容で、よくぞジャンジャンで演ったものだ。

        当初、大阪弁の神父役を筒井康隆自身が演じるはずだったという。うーん、是非とも筒井康隆のキャストで見たかった。ちなみに、『最悪の接触(ワースト・コンタクト)』の宇宙人ケララ役も演りたかったというのだから驚き。これも難しい役だよ。

        『ショート・ショート』―――3本の短い話。何となくコントの味わいのコーナー。『新・発明後のパターン』―――外国映画俳優の名前をズラズラズラっと駄洒落風にして会話されるふたり芝居。もうあっけにとられているうちに終わってしまった。もう一度見たい。というのも初演の時に筒井が見て、俳優の名前が古すぎて、今の人にはわかり難いと思い、ハリソン・フォード、シルベスター・スタローン、アーノルド・シュワルツネッガー、メリル・ストリープといった現在活躍中の俳優の名前に全面的に書きなおしたものだからだ。

        『情報』―――ある情報を持ったスパイが、もうひとりのスパイに、その情報をそっと教える話。これもふたり芝居で、ちょっとしたコント風なのだが、オチが今イチ。

        『姉弟』―――牛になってしまった弟と、その姉、そしてそれを診る医者と看護婦の話。1962年に『NULL』に発表したものという、かなり古い作品。カフカ的不条理さが面白い。

        『ウィークエンド・シャッフル』―――映画にもなったから、有名な作品。しかし、これは実に演劇的に書かれたもので、こういう一幕ものの芝居の形で見るのが1番だと思う。ある幸せな家庭(実はかなりやばい状況であることが後にわかるのだが)に降って湧いた息子の誘拐事件。そこに妻の同級生やら泥棒やらがやってきて、入り乱れ、収拾のつかないドタバタ劇に発展していく様は、ストーリーを知っていても面白い。

        というわけで、生嶋、鈴木、長崎、安渕くん、明日、ラウンド4、劇場で逢いましょう。後藤くん、本当に仕事なんとかして見に来ない?


August.23,2000 『筒井ワールドFINAL ラウンド2』

        ラウンド2は『座敷ぼっこ』から。これ、筒井康隆のかなり初期の作品。すっかり内容は忘れていたが、見ているうちにボンヤリと思い出してきた。女子中学校を舞台にした一種のファンタジック・ホラー。二学期がはじまり、出席をとると生徒の人数がひとりふえているという話。女子中学生役だけで13人のキャストを組んでいる。そこにヴァイオリンを一人配し、この『筒井ワールド』の主宰者であり、出演、企画、脚本、演出の井沢弘自らが作詞した歌『夢の忘れ物』を、女性キャスト達に歌わせている。

今もどこかで探してる 小さな夢の忘れ物
きっとどこかで笑ってる 小さな夢の忘れ物
今もどこかで待っている 小さな夢の忘れ物

        ファンタジックなラストに、この歌が被さって終わる。原作を演劇ならではの演出で消化した、うまい1作。

        『最悪の接触(ワースト・コンタクト)』―――地球と友好関係を結びたいと言って来たマグマグ星人。お互い、どのような宇宙人なのか知ろうと、地球人の代表とマグマグ星人の代表が試みに共同生活を始めると・・・。よくこのような話を芝居にしようとしたという試みに脱帽。マグマグ星人のケララ役を井沢弘が演るのだが、この論理的なようでいてムチャクチャ不条理的なセリフをよくぞ憶えたものだ。ラストはマグマグ星人役の4人の女性に踊らせて、このヘンテコリンな世界を見事に表現してみせた演出に拍手。

        『熊の木本線』―――これも、例の[熊の木節]を歌い踊ることから、小説よりも、演劇やドラマ向きの題材。何回かラジオドラマにもなっている。私も文化放送で25年くらい前にやったときに聞いている。見知らぬ土地にやってきた旅行者が通夜の席に同席することになる。そこで酔っ払った土地の者達が、[熊の木節]なる歌を歌い踊り出す。旅行者も真似して、歌い出すが・・・。見終わって、帰途につく道すがら、どうしてもあの歌詞とメロディーが浮かんできてしまって困った。ほんとうに、何事か起こらなければいいのだけれど。


August.21,2000 『筒井ワールドFINAL ラウンド1』

        筒井康隆の小説を原作として連続して公演を続けている『筒井ワールド』の存在を知ったのは、昨年2月の『筒井ワールド7』から。このときは、『エンガッツィオ指令塔』『天の一角』『風』の3本が上演された。特に『天の一角』は演劇向きの題材だし、これは傑作でした。次が昨年の8月の『筒井ワールド8』で『おれに関する噂』『かゆみの限界』『ヒノマル酒場』の3本。『ヒノマル酒場』は私の大好きな原作でもあり、多いに愉しみました。そして、今年2月、仲間と行った『筒井ワールド9』。このとき、次は『筒井ワールドFINAL』となると知り、少々残念に思った。

