直線上に配置

蕎麦湯ぶれいく

芦ノ湖西岸縦断

2012年12月19日

 6時30分に出かけようと思って、目覚まし時計を5時30分にセットしておいた。夜中に何回か目を覚ましたのだが、最後が4時30分。目覚ましが鳴るまでまだ一時間あるからと、寝込んだのがいけなかった。5時30分の目覚ましがはたして鳴ったのか鳴らなかったのか、次に目を覚ましたのが出発時間である6時30分。慌ててベッドから出て服を着替え、前日の夜に出しておいた旅行用荷物をナップザックに詰める。

 結局家を出たのが6時45分。小田急ロマンスカーの切符は7時28分発。都営新宿線で行ってもギリギリ間に合わないこともなさそうだが、タクシーを使うことにした。朝の道路は空いていて、スイスイと新宿へ。7時少し過ぎには到着してしまった。

 皇居の周りを通るときには皇居一周ランナーの姿を何人も見かける。運転手さんによると、正月の箱根駅伝のランナーたちの姿を最近はよく見かけるとの事。これから私は箱根へロマンスカーとバスを乗り継いで行く。駅伝ランナーさんたちは本当にご苦労さまなことだと頭が下がる。

 ロマンスカーは快適に箱根へと向かっていく。車窓を眺めていると、駅の上り線のプラットホームに、列を作っている通勤者の姿が見える。勤労者さんたちは本当にご苦労様なことだと頭が下がる。

 9時1分、箱根湯本着。寝坊して出てきてしまったので朝食も食べそこなってしまった。駅構内の[箱根カフェ]で、シチュウパンと、スノーマンというクリームパンを買って、桃源台行きのバスに乗る。

 桃源台には去年の10月に来た時に、海賊船乗り場の横でたくさんの猫さんたちに逢ったので、「今年もいるかなぁ」と思って行ってみると、子猫ばかりが十数匹走り回っていた。ベンチに座ると群がってきて、何匹かは膝の上に座ってしまう。あまりにかわいいので写真撮影をしていると、ベンチの下に置いたナップザックの匂いを嗅いでいるやつが何匹かいる。ははあ、食べ物が目当てらしいなと思い、土産物屋で何か餌になりそうなものはないかと探しに行った。

 さすが小田原が近いだけあって、蒲鉾がたくさん並んでいる。中でも千切りやすくて安価なものを選び、猫のところに戻る。するとさっきまでと猫の目つきが違う。真剣な目になってこちらを見ている。

 手で小さく千切ったものをひとつベンチに置くと、凄い勢いで猫がやってきて取り合いになる。長いベンチに子猫がズラリと並んでこちらを一斉に見ているというのは今までにない経験。
 
 また小さく千切って手のひらに置き、食べさせてあげようとすると、一斉に前足が出て、指に爪が食い込む。「いってえーっ」と叫んだが、食い込んだ爪は離そうとしない。それでもやっとの思いで離れた指は二匹にやられて出血している。

 これは危なくて手から食べさせようなんてことは出来ない。しょうがないから蒲鉾を千切ってはペンチに投げ、千切ってはベンチに投げを繰り返す。猫たちはそれを争って食べる。生存競争は激しい。素早く要領のいいやつは幾つも食べられるが、ドンくさいやつは、常に目の前でほかの猫に奪われてばかり。なんとかそういうやつのところに向って放るのだが、口に入らない。

 だいたい、この猫たちは投げてあげた蒲鉾を噛まない。噛まないでほとんどそのまま飲み込んでしまう。だから一匹が食べている間に、ありつけなかったやつにあげようとしても、要領のいいやつがすぐに続けて次の餌も食べてしまう。お互いに威嚇の声を上げながら、蒲鉾にありつこうと必死なのだ。それでいて餌やりが終わってしまうと、また何事もなかったように遊びまわっている。私には盛んに媚を売り甘えてくる。膝の上には乗っかってきてしまう。

 ここで時間を潰そうと思えば一時間や二時間は経ってしまいそうだが、いつまでもいるわけにはいかない。今日はこれから芦ノ湖の西岸を踏破しようという目的がある。二日後は冬至。一年で一番日が短い時期。日が暮れるまでに元箱根のホテルまで歩かなければならない。

