2012年5月29日 オーベルジュ・アルカナ@ 今年の誕生日は、運よく死の病から生還したこともあり、区切りの意味でちょっと贅沢しようと思った。 インターネットで湯ヶ島の高級旅館オーベルジュ・アルカナを調べてみると、アニバーサリー・プランというのがある。これを申し込むことにする。 12時東京発の踊り子に乗り、出発。 途中、車内販売で飲み物でも買おうと思ったのが誤算だった。この列車、後方の修善寺行きの車両には車内販売が来ないのが途中で判明。ああ〜、そんなことなら東京駅で買ってから乗ればよかった。 とはいえ、修善寺までなんて、あっという間。二時間ほどで到着してしまった。チェック・インできるのは15時から。 駅前の中華屋さんに入り、餃子をサカナにビールを少しだけ飲む。私は手術後、まだ辛いものが喉を通らないのだが、ここの餃子は唐辛子が練り込んであるらしい。ラー油を使わず醤油と酢だけで食べたのに、その辛いのなんの。それでもなんとか食べられたのは、喉が少しずつ辛いものを受け入れ始めているらしい。 そろそろ時間だと駅前のタクシー乗り場でタクシーに乗る。ここで失敗をしてしまった。行き先をオーベルジュとだけしか言わなかったのがいけなかった。 タクシーから下りて目の前の建物に入り、受付に行くと、係の人が出て来て、名前を聞かれた。こちらの名前を告げると、予約が入っていないと言う。あれっ? インターネットで予約を入れ、メールまで返って来たのに。 さらに言うことには「確かにオーベルジュ・フェリスにご予約でしょうか?」 えっ! フェリス? 私の泊るのはオーベルジュ・アルカナだ。あとから知ったのはオーベルジュとはフランス語で宿泊設備のあるレストランのことなのだそうだ。修善寺近辺でオーベルジュを名乗るのは、このフェリスと、湯ヶ島温泉にあるアルカナが存在するとのこと。 いやー、恥をかいてしまった。付け焼刃は剥げやすいとはこのことだ。フェリスの人に言わせると、これで今までで二回目との事。前にも一度あったんだあ。まあ、アルカナに電車で来る人も少ないんだろうけど。はずかしい。 ても、このオーベルジュ・フェリスもなかなか良さそう。今度、改めて来てみたくなった。 タクシーを呼んで貰って、今度こそ今夜の宿泊地オーベルジュ・アルカナへ。 エントランスに入ると、バトラーさんが出迎えてくれる。ロビーといったものはなく、すぐに客室へ通されて、そこで宿泊手続き。 ウェルカム・ドリンクとクッキーの他に、アニバーサリー・プランということで、花とケーキが用意されている。思うに、誕生日に花を貰ったことはないぞ。昔は「花なんて貰ったって」と思っていたが、うれしいものだなあ。ケーキもアルカナのパテシエさんが作ってくれたそうだ。蝋燭に火を点けて吹き消し、いただく。そのおいしいこと!! ベランダからは、すぐ下を流れる川が眺められる。前方は一面の緑。ここのベランダに座って、川のせせらぎを聴きながらのんびりするのもいいが、このベランダには露天風呂がある。この風呂に入って過ごす時間は、なによりの贅沢だろう。 夕食までにはまだ時間があるので、近くを散歩。外に出ようとするとバトラーさんが地図をくれた。その地図にしたがって遊歩道をぶらぶら。ときおり小雨がパラパラときたが、それほどのことはなかった。 湯ヶ島温泉には初めて来たが、ここは静かな山間(やまあい)の温泉地だ。同じ伊豆でも、東海岸などと違って落ち着いた風情がある。あまり観光客も歩いていない。穴場といえるかもしれない。 夕食は18時から20時ということで、19時に予約を入れ、庭づたいにレストランへ。カウンターを挟んで目の前でシェフが料理を作っている様子が眺められる。それにシェフやバトラーと話をしながら料理が楽しめる。 目をさらに前に向けると大きなガラス窓。その景色もディナーを演出している。席に着いたときにはまだ少し薄暗かったが、だんだんに日が落ちて行って、やがて真っ暗。そこにライトアップされた幻想的な眺めが現れる。なんだか水族館の水槽を見ているようで、変な話だが、魚が泳いでいるのが見えてもおかしくないくらい。 天候が不安定な日で、時折、窓に稲光が走り、雷の音が聞こえたが、これも、はからずも効果的になった。やがてザーっと雨が降り出す。 アニバーサリー・プランなのでシャンパーニュが一本付く。これを飲みながらの食事も、ワンランク上の、神秘というコース。伊勢海老、ウニ、キャビア、フォアグラ、トリフ、鰻といった高級食材を使った前菜の数々も、一皿一皿、どれもこれも、それぞれに工夫がしてあって、びっくりすることばかり。 シャンパーニュの酸味と炭酸は私にはキツいので、ほどほどに喉を潤し、料理を少しずつ、ゆっくり味わう。 調理方法を素材によって変えて盛りつけた60種類の野菜が入ったひと品は、その手間はもちろんの事、最後に「あっ!」という仕掛けが。 魚料理、肉料理が何品かきて、一皿一皿の量は少ないのだが、さすがにもうお腹いっぱい。そこにデザート攻勢が始まる。小松菜を使ったデザートが来たかと思うと、メインのデザート。これがもうまた「あっ!」と驚く仕掛けがしてあった。 さらにチーズとドライ・フルーツ。ドライ・フルーツなんてじっくり味わったことがなかったが、これがまたチーズと一緒に噛みしめているとおいしいのなんの。 食後の飲み物は、オリジナルのハーブ・ティーを選択。これにも、とどめのデザート三種付き。おいしいなあ。お腹一杯といいながら完食。 レストランを出たのが21時。雨はすっかりあがっていた。 アルカナにはテレビが置いてない。現実世界から離れて時間を過ごして欲しいとの配慮らしい。ただし、BOSEのCDプレイヤーが置いてある。それをあらかじめ知っていたので、CDを何枚も持って来ている。食後、落語のCDを聴いて過ごす。小三治と志の輔。いよっ! 名人! 広いベッドに入り、いろいろなミュージシャンの入っている洋楽コンピレーション・アルバムを静かに流しながら、眠りに着く。 今までの誕生日は毎年、なんだかなんとなく、どさくさで過ごしてしまっていたような気がする。平日はもちろん仕事に追われ、ケーキも仕事の合間に慌ててかっこんでいた。また休日といえども、のんびりするわけでもなく、うやむやのうちに流されてしまっていた。この歳になってようやく、自分がこれまで生きて来れたという喜びを素直に受け入れる事ができた。 大病というのも、考えようによっては良かったのかもしれない。自分を見つめ直すことができたのだから。 |