March.25,2001 寝ぼけかもしれない心霊現象、過激編

        単に自分が寝ぼけてやっているだけなのかもしれない心霊現象は、ほとんど罪のないものなのだが、ちょっと説明がつかないものもある。

        私の部屋には、プラスチック製のゴミ箱がある。円柱形をしていて、直径が20Cmくらい。高さが40Cmくらいだろうか。ある日の朝起きてみると、このゴミ箱に水が入っていた。それが半端な量ではない。そうですね、洗面器一杯分くらいの水の量が入っていたのです。水の上で紙屑がプカプカ浮いている。まず思いついたのが、夜中にオシッコが我慢できずにトイレへ行かずにそこでしちゃったのではないかということ。ところが匂いを嗅いでみると、まったく匂いがない。単なる水なんです。

        ゴミ箱の周囲はまったく濡れた形跡がないことから、これは直接ゴミ箱に水を何かの目的で入れたとしか考えられない。しかもコップ一杯程度の水とは訳が違う。これだけの水を運ぶということは、たいへんな労力です。何か瓶に水を入れるか、それこそ洗面器に水を入れて持って来るしかない。私の部屋は3階にあり、1番近い水道でも2階の洗面所までいかなくてはならない。その夜も家には私ひとりだったから、やったとしたら私ということになる。しかし仮に私が寝ぼけて行ったとしても、こんな労力を必用とすることを本当にやったとは考え難い。

        なぜゴミ箱の中に水が入っていたのか? 例えば、ゴミ箱の中で火が燃え出した。それで慌てて水を入れて火を消した。残念ながら、これは考え難い。だって私は煙草を吸わないもの。吸殻をゴミ箱に入れたら、煙草の火が消えきれてなくて燻り出した。それで水をかけたというような状況は有り得ない訳です。中の紙屑を見ても焦げているものはひとつもない。私の部屋で火を使うということは有り得ないんだもの。

        煙草といえば、もうひとつ不思議なことがある。去年の夏までは、妹が一緒に住んでいた。妹は私のすぐ下の2階の一室を自分の部屋としていた。妹は私と違って煙草を吸う。寝煙草は危険なので、妹は特殊な灰皿を使っていた。それは直径8Cmくらい、高さ12Cmくらいの円柱形をしており、中に水を入れるようになっている。上には煙草が落とせるくらいの小さな穴がいくつも空いていて、煙草を吸い終わったら吸殻をそこから中に入れればいいようになっている。もし煙草の火が消えていなくても、中には水が入っているから安心だ。火はジュッと消えてしまう仕組みだ。

        ある朝のこと、その水の入った円柱形の灰皿が潰れていたのだ。何か上からグシャと押し潰したような壊れ方。あるいは、中から爆発したような壊れ方だった。辺りには灰皿を押し潰したようなものは転がっていない。「お前が上から乗っかんたんだろう」と言ったのだが、「もしそうなら、足の裏か手のひらが痛いはずでしょ。だってこれ、すごく硬くて丈夫だっもの」

        私もそう思う。とてもじゃないが、これを押し潰すなんて普通の力ではない。押し潰したのでないとしたら、何らかの化学反応が灰皿内の水の中で起こったとしか考えられない。しかし理工系の知識はまったくないので、これは私には説明がつけられない。円柱形のゴミ箱の中の水、そして円柱形の水入りの灰皿というあたりに何か因縁がありそうな気もするのだが・・・。


March.17,2001 心霊現象? 寝ぼけ?

        この一年くらいに私の周り起きている心霊現象のようなものは、ほとんどが私が寝ている間に起こり、朝、目が醒めてから気がつくという具合なので、人に話すと「それは、お前が夜中に寝ぼけてやったことだよ」と言われてしまう。そうかもしれない。そうかもしれないのだが・・・。

        一番最近なのが先週のこと。その晩は、ウチに私ひとりだった。仕事を終え、洗面所でビタミン剤を飲み、風呂にも入らずに部屋でテレビを見て寝てしまった。翌朝、いつものように4時半に目を醒まし、調理場に降りて仕事を開始しようとしたらば、洗面所の電気が点いている。「あれっ? 昨夜、ビタミン剤を飲んだときに電気を消し忘れたのかな?」。私は電気を消しに、洗面所に近づいていった。そして、不思議なものを発見したのだ。靴である。靴が1足、いかにも脱ぎ散らかしたという具合で転がっている。