        初夏に発表された『筒井ワールドFINAL』の内容には驚いた。なんと4週に渡り、週替わりで芝居を上演するというのである。私迷わずに全週買ってしまいました。というわけで、まずは『ラウンド1』

        『人間狩り』―――もともと戯曲として書かれたもので、何回もいろいろな劇団が取り上げているもの。筒井康隆自身も船橋役で出た事がある。4人の男が猪狩りに来る。しかし、獲物がみつからない。じれてきたひとりが、猪狩りはあきらめて、4人で誰かひとりを標的にして人間狩りをしようと言い出す。誰が標的とされるか、4人の駆け引きが泥沼のように展開される作品。ラストのオチは、だいたい想像できてしまうが、狭い舞台をうまく利用した演出が見事。

        『俺は裸だ』―――『筒井ワールド』では、郡読(語り手芝居)という手法を使ったものが、ときどき見られる。ひとりかふたりの役者が舞台にいて、そのまわりをたくさんの役者が取り巻き、登場人物のセリフ意外の小説の地の文を、セリフのようにして読み上げるという手法だ。これには、私はとまどった。これは演劇ではない。どうにも違和感があった。

        それが、今回の公演のパンフレットを読んで、目から鱗が落ちた。なんと、もともと演劇をやろうと思っちゃいないのである、この手法は! この『筒井ワールド』設立の趣旨は、筒井康隆の断筆宣言にあったというのである。『筒井ワールド』はその筒井康隆の後方支援の目的があったのだ。小説の地の文を読み上げることで、観客に小説を読むことの疑似体験をさせ、筒井康隆の小説の面白さを知ってもらおうという、かなり確信犯的な手法だったらしいのである。

        そしてこの『俺は裸だ』を見て、この手法は、こういった作品を舞台化させるにはうってつけだと思った。エリートサラリーマンが人妻と浮気の最中に、ホテルが火事になる。裸のまんま外に逃げ出した男に、つぎつぎと災難がふりかかる話なのだが、[おれ]役の斎藤勝の体当たり演技に脱帽だ。なにしろ本当に全裸で舞台に立っているのである。前張りこそ付けているものの、すっぽんぽん。役者は恥をかなぐり捨てなければいけないとはいえ、すっぽんぽんで30分以上を舞台で演技し続けるのだ。郡読役の10人の女性も全員腋の下までスリットの入った衣装を着ていて、ちょっと観客は目のやり場に困る。私にはこんな役をやれと言われてもできまい。やっぱり役者にはなれない。

        『夢の検閲官』―――いじめでわが子を自殺に追い込まれた母親。その母親が毎夜見る夢を作り出す夢の検閲官の話。永井一郎、納屋悟朗のベテランが出演することで、締まった舞台となった。児童劇団の中学生8人を、短い役なのにドンと使う贅沢さ。パンフレットで調べてみたら、3本で計34人の役者を使っている。内容は、読んだり見たりしていない人のために、触れられないのだが、感動のラストになりました。


August.17,2000 宇多村さん、これ買わない?

  

        大阪の地下街を歩いているときに見つけたブルース・ブラザースの人形。高さが5〜60Cmくらいある。一瞬、「うわあ、欲しい!!」と思ってしまった。しかし、値段を見てびっくり。なんと、2体セットで9万8千円。もっとも、売れなかったらしくて、12万8千円に×がつけてあって、この値段に下げているらしい。どう? 宇多村さん、買わない?

        以前書いた近所のハンバーガー屋[BROZERS`]は、開店してからも例の『ブルース・ブラザース』のポスター貼ったまま。今に変色しちゃうから、いっそのこと、この人形を買って置いておいたらどうだろう。教えてあげようかなあ。でも、わざわざ大阪まで買いにいくのはどんなものか。


August.15,2000 なんだ!? このビル!

        このビル、心斎橋あたりを歩いていたときに見つけたんですけどね、「なんだこりゃ」と思っちゃった。最初はてっきりベランダに植物が植わっているのだと思ったのだけれど、違うんですね。ビルの壁から、巨大な鉢植えのようなものが出っ張っていて、そこに植物が植わっているらしい。ビルの色といい、何だか不思議なものを見て、しばし、立ち止まってしまいました。