 トイレで手を洗う。猫に爪を引っ掛けられたところからは血が出ている。それでもなんとか血は止まったが、黴菌が入らなかったかちょっと心配。野良猫に手渡しで餌をあげようなんてことはするもんじゃないという、今回は教訓になった。

 10時30分に桃源台を出発。もうすっかり葉の落ちた木が続く道を通って西岸沿いの遊歩道を行く。この西岸沿いのコースを歩くのは、もうかれこれ30年ほど前に、逆コースで歩いて以来。あのころは確かこんなにきちんとした道ではなかったと記憶している。今は自動車も通れるくらいの道幅がある。しかも未舗装だから、歩いていて膝に負担が来ないから、そんなに疲れない。

 これはいいと思っているうち、一時間も歩いた辺りから自動車は通れない細い道になった。すぐ左横に芦ノ湖があったかと思うと、かなり高い位置から湖を見下ろすようなところもある。アップダウンはあるのだが、ゆるやかだから、山を登ったり降ったりといった感覚はあまりない。

 30年前に歩いたときにも、すれ違う人はほとんど皆無だったが、今回も、後ろから来た人に一度だけ追い抜かれただけ。すれ違う事もなかった。静かな湖畔という表現がまさにぴったり。輪唱したくなっちゃうよ。

 途中、浜に出た。お昼時でもあることだし、ここで買ってきたパンを食べることにする。スノーマン・クリームパンが疲れた身体に元気を与えてくれた。しばし湖をボンヤリ眺めて、さて、また出発だ。

 思ったより時間がかかって、「まだ先なんだろうか?」と思い始めたころ、道はまた広くなり、自動車も通れる広さになる。国道に抜けて、ここからは自動車道。箱根町から箱根の関所。さあ、あともう少しだ。杉並木を右に見ながら元箱根到着。そこからさらに、今夜の宿泊地[山のホテル]まで歩き出す。

 と、空からパラパラ白いものが。アラレだ。[山のホテル]に入るころには雪に変わる。

 部屋へ案内され寛ぐ。一年ぶりの[山のホテル]。去年の10月に入院前のポッカリ空いてしまった時間を利用して来て以来だ。あのとき、無事に退院できたら、またここに来ようと決心していた。今年はいろいろなところに泊まったが、この[山のホテル]が一番落ち着ける感じがする。一年経って、「帰ってきた」というような、妙な安心感、寛ぎ感がある。

 15時30分。桃源台を10時30分に歩き出して5時間。よく歩いたものだ。大浴場に行って疲れを落とす。露天風呂にも入ってみたが、湯から上がろうとすると寒い。そうだよなぁ、雪が降ってるんだもの。

 18時、ホテル内のレストラン[ヴェル・ボア]で夕食。
 このレストラン名物の、わかさぎのフリッターから始まって、オードブルはホタテ貝のマリネと根セロリのレムラード、フランス産鴨肉の自家燻製 林檎のサラダ添え。スープは魚介の出汁がたっぷり出たトマトスープ。どことなくエスニックな香りがしておいしかった。メインは骨付き仔羊のロースト ペルシヤードにした。もうこれでお腹いっぱい。去年はもうひとつ上のランクのコースにしたが、魚料理と肉料理が両方出てきた。一年前なら何のことなくペロリと食べられたが、病気して以来、そんなに量は食べられない。私にはこれで十分な量だ。紅玉林檎とキャラメルのアイスクリームがデザート。食後の飲み物は三種類あるハーブティからミントティを貰う。

 部屋に戻り、寝る前の間、持参のDVDを観る。去年来たときDVDプレイヤーが部屋に備え付けてあったので用意してきたのだ。持ってきたのは矢口史靖監督の『アドレナリンドライブ』。

 1999年の作品。ということは今から13年前の映画。携帯電話が出てくるが、まだまだ現在のようには普及していない。型も古いし。特典映像として矢口史靖とジョビジョバのマギーの対談が付いているが、ふたりともまだDVDプレイヤーを持っていないと話している。この十年ぐらいで携帯電話もDVDプレイヤーも随分普及したよなぁ。

 といより、もう携帯電話はスマートフォンの時代だし、DVDはブルーレイに変わられようとしているわけで、時の流れを感じてしまう。

 日付が変わるころ、眠気が襲ってきて眠りの世界に入る。

12月21日記





















静かなお喋り 12月19日

静かなお喋り

このコーナーの表紙に戻る

トップ アイコンふりだしに戻る
直線上に配置