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蕎麦湯ぶれいく

2012年6月13日 大雪山山麓・旭岳

 飛行機に乗るなんて何年ぶりのことだろう。記憶を辿ると、両親の金婚式のお祝いを兼ねて、ゴールデンウイークを使って、両親を連れて沖縄へ行ったとき以来だから、う〜ん、なんと11年ぶり!!
 あのときの文章を思わず読み返してしまった。なにやら、せっかくJALのスーパーシートを買ったのに、羽田の特別待合室はマイレージ・カードを持ってないと利用できなくなったことに怒っている。もう二度とJALは使わないなんて書いてある。10年も経つと、そんなこともすっかり忘れてしまうようだ。だって10年以上飛行機とは縁の無い生活をしていたんだから。
 今や、インターネット全盛時代。今回の旅行の、航空機のチケットも、ホテルも全てインターネットを使って取ったもの。そういう時代になったんだよなあ。

 というわけで初めてインターネット予約及びカード決算で手に入れたJALのチケット・・・いや、手元にチケットがあるわけではない。手元にはインターネット予約画面に現れたバーコードを印刷した用紙が一枚あるだけ。これを保安検査場の読み取り機にかざすだけでチェックインができるとの解説を読んでも、「何の事だ?」としか思えない。とにかく現場に行ってみるしかない。

 羽田発7:55、JAL1103便旭川行きに乗るために、都営地下鉄浅草線→京浜急行で羽田空港へ。羽田のあまりの変わりように戸惑うばかり。ほとんどお上りさん状態で出発ロビーに行き、検査場をバーコードで通過。
 それからがまた大変だった。とにかく羽田は広い。搭乗口がどこだかわからない。「あっちか?」「こっちか?」と探しながら歩く。それでも、しっかり空弁をゲット。

 ようやく搭乗口にたどり着いたのが7:45。あと10分で出発時間だ。ここで検査場で渡された紙を渡せばいいのだろうと思っていたら、またバーコードが必要だと言う。慌ててバッグをガサゴソ探すが見つからない。どこへ仕舞い込んでしまったのだろう。
 この書類はあとからバッグの中から、なんということなく見つかることになるのだが、慌てていたのと、緑内障のため視野が欠けているのでバーコードの印刷されている位置が、視野から外れてしまったのだった。

 地上係員に事情を説明すると調べてくれて、通過OKになった。行きの飛行機へは、搭乗口からバスに乗っての移動だった。遅れてきた人のための専用小型バスで飛行機まで。「すいません、すいません」を繰り返して、指定された席へ。これだから、最近の搭乗方法を知らないと人に迷惑をかけてしまう。反省。

 定刻を少し遅れて飛行機は飛び立つ。私のせいでなかったことを祈る。

 飲み物のワゴンが回って来たので、コンソメスープを貰い、空弁を開ける。大増の空弁、鶏そぼろ。900円。鶏そぼろが乗っているご飯だけでもおいしいが、ヤキトリの他、磯辺揚げや煮物類も、さすが大増だけあって上品な味付け。おいしくいただく。

 機内放送、JAL名人会はサンドウィッチマンのコント風漫才2本と、橘家文左衛門の『転宅』。なんだか得した感じ。

 9:35着の予定が、10分ほど遅れて9:45着。9:59発の旭岳行きのバスに乗ろうと思っていたので、間に合うかちょっと不安になる。待ち合わせが14分しかないではないか。これを逃すと次は13:09まで無い。少し早い時間に出発するANAに乗ればよかったかなと、少し後悔するが、ゲートを出ると旭川空港は羽田と違って小ぢんまりしている。目の前がすぐバス停だった。余裕で間に合った。

 バスに乗って一路旭岳へ。窓の景色はいかにも北海道という、広ーい畑が連なっている。道路はカーブも少なく一直線に続いている。
 道はやがて坂を登り始め、高原へと向かう。窓の景色はいつしか新緑の山道になっている。
 一時間ほどで旭岳へ到着。勝手に想像していたのは温泉街が広がる広い空間。それが下ろされたところといえば、ロープウェイ乗り場だけがポツンとある林の中。

 ロープウェイ乗り場で往復券を買う。乗客は6〜7人。みんな高齢者。私のちゃちなカメラではなく、高性能の大きなカメラを持った人が多い。
 あっという間に頂上の姿見駅へ。
 ロープウェイを降りた乗客は、係員によって、旭岳ハイキングのレクチャーを受ける空間に案内される。注意事項、周遊コースの説明があり、よければ、200円でゴム長靴の貸出があるという。
 ここでゴム長靴を借りることにして、すぐ裏のレンタル場で長靴に履き替える。手荷物も邪魔に思えたのでコインロッカーに入れて、いざ出発。

 歩き出して長靴を借りて良かったことにすぐ気付かされることになる。板を並べて作られた道は最初のところだけで、すぐに雪道になった。それも生半可な積雪ではない。足を出すとズブズブと沈み込んでしまう。一応、探勝路は作られているものの、雪で埋まっていて杭を頼りにしないと道だかなんだかわからない。しばらく登っていったら、上から引き返してくる女性がふたり。見ると普通の靴を履いている。これでは無理だと気が付いたのだろう。あれじゃあ絶対に靴は一足ダメにしてしまう。200円ケチって、靴をダメにしては元も子もないだろう。第一、雪が靴に浸水して来て、気持ち悪いったらないに違いない。

