一碧湖 2013年9月9日 こだまで熱海へ出て、伊東線普通列車に乗り換えて伊東駅に着いたのが13時25分。13時30分発のシャボテン公園行の路線バスに乗る。車内は観光客、地元の利用者でいっぱい。市内の短距離利用者が降りてしまうと、車内は観光客だけになってしまった。 一碧湖の停留所で数人が降りるが、私はそのひとつ先の一碧湖遊歩道口まで行く。 伊東観光はいろいろあるが、一碧湖はどちらかというとマイナーなスポット。周りはいわゆる別荘地で、あまり観光地化されておらず、落ち着いた佇まいだ。 私は小学校の低学年の頃に、一度だけ連れてこられたことがある。それほど大きくない湖があるだけで、別に絶景が望めるわけでもないが、なぜだか妙に感動した。ひょっとすると湖というのを見たのは、これか初めてだったのかも知れない。おそらく一般の小学生にとっては退屈なだけの場所で、伊東観光に子供を連れてきた親は今では、シャボテン公園やら水族館に連れて行くんだろうなぁ。私はいささか変わり者の子供だったのか、この一碧湖にやけに感動してしまったのだった。あれから半世紀が過ぎ去り、私は再び一碧湖にやってきた。 一碧湖は周囲約4km。よく整備された遊歩道が取り巻いている。今夜の宿は、この近くに取ったのだが、チェックインは15時。まだ14時だから時間がある。この遊歩道を一周することにする。南を起点に時計回りに歩き出す。湖にはボートやスワンボートが何艘か出ていている以外は、湖面も静かだ。小さな湖ということもあってモーターボートも走っていないし、遊覧船の類もない。 湖を右手に見ながら、しばらく歩いていると、なにやら背の高い生物がいるのが見える。鶴だ。浅瀬にポツンと立って、魚でも取ろうというのだろうか? 持ち歩いているコンパクトカメラの望遠をフルに使ってシャッターを切る。私のオモチャみたいなカメラは望遠を使うと、よっぽどしっかりと構えないとピントがブレてしまう。慎重に構えてカシャ。どうやら、うまく鶴を捉えたようだ。 北西に開けた場所があり、神社があった。ここにはパーキングがあり、人が何人かいた。目の前の湖の中にも小さな島のようなものがあり赤い鳥居が立っている。なかなかの景色なので、しばし佇んで眺めてしまった。 ここから道路は山の中のようなところに入った。かといってアップダウンは、さほどきつくはないし、道幅も人か悠々すれ違える程度。ちょっとしたハイキング気分だ。 静かな山道を楽しんでいると、突然ボートのりばに出た。土産物屋兼休憩所のようなものがあり、ボートのりばには鴨や白鳥が何羽もいた。この鴨たち、それに湖にいる鯉たちをはじめとする魚たち用にエサを売っていた。観光客がエサをもってやってくると、水上の鴨、水中の魚が、エサを欲しくてくっ付いて移動している。のどかだなぁ。 一周一時間と聞いていたが、50分ほどで一周してしまった。地図を見ると今夜の宿[アンダ別邸]は、この一碧湖の南側に広がる沼地のそばにあることになる。ついでだから、この沼地も一周してやろうと、今度は時計反対回りに歩き出す。と、目の前にネコさん。このネコは警戒心が強くて、そばに寄って行ったら逃げようとする。もう少し警戒心がなければ、バックに入っているイカクンでもあげたのにぃ〜。 この沼地の遊歩道は、一碧湖のものよりもワイルドな感じの作りになっていた。半分ほど歩いたところで自動車道が見えた。そこへ出て、[アンダ別邸]がどこにあるかヒントのようなものがないかと探したら、標識があった。そちらへ向かって歩く。ゆるい坂をちょっと上ったところに[アンダ別邸]はあった。 ロビーに入ってフロントに行くと、バティックシャツを着たホテルマンが応対してくれる。鍵を受け取り部屋へ移動する。このホテルのコンセプトはインドネシアのバリ島リゾート。だから働いている人たちはみんなバティック・シャツが正装のようだ。もっとも私はバリ島に行ったことがないから、バリ島のホテルがそうなのかはわからない。 部屋は意識して暗い照明にしてあり、そう言われてみれば、なんとなくバリ島の調度ってこんな感じなのかもという感じ。部屋はそれほど広くないが、ベッドルーム、リビング、和室という三つのスペースに分けられ、マッサージチェアも置かれている。びっくりしたのは、リビングにテレビがあるだけでなく、ベッドルームにも壁掛けのテレビがあり、さらにはバスルームにも浴室テレビが埋め込まれていた。 とりあえず大浴場に行ってみることにした。それほど大きな浴場ではないが、ほかに誰も入ってこなかったので、のんびりと湯につかる。割とぬるめの湯で、いつまでも入っていられる。 風呂から出て、館内を散策。読書室のようなものがあって、壁は二面に渡って本棚。ほとんどはマンガの単行本。それにDVDソフト、ゲームソフトまで置いてある。DVDプレイヤーは部屋に置いてあったし、ゲーム機は貸してくれるそうだ。私は日本文藝家協会編『代表作時代小説』がズラーッと並んでいるのに心惹かれた。ソファが置かれていて、この場所で一日、時代小説に浸るのも悪くないなぁ。 自販機でビールを買って庭の椅子に座って、湯上りの一杯。南洋植物が植えられていて、「ここはバリだ」と言われたら信じてしまいそう。くどい様だが私はバリに行ったことは無い。しかし私は別にバリへ行きたいとも思わないしなぁ。東京から電車とバスで二時間。往復の交通費だって一万円でお釣りがくる。私はこの空間の方がリラックスできそうだ。 庭や廊下には、あちこちにカエルの石像が置かれている。どうやらバリではカエルは幸運のシンボルらしいのだが、これらのカエルの石像がユーモラスなのも楽しい。 夕食は、17時30分スタートと、19時スタートがあるということで、17時30分スタートにしてもらった。まだ外が明るいうちから食べ始めて、だんだんに暗くなっていく中で食事をするのが私は好きだ。 このホテルのサービスは、飲み物が全て無料だという事。風呂上りでビールを飲んだから、私はキールからスタート。料理が出てくるにつれ、冷酒、赤ワイン、バーボンのソーダ割りとチェンジ。 本日のメニュー。 (冷菜)スモークサーモンのムーステリーヌ 〜生ハムと柿のサラダを添えて〜 (温菜)サザエのブルゴーニュ風 〜地産青海苔を忍ばせて〜 (スープ)紫芋のポタージュ (魚料理)カレイのポシュ 〜雲丹クリームソース〜 (肉料理)伊豆産もち豚のロースト 〜赤味噌とキノコのソース、マディラの薫〜 (デザート)秋の香り 〜洋梨のムース&栗のエスプーマ仕立て〜 二回転制なので、いささか慌ただしいが、やむを得ないだろう。いい気持ちになってしまった。 もう一風呂、今度は部屋のバスにのんびりつかりながらテレビを観る。 そうこうしているうちに、もう22時。寝てしまおうかと思ったが、この時間からバー・タイムが始まり、それもいくら飲んでも無料だというので出かけてしまった。ジン・トニックとラム・トニックを飲んで、完全に呑み過ぎ状態。部屋に帰って沈没。 9月11日記 |