August.9,2000 大阪で見る蒲田の京都の物語

        7月下旬に小島秀哉さんが来店された。8月に大阪でやる芝居の稽古を東京でやっているとおっしゃっておられた。
「実は7月29日、30日と私も大阪へ行くんですよ」
「何しに行くの? 仕事かい?」
「いや、単に遊びに行くんですけれどね」
「夏の大阪に行ってどうすんの? 暑いぞう!」
「小島さんのではないんですが、芝居を2本見に行くんです」
「へえ、何を見るの?」
「つかこうへいの『蒲田行進曲完結編 銀ちゃんが逝く』と三谷幸喜の『オケピ!』です」
「なあんだ、それ両方とも東京でも演るじゃないか」

        それはそうなんですがね。それを言っちゃあ元も子もない。『銀ちゃんが逝く』を上演する[ドラマシティ]は梅田コマの入っているビルの地下にあった。ていうことは、ここは東京でいうと新宿コマの地下にあるシアター・アップルのような存在ってことだろうか? しかし、東京のよりもきれいだよ、このビル。びっくりしたのは、ビルに入ったら、そのエントランスってこんななんだもの。

       

        ビルの中にパームツリーってのはびっくりでしたねえ。

        で、芝居の方ですが、今までもいろいろなアイドルを主役に芝居をやってきたつかこうへいですが、今回の内田有紀はモトが体育会系とあって、体の動きがいい。刀を振るわせても、刀の重みに体がふらつくこともない。この日は千秋楽の1日前だったが、長い公演を続けてきたというのに、声も嗄れていなくてしっかりしている。ただ、まだアイドルとしてのプライドみたいなものが残っていて、凄い役者になるには、まだまだ、自分を捨てきれていないなという印象が残った。

        それと、彼女をサポートする回りの若手たちが、やはり今一歩。銀ちゃんの我侭でありながら孤独であるスターといった複雑な心境が出ない。一作目の名セリフ「俺の背中に書いてある孤独の[こ]の字が見えねえか!」が思い出される。ヤス役もそうだ。なんともこの自虐的な役柄をまだまだ捉えきれていないように思えるのだが。

        それにしても、最近のつかこうへいの芝居は、よく人が死ぬ。どうも私には、こういう殺伐とした話は好きになれないのだが・・・。


August.7,2000 炎天下大阪フラフラ散歩

        噂には聞いていたけれど、やっぱり大阪は暑い! 地下鉄難波駅を出ると熱波のようなものが襲いかかってきた。20年もたつと、もうすっかり土地感が鈍っている。ここは何処だあ? 地図を広げて、何か目標物はないかと辺りを見まわす。おっ、何か劇場らしきものがある。ええっと、[新歌舞伎座]だってえ! 近くに寄ってみると、今日は休館。来月は中条きよし公演とある。ポスターを見ると小島秀哉さんの姿がある。ああ、これかあ、小島さんが東京で稽古して大阪で公演すると言っていたのは! 今は舞台稽古の最中かなあ。楽屋に差し入れをしてあげようかどうしようかと迷ったが、何を贈ろうか炎天下の街でのポケケケ状態の頭では思いつかず、中止。小島さんすいません。東京で「大阪って暑いですか?」とお聞きしたら、「暑いぞお! 東京と違って、夕方になっても風がソヨとも吹かない」とおっしゃられていたのが頭をよぎる。

        まだ一度も行ったことなかった黒門市場へ行く。ここは、食料品の市場である。東京の築地とは、ちょっと雰囲気が違う。なんだか、下町の商店街が全て食料品屋になったような感じ。ショックだったのは、フグが売られていること。それも丸のまんま。毒は取ってあるのだろうなあ。東京ではぶつ切りにしたものしか売っていない。大阪らしいのは、タコの専門店がけっこうあること。あれはたこやき屋が多いせいだろうなあ。黒門市場の入口のところの道路で子猫を売っていた。檻の中に子猫が何匹も入っている。一匹3000円。おい大阪人! まさか食うんじゃないだろうな。食ってもいいけど。

        地下鉄で移動。大阪といえばここ。通天閣に行かなくちゃ。何回か来ているが、一度も昇ったことなし。今回も、しばらく眺めていたが、昇る気になれず中止。何故だろう。きっとあまりに低すぎるからではないだろうか。あそこに昇って何を見ろというのだ?

        ジャンジャン横丁を歩く。お目当ては[八重勝]の串カツとどて焼き。満員。しばらく店の前を行ったり来りしたが、とても無理。今回は諦める。それでもって、ジャンジャン横丁でこんな看板を見つけた。

        ほほう、ディープですなあ。大阪は! ふうん、ワニやカンガルーよりもカエルの方が高いのかあ。食べて来たのかって? ハハ、フハハハハ、ちょっと遠慮ですな、これは。

        いよいよ大阪でも、もっともディープな世界、西成地区へ。いわゆるドヤ街ですな。ドヤは今だいたい一泊1000円というところでした。もっと安い700円とか800円という看板も見える。上限で2000円弱。[全室カラーテレビつき]なんていう文字が見える。そうそう、学生時代に見たときは、[貸しテレビ屋]なんていうものがあった。ここで一泊いくらでテレビを借りてドヤに担いで行くわけですな。自動販売機のソフトドリンクは、ほとんど70円〜80円で売られてた。西成警察署は高いバリケードが張ってある。最近でも暴動があるのだろうか? たくさんの人間が、所在なげに町のかどかどに立っている。炎天下、人が道路にゴロゴロところがっている。酔いつぶれているのか? それにしても、この街は独特の臭いがする。早々に退散。

        それにしても――――――暑い!