        誰の靴だろう? これが私の靴だとしたら、私が夜中に寝ぼけてやった可能性が強い。靴は、[クックシューズ]といわれるものだった。その名のとおり調理用の靴である。築地あたりに行くと売られているもので、とても便利なので大変重宝して店中の者が使っている。この靴のよさを挙げるとこういうことだ。

@防水性に優れている。濡れても沁みてくることがない。水がかかっても弾いてしまうのだ。蕎麦屋のように水を大量に使う仕事の場合、これは助かる。
Aさらに重要なのが、滑らないということである。調理場の床は、タイルや鉄板で出来ていて、脂や洗剤なども落ちているから極めて滑りやすい。この靴は絶対に滑らないので安心だ。
B物凄く軽くできている。これ以外の靴で、これ以上軽い履き心地のものを私は知らない。防水性を求めるならばゴム長靴があるが、あれはいかんせん重い。そして蒸れる。
C素早く履ける。つまり、着脱がスムーズだということ。ある程度スピードを要求されるウチのような職業の場合、これは重要な要素の一つである。

        さて、靴の説明が長くなってしまったが、要するに家中の者が自分用の[クックシューズ]を持っているということである。私は誰のクックシューズだか調べてみた。それは、店の中で一番足のサイズが大きいものだった。私などではブカブカで履き心地が悪く感じるやつ。

        話を昨夜に戻してみよう。店を閉め、後片付けを全員でやる。終わった人から順番に帰っていった。いつも最後は私で、いつもどおり9時半に終了。この時点でウチには誰もいなかった。靴を脱いで2階に上がる。洗面所に行きビタミン剤を飲む。当然この時点で靴など転がっていた記憶はない。3階の私の部屋に行き、テレビを見て寝てしまった。

        こう書くと、それはお前が他人の靴を履いて仕事をして、疲れて靴を履いたまま2階に上がり込み、洗面所に脱ぎ散らかして寝てしまったのだと言われてしまうかもしれない。しかし、それは無理がある。私がブカブカの靴で仕事をしていたわけがないし、第一、私に靴を奪われた当人はどうしていたというのだ。

        オーケー。それでは私が眠ったあとで、私が夜中に寝ぼけて起きだし、他人の靴を履き、何処かをうろつき、靴を履いたまま2階に上がり込み、洗面所に靴を脱ぎ散らかして、また寝てしまったということだろうか? まさか! そんなヘンなことをするわけがない。百歩譲ったとしよう。しかし問題がある。ウチには下駄箱がふたつあり、その大きなサイズの靴は私が使わない方に入っていたものである。そこから引っ張り出してきたというのは、どうも考えにくい。

        こういった、私が寝ぼけてやったのか、心霊現象なのか分からないことはよくある。朝目覚めたら、真冬だというのに部屋の窓がいっぱいに開いていたこともある。その窓を開けるとしたら、いつも左側を開けるのに右側が開いていたというのも解せない。「お前が寝ぼけてやったんだよ」でなんとなく説明がついてしまうのが口惜しいのだが、中にはちょっと説明がつきにくいのがある。その話は次回。


March.11,2001 花粉症の特効薬はないものか!? 

        花粉症の季節。実は私もご多分に漏れず花粉症である。世の中で、花粉症の人の割合はどのくらいなのだろうか? 8人にひとり? 6人にひとり? ウチの店で働いている人間は一日延べ10人。去年まで働いていた人がやはり花粉症だったから、私と合わせてふたり。10人の内2人が花粉症ということで、5人にひとりという割合だった。それが新しく来た人が花粉症ではなかったので、ついにウチでは花粉症は私ひとり。10人にひとりという超少数派になってしまった。AB型の血液は10人にひとりだというから、AB型で花粉症の私みたいな人間の割合は果たしてどのくらいなのだろうか? 私ってそんな少数派か? 性格や考え方や趣味や外見からいっても、これといった特徴のないごくごく普通の一般的な日本人でしょ、私。えっ? 違う?