 道は、ところどころ雪が溶けて歩きやすくなっているところもある。それでも、ちゃんとした登山靴ではなくとも、運動靴は必要だろう。

 周遊路には高山植物が多く見られた。エゾノツガザクラ、チングルマ、キバナシャクナゲ。今まで見た事も無いそれらの植物に目を奪われる。聞こえてくるのは様々な鳥の鳴き声。ここはまさに別天地。平日のせいもあるのか観光客も少なく静かだ。この空間はなんと形容したらいいのか。ここが天国というところだと言われれば納得してしまうかもしれない。

 第一から第五展望台へと巡る周遊路をゆっくりと歩く。今年は寒かったからだろう。とにかく雪がまだ多い。いくつかある池もみんな凍りついている。そして寒い。北海道旅行ということもあって用心にセーターを一枚バッグに入れてきたことが幸いだった。身体は暖かかったが、手は冷たい。手袋を持ってくればよかったのだが、さすがにこれは予想しなかったこと。

 グルッと一周するのに一時間かかると言われたが、一時間半かけてのんびりと歩く。なにしろ次の帰りのバスは14:10。到着したのが10:51だから約3時間以上の余裕があるのだ。姿見駅に戻り、コーヒーを飲む。冷たい空気の中を歩いた後のコーヒーは格別だねえ。

 時間が来たのでロープウェイで山麓駅へ下りる。途中、眼下に鹿の姿を発見。

 帰りのバスは行きと違って小型バス。乗客は私を含めて4名。一日三便しかないのにこれというのは、乗用車で来た人以外はどうするんだろう? バスは元来た道を旭川に向かって走る。途中、時間調整のために何回か路肩に駐車する。乗降客もなく、道路が空いているので運行時間が早すぎてしまうらしい。

 行きに乗った旭川空港を通り、旭川市内へ。旭川駅で下車する。
 今宵の宿へはちょっと距離がある。送迎を頼めば迎えに来てくれるらしいのだが、ローカル鉄道に乗るのも楽しそうなので石北線に乗ることにする。

 駅の売店で、奇跡のプリンなる商品を見つけ、購入。

 石北線はディーゼル列車らしく、少々やかましい。地元の高校生らしい乗客で埋まっている。
 奇跡のプリンは399円と、いささか高価だった。なにしろ去年の暮れから今年の始めにかけて、入院中に毎日一個、様々なプリンを食べた私だ。プリンに関してはいささか、うるさい。これはまず香りがいい。スプーンですくって口に近づけるとプーンといい香りがする。そしてこのプリンはかなりいい卵と牛乳を使っているに違いない。無理矢理な濃厚さではなく、本心からおいしいといえる味だ。

 目的地、当麻駅が近づくと、二両編成の車両の乗客が前へ前へと移動して行く。私も前に移動。列車が駅に着くと今まで運転手だった人が乗客のキップを受け取っている。そうか、ここは無人駅なんだ。

 駅を降りて、「さて、どうしようか」とロータリーを見渡せば、タクシーなど停まっていない。駅の隣に売店があったので、店の人と話してみれば、駅前にタクシー会社があるという。タクシーの営業所へ向かって歩いて行くと、事務所から運転手が出てきた。
 タクシーで今宵の宿、[いちいの宿]へ。

 [いちいの宿]は国道沿いにある、ちょっとメルヘンなかわいい外観。入ったところがすぐ食堂で、そこに通された。早速、ウェルカム・ソフトアイス。アイスクリームを舐めながら宿帳に記入。ホテル、旅館というよりは、ペンションに近い。

 全7室らしい小規模の接待は家庭的で、こういうところに泊った経験が少ない私には新鮮な感じ。

 いつもは満室になってしまうことも多いらしいが、今夜の宿泊客は珍しく二組のみ。ここは、バラ風呂が名物。浴場にはバラの花が浮いていてアロマテラピー効果があるらしい。二組だけだということで、いつもは男風呂、女風呂に分かれているのを、ひとつずつの貸切にしてくれる。おかげで、気兼ねなく、何回でも、ひとりで、のびのびと入浴ができた。

 夕食は食堂でベランダからの景色を眺めながら。今は日が長いから、ゆっくりと外の景色が、暗く変化していく。ベランダには外飼いの猫が何匹かいて、交替で目の前に現れてはお客さんの前でポーズを作り、やがていなくなる。まるでシフト時間でもあるように代わる代わる、別の猫がやってくるので、思わず笑ってしまう。

 まず刺身の盛り合わせが来た。何種類も乗ったお造りのうち、ホッキ貝がお薦めだというので、まずはホッキから。普通、ホッキというと湯引きしてしまっているから赤い色のものを想像していたが、これはホンモノ。まったくのナマ。ナマのホッキは柔らかい。ホッキってあまり好きではなかったのだが、こんなにおいしいものだったとは。鯛、本鮪も柔らかくておいしい。

 前菜。「まずはグリーンアスパラを食べて欲しい」とのことで、何もつけずにかぶりつく。甘い! これは朝採りのものだから、これだけの甘さが出るのだと言う。グリーンアスパラに対する認識が変わってしまった。これはこの時期、北海道に来てこそ味わえるものだ。

 名物パンデグラタン。パンをくり抜いて、中にクリームグラタンが入っている。おいしい、おいしい。

 サーロイン・ローストビーフもソースがおいしいし、柔らか。

 そして、揚げたての天ぷら。カニやエビもおいしかったが、なんといっても野菜が甘くておいしい。

 〆は、いくら丼と、じゃがいもの味噌汁。じゃがいもは、インカのめざめだそうで、ホクホクとしている。

 デザートと紅茶をいただき、お腹いっぱい。

 夜は旅行の興奮で、何度も目が覚める。そのたびにバラ風呂へ。露天もあるので、ときどき夜気を吸いに出る。北海道一日目の夜は静かに静かに更けていく。

6月18日記

静かなお喋り 6月13日

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