August.5,2000 伊吹聡太郎さんのこと

        大阪のことも書きたいことがいろいろあるのだが、今日という日は私にとって忘れられない日である。以前から8月5日にはこのことを書こうと決心していたので、大阪旅行のことはお休みにして、そのことを書かせていただく。

        2年前の7月。明治座では松平健座長公演『暴れん坊将軍』を上演していた。この月も、楽屋への出前が多かった月で、座長はじめ、土田早苗、大山克巳、三原じゅん子、遠藤太津郎、川合伸旺といった人たちに出前を持っていっていた。その中に伊吹聡太郎という人の名前もあった。

        公演が始まってから、伊吹聡太郎さんの楽屋23号室には何回も出前に行った。初日が明け2〜3日たった時だった。23号室の前が騒然としている。どうやら、役者さんの具合が悪いらしい。医者が呼ばれて診察をしているらしい。公演中に体調を崩すなんて気の毒だなあと思った。その後も23号室には何回も出前に行った。高齢の女性が対応に出てくれて、奥では伊吹さんがいつも横になっていた。

        そんなこんなで、千秋楽が近づいたある日のことだった。伊吹さんの楽屋から出前の注文があった。いつものとおり女性からの電話である。「あのう、お粥を作っていただけませんでしょうか?」 作って作れないなこともない。しかし、時間が悪かった。お昼の真っ最中である。店内はてんてこ舞いの忙しさの最中である。申し訳無いがと断ってしまった。

        そして、7月公演は終了した。月は変わって8月になっていた。8月6日の朝刊を開いてびっくりした。死亡欄にふと目がいった。伊吹聡太郎。ええっ! 先月明治座に出ていたあの伊吹さんのことかあ! 肝臓がんのために死去。がんだったのかあ。

        後に知ったことであるが、伊吹さんはがんであることを知りながら、無理に舞台に立たれていたという。一時的に症状を和らげる薬を打ち、強引に舞台を続けておられた。その薬を打つことにより、がんはますます悪くなるということを知りながらも、どうしても舞台に立ちたがって、薬を打ち続けたという。まさに舞台の上で死ぬ道を選んだんだろう。

        そうと知っていたら、お粥くらい喜んで作って差し上げたのに・・・。今となってはもう遅い。

        69歳。8月5日、名古屋市内の病院で死亡。名古屋公演にまでついていったのだろうか? 私はこの死亡記事を切りぬいて、今でも保存している。伊吹さん、何であなたは・・・・・・・・・・・!!

 


August.2,2000 大阪五輪なんて可能かなあ

        大阪には何回も行っている。学生時代に3回ほど遊びに行ったし、会社員時代には年に何回か出張していたし、そうそう安渕くんの結婚式にも仲間と行ったっけ。ところがそれからは、さっぱり縁がなくなり、気が付いたらもう20年も行っていない。岡山の源内さんから、大阪で会わないかと誘われて、「うーん、大阪かあ、久しぶりに行ってみたいなあ」と二つ返事で乗ってしまった。

        私は、とりあえずアンチ・ジャイアンツというくらいで、プロ野球にはあまり関心のある方ではない。ジャイアンツが勝った翌朝は、どうもスポーツ新聞の一面を見るのが気分が悪いといった程度。いやあ、話には聞いていたが、大阪のキオスクは真ッ黄色ですねえ。たまたま前夜にタイガースがサヨナラ勝ちを収めたものだから、どのスポーツ紙も大騒ぎでありました。この夜はジャイアンツも勝ったのだが、ジャイアンツの記事が一面だったのは『スポーツ報知』だけ。特定の好きなチームを持たないアンチ・ジャイアンツというのはたくさんいるけれど、アンチ・タイガースなんていう人いるのかなあ。

        街には、2008年のオリンピックを誘致しようというポスターがたくさん貼られていた。地下鉄の車両にも「2008年、大阪でオリンピックを!」のスローガンが書かれている。何種類もあるポスターの中で笑っちゃったのがこれ。

        ねっ、大阪らしいでしょっ! 

このコーナーの表紙に戻る

ふりだしに戻る