September.29,2003 ありがとうございます

        本日、明治座千秋楽。今月は三田佳子座長公演『日本橋物語』でした。三田佳子様、平幹二朗様、二宮さよ子様、鈴木ほのか様、植松鉄夫様、大槻純子様他の皆様から出前のご注文をいただき、楽屋までお届させていただきました。ありがとうございます。


September.20,2003 渡したあとは、渡された方の責任

        お客さんから注文を受ける。こちらはその注文通りのものを作り、お客さんに渡す。ご来店くださって召し上がるなら、お客さんの座っている席まで運ぶし、出前なら、その人の家の玄関先まで運ぶ。これが商売というもの。商品を渡した時点で、こちらの責任はほぼ終わる。そのあとでお客さんが誤って丼をひっくり返そうが、七味唐辛子を入れすぎようが、こっちは関係が無い。しかし、そうもいかないのが商売でもある。ひっくり返った丼を片付け、もう一度無料で作りなおしたりする。

        お客さんが、注文したものと違うと言い出すこともある。「たぬきうどんと注文したのに、来たのはたぬきそばだった」と言われれば、このお客さんは確かにたぬきそばって言ったよなあと思ったときでも作りなおす。それが商売。私はアイスティーというものはめったに飲まないのだが、先日もファースト・フードで「ミルクティーをください」と注文したら、アイスミルクティーが出てきた。「私はアイスティーなんて言ってません。ミルクティーと言ったんです」と言ったら、応対の女性は「いや、アイス・ミルク・ティーと言いました」と譲らない。こちらも高年齢になってきたから、ボケてアイス・ミルク・ティーと言ったのかもしれないと、アイス・ミルク・ティーを受けとって席に着いたのだが、どう考えても確かにミルクティーと注文したとしか思えない。納得がいかずに飲んでいるアイス・ミルク・ティーはなんだか虚しかった。

        私は何を書こうとしているのだろうか? 話が逸れてしまったが、ようするに、物を受け取ったら、その時点でその責任は受け取った側にあるということだ。

        うちに出入りしているある業者がいる。これが決まって私が朝食を摂っている時間に食材を持って現れる。この業者は現金取引だから、配達の度にその場で現金を支払う。わたしらも、出前をするときは現金引換えが原則だから、持っていったらなるべく早く代金を受け取りたい。次の出前も待っているから一刻も早く代金を受けとって店に帰りたいと思う。しかし、出前先によっては代金を受け取るのに時間がかかる相手もいる。会社など、誰が注文したのかわからず長い時間待たされたりする。それでもジッと我慢して待つ。気の効いた人がいてくれると、代りに支払ってくれたりするのだが、OLさんなどは、まずそういう融通が効かないことが多い。

        話を元に戻すと、私が朝食どきに現れる業者の男だ。この男は、食材を指定の場所に置くことよりも先に、全身で早く代金を支払ってくれという意志を示す。こちらも代金は早く払ってあげねばと思うから、口をモグモグさせながらも金庫のある場所に移動する。また、配達の人にはつり銭がいらないように、1円の単位までなるべくキッチリと払うことにもしている。この日も1円の単位まで正確に金庫から取り出し、この男に手渡した。すると、この男は小銭を3枚取り落としてしまったのだ。うち2枚は地下室の下まで転がっていった。しかし「すみません」でもない。仕方なく私が地下室まで降り、隅に落ちていた1円玉1枚と、10円玉1枚を探し当てて階段を上って手渡した。その間、この男は一緒に降りて落ちた小銭を捜そうという態度を一切とらなかったので、私は少々ムッとしていた。落としたのは男の方だ。一端渡したものは、落とそうがなくそうが、そっちの責任だと思ったのだ。すると、紙幣と小銭を勘定していたこの男が、「10円足りません」と平然と言うではないか。私はキレる寸前になっていた。「いったん渡したものは、そっちの責任だろう。こっちは知らないよ!」と怒鳴ってやろうとした瞬間に、「あっ、ありました」と床に落ちていた10円玉を拾い上げるとスタスタと去って行ってしまった。私は咽喉元まで出かかった怒りの言葉をどこへやったらいいのか困ってしまった。テーブルに戻って再び食べ始めた朝食が虚しかったのなんの。


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