        朝の起きぬけが一番酷い。クシャミが止まらなくなり、鼻水がダラダラと出てきて、ティッシュペーパーが手放せない。鼻をかんでばかりいるので、ふたつの鼻の穴の中間の部分がティッシュペーパーで擦られて、擦りきれて真っ赤になっている。最盛期はほぼ3月いっぱいなので、そこまでの苦労なのだが、毎年この時期は杉の少ない場所に避難していたくなる。日本でも北海道とか沖縄は杉花粉が少ないと聞いた事がある。いいなあ、沖縄なら3月といえばもう暖かいだろうし、毎年3月は休暇をとって沖縄に遊びに行く―――なんて訳にはいかないか。

        花粉症なんていう病名が言われだしたのは、いつからだっただろうか? 当初はそんな病名は無く、この時期になるとクシャミが止まらなくなるので医者に行くと「風邪でしょう」と言われて、普通の風邪薬をもらって飲んでいた。それがどうもアレルギー性鼻炎だと世間が騒ぎだして、やっぱりこれは風邪ではないんだと気がついた。

        次々とアレルギー性鼻炎の薬が出始めた。いろいろと試してみたのだが、あまり効果がない。それに、何と言ってもこれらの薬を飲むと猛烈に眠くなる。もともと寝不足に弱いタチで、徹夜は大の苦手。ただでさえ一日5時間半しか寝ないから、ちょっと寝不足気味なのだろう。薬を飲むと立っていられなくなってしまう。眠気の少ない薬だというのも試してみたが、これもほとんど同じで、やっぱり眠い。しだいに、薬は飲まなくなってしまった。

        花粉症に効く注射があると聞いて、遠くの病院まで行ったことがある。シーズンの初めに打てば、そのシーズン中効果が持続すると言われたが、まったく効果なし。2年通って辞めてしまった。

        そういえば、世間でアレルギー性鼻炎という名前が浸透しはじめたころ、薬局に行っていろいろと薬を試しているうちに、どれを飲んでも眠いので店主に、何か他にないか尋ねたことがある。そうしたら何やら小さな箱に入った薬を出してきた。買って帰り、箱から薬瓶を取り出す。小さな瓶の中に、ピンク色をした凄く小さな錠剤が入ってていた。ラベルを見ると[細胞腑活性剤]とか書いてあったと思う。藁をもすがるつもりで飲んでみたら、しばらくすると視界がなんだかヘンだ。見るもの見るものが、全てキラキラと耀いている。な、なんだこりゃあ? なんだか気持ち悪くなってきた。もちろん花粉症にはまったく効果なかった。アルコールと一緒に大量に飲んだらトリップしちゃいそうだなあと思ったが、怖いので捨ててしまった。

        そういったわけで今では薬は一切飲まずに、毎年シーズンが過ぎ去るまで、ジッと耐えている。まあそのうちに、花粉症が一発で治る薬が発明されるだろう。それまでの辛抱だ。ああ、それにしても日本中の杉の木を全て切り倒してしまいたいなあ、もう!


March.2,2001 [若草の宿 丸栄]屋上

        [丸栄]で一泊して、朝になった。日の出は午前7時前後だから、6時半ごろに屋上に上がる。なんとかして日の出を見たかった。なにしろ大晦日は忙しくて元旦の朝など疲れ果てて眠っているから、初日の出など拝んだことなんかない。この富士山が見える宿で、初日の出とはいかなくても、日の出を見てみたい。前日の夜にそう思ったのだった。

        [丸栄]の屋上は、泊り客なら自由に上がれるようになっている。回りには高い建物はひとつもない。360度の展望が楽しめる。空を見上げる。何も障害物がないと空は驚くほど広い。こんな広い空を眺めたのは何年ぶりだろう。6年前イスタンブールに行ったときに、ガダラ橋の中央に立ったとき以来だろうか。あの時も、30分くらい、ただボンヤリと空を見上げていたっけ。

        [丸栄]の屋上には望遠鏡が備え付けてある。

        南に富士山、北には河口湖。これで自由に展望を楽しむことも出来る。あっ! もちろん100円入れなくても見えるんですよ。午前7時が近づいてきた。富士山もくっきりと見えてきた。

        ねっ。朝日を浴びた富士山ってきれいでしょ。この宿に泊まってよかったなあと思ったのは、食事も風呂もよかったけれど、何と言ってもこの朝の景色が見られたこと。それでですね、日の出、見ることができました。生まれて始めて日の出の写真を撮りました。

        東の山の肩から太陽が昇ってきたときには、感動しましたね。お天道様に恥じないような暮らしをしなければ―――そう思ってしまいますよ、こういう瞬間を見ると。30分以上外にいたら、すっかり冷えきってしまった。風呂だ風呂だ!

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