September.27,2001 ありがとうございました

        本日、明治座千秋楽。今月は坂本冬美座長公演『夜桜お七』でした。坂本冬美様、二宮さよ子様、倉田てつを様、山田スミ子様、園田裕久様、長嶺有紀様、丘野桃子様、大友七菜様、吉田粋美様他の皆様から注文をいただき、楽屋まで出前させていただきました。ありがとうございました。


September.13,2001 内開き、外開き

        この夏、建築関係の仕事をしている友人と酒を飲む機会があった。久しぶりにのんびりと話せたので話題は多岐にわたったのだが、私はふと今年見た三谷幸喜の脚本・監督映画『みんなのいえ』のことを思い出し、友人に「見た?」と訊いてみた。忙しい生活をしているこの友人は、見たかったのだが見に行っている暇がとれなかったと言う。

        建築家と大工の意見が対立する話だというのは知っていたらしい。私は、中で建築家が日本の家屋にはない内開きの玄関ドアを付けようと設計すると、昔かたぎの大工は、そんなものは有り得ない、ドアは外開きにするものだと主張してゆずらないという例を持ち出し、こんなことがあるのかと問うてみた。

        「確かに、日本は外開き、外国は内開きですよね。何故かと言うと、日本の場合は単に狭い家に住んでいるから。内開きにしも困らないような大きな玄関を持っている人は少ない。しかも、日本人は靴を脱いで上がる。当然内開きドアは玄関の邪魔になるわけです」

        友人はさらに続けた。「諸外国が内開きなのは、これはもうセキュリティの問題。侵入者が押し入ろうとしたら、家具などをドアに立てかければ、ドアを守ることができる。ほら、映画好きなら分るでしょ。インディアンが襲撃してきて、家具をドアに寄せて防御するシーンあるじゃない」

        そうかあ。西部劇だけでなくても、ギャングでもゾンビでも、押し入ろうとする外敵から守るために大きな家具を戸に立てかけるシーンってあるよなあ。日本みたいな外開きだとドアを開けられて、家具を蹴倒されたら一発だもんなあ。

        よく考えると日本のホテルって、内開きと外開きのが混在している。外国人が内開きのドアのホテルに泊まって違和感を感じないのだろうか? 人によっては、すっごくセキュリティに不安を感じるってありそうな気がするんだけど、いかがなもんだろうか・・・。


September.7,2001 メガネ

        高校生になってすぐのことである。事故で顔面骨折という重症を負ってしまった。そう、ビートたけしと同じである。入院したのも、奇しくも後にたけしが入院することになる病院だった。たけしほどではないが、私の事故も朝日新聞の三面記事の下の方に小さく載ってしまったから、ちょっとした事件だったのかもしれない。

        そのときに右目が四谷怪談の[お岩さん]のように腫れ上がってしまった。やがて腫れは引いたが、それがきっかけだったのだろうか、視力が落ちてしまった。中学校を卒業するまでは、私は視力には自信があった。小さなときから学校で測る視力検査は、いつでも両目とも1.2だった。それが、以来メガネが必用なほどの近視になってしまった。特にケガをまともに受けた右目がよくない。左目はけっこう視力があったが、右目の視力を補うように左目を酷使したせいだろうか、左目も少し視力が落ちてしまった。

        授業で黒板の文字が読みにくくなったので、初めてのメガネはそのときに買った。それでも普段は、メガネがないと街も歩けないというほどではないので、メガネをかけるのは授業中と字幕つきの映画を見るときくらい。別に牛乳瓶の底ほどもあるレンズをはめていたほどではないので、それで事が足りた。

        二つ目のメガネを買ったのは、20代の後半だった。突然にオートバイなるものに興味を持ち、免許を取った。その後にクルマの免許も取ることになったのだが、まずは私の欲しかったのは中型自動二輪の免許書だった。自動車教習所の入所の際に、高校生以来使っていたメガネで検査を受けたら、これでは視力試験にパスできないから、もう少し度の高いものを買うように言われたのだった。

        そして先日、私は生涯で三つ目のメガネを買うことになった。いままで使っていたメガネを旅行先で無くしてしまったのだった。二つ目のメガネを買った店に行き、新しいメガネを注文する。「以前、当店でお作りになったことはございますか?」 「ええ、確か15年くらい前に一度作りました」 新しく検眼をしている最中に、もうひとりの店員さんが記録を調べに行った。検眼が終了したころになって、その店員さんが戻ってきた。「前回、ご利用いただけたのは21年前でございました」 ええっ! あれからもう、そんな月日が経つのか! 

        「21年前のときに比べて、またちょっと視力が落ちてらっしゃるようですね。これだと運転免許の審査ギリギリというところですが、どうなさいますか? 一段強くしたレンズにいたしましょうか?」 「ええ、そうですね・・・」 「ただですね、もう老眼が入ってきてらっしゃいますね・・・」 「そうでしょうね・・・」 21年という歳月は、ただ単に過ぎ去ったばかりでなく、老化というものを伴ってやって来た。

        近視の入った老眼だから、メガネをかけなくても近くのものはよく見える。文庫本の小さな字も平気だ。だが最近不便なことが発生した。寄席などに行って、落語を聴きながらメモを取るという生活が今年から始まってしまった。高座はメガネがないとよく見えない。しかし、手元のメモ用紙はメガネをしていると良く見えないのだ。以前はそんなことがなかったのに・・・。「それが老眼というのだよ」と人に言われて愕然とした。

        「つまりですね、度を上げると遠くのものはよく見えるようになります。ただし、近くのものはますますボヤけるということになりますが・・・」 そうかあ、そういうことか。運転のためには度を上げなくてはならない。しかし寄席でメモを取るときには、以前にも増して見難くなるということなのか・・・。

        「遠近両用メガネというものもございますが・・・」 あの真中で上下にレンズが別れているやつかあ。うううっ。「それがお嫌でしたら、跳ね上げ式と申しまして、レンズを上に跳ね上げて使うというのもございます」 うううううっ、どちらにしてもジジくさいではないか。「もう立派にジジイの仲間入りだよ!」と言われそうな歳なのだからしょーがないのだが・・・。とりあえずは、もう10年、遠近両用だけは勘弁してもらおう。寄席でメガネをはずしたり、またかけたりと忙しい習慣が続くこととなる。

        「最近、若い人の間では、こういった小さなフレームのものが流行っているんですよ」 店員さんの言葉に、イチもニもなく飛びついた。まだまだシジイになってたまるか!!

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