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蕎麦湯ぶれいく

伊東散歩

2015年1月13日

 なんだかこのところ、やけに寒い。これはもう温泉に浸かりに行くのが一番なのだけど、私の近場温泉旅は、ただ温泉に浸かりに行くだけじゃなく、やたらと歩き回る。あんまり寒いのに歩くのはキツイなぁと思っていたのだが、今朝は昨日までの寒さがウソのように暖かい。これならいい歩き旅ができそうだ。

 それでも今日はあまり歩き回らずに、すぐに宿に入ってしまおうと、遅い出発の日程を組んだ。目的地は伊東温泉。伊東なら踊り子号で東京駅から1時間40〜50分。お昼の電車で充分。12時丁度発の、踊り子115号にする。

 東京駅ノースコートの紀ノ国屋でサンドイッチを買う。今回は、エピとプロッコリーサラダのサンドイッチ。

 東海道線のホームに行けば、踊り子号は、もう入線していた。サンドイッチを買ったから車内でコーヒーを買おうと思っていたのだが、この踊り子号、熱海で下田行きと修善寺行きに切り離される。あれ? 待てよ、修善寺行きの踊り子は車内販売のワゴンが回ってこないぞ。ということは、ホームの自販機で缶コーヒーを買っておかないと、コーヒー無しでサンドイッチを食べなくてはならないことになってしまう。それで慌ててホームの自販機で、無糖の「あたたか〜い」コーヒーを買い、列車に乗り込む。

 定刻、電車が動き出すと同時に缶コーヒーを開け、サンドイッチにかぶりつく。と、車内販売のワゴン車がやってきた。車内放送を聞いていたら、車内販売のワゴンは下田方面に向かう車両のみ販売なんだって。これでまた勉強になった。三年前に修善寺行きの踊り子号に乗ったときに、修善寺方面への踊り子は、ワゴン車が回ってこないことを初めて知ったのだが、なぜ東京駅から出る踊り子の下田方面の車両だけはワゴン車の販売があって、修善寺方面の車両にはワゴン車が回って来ないのか不思議。なんで?

 それと不思議なのは、進行方向左側の座席は、ほぼ埋まっているのに右側はかなり売れ残っている。やはりみなさん海側を選択するのだろうか? でも、右側も捨てがたい。なんたって富士山が見えるのだ。まあ富士山は見える日と見えない日があるのだが、今日はバッチリ。

 13時43分、伊東着。あっという間だね。駅を出て伊東の街をブラブラと散歩。伊東というところは落ち着いたいい街だ。温泉街といっても、市内は温泉観光で成り立っているという風でもない。かといってよくある地方都市のように駅前に大きなスーパーが進出して、そのため商店街が淘汰されてしまっているようにも見えない。駅前の古くからある飲食店街や、その先の商店街は昔のままのように思えるし、今でも繁盛している感じ。

 惣菜屋の店先で見かけた、ちんちん揚げ。伊東市民のソウルフードなんだそうだ。魚のすり身と野菜を揚げたものだから、いわゆるさつま揚げみたいなものかもしれない。女性は口に出して言いにくそう。でも犬の芸だと平気みたいだね。

 その向いの居酒屋さんの外の壁には、いろいろな貼り紙があった。うずわというのは、あとで調べてみたら、どうやらソウダガツオのことらしい。やっぱたはローカル・フィッシュと書いてあるけど、一度食べてみたいなぁ。ドライドルフィンは、やはりイルカの干物かねぇ。火星人干しともなると、なんじゃ、そりゃだけど、いいだこの干物かなぁ?

 私は小学校の3年から6年まで、この伊東の隣の宇佐美の全寮制の施設で過ごした。そのこともあって伊東にはよく来ている。一度、膀胱炎になって、週に一度、伊東の病院に通ったことがあった。その病院はどこだったろうと、記憶を頼りにうろついてみる。するとどうやらこの辺だというところは見つかったのだが、今は別の建物になってしまっていて、病院は無かった。そうだよなぁ、あれはもう半世紀も前のことだもの。無理もない。

 そのうちに今、自分がどこにいるのか、さっぱりわからなくなってしまった。今日の宿は海岸線を南下した途中にあるということだけはわかっている。とりあえず海岸に出なくてはならない。街を川が流れているので、ようするに下流に行けば海に出られるだろうと川沿いを歩く。するといつの間にか海に出た。市民観光会館ホールが見えた。おそらく歌手の歌謡ショーとかもこんなホールで行われているのだろう。その向こう側が桟橋。海の向こうに初島が見える。去年の2月は熱海に一泊して初島へ渡ったんだっけな。桟橋から海沿いに南下して行けば宿に着けるはず。伊東漁港を左に、さらに国道沿いを歩いて行くと、見えました、今宵の宿の[風の薫]。市内を歩き回り過ぎて、もう15時半。これからさらに南に行ったところにある汐吹公園を観てこようというのが今日の予定でもあった。フロントに寄って、チェックインは公園まで行って戻ってきてからにしますと声をかけて、また歩いて汐吹公園へ。

 汐吹公園には展望台があった。どうせたいした高さではないだろうと登りだしたら、これがけっこう思ったより距離がある。ゼエゼエ息を切らして頂上。しかし登った甲斐はあった。遠く伊豆の山並みの向こうに富士山の頭が見えた。そして雄大に広がる相模湾。ここに来ようという人間もそうはいないようで、この景色を独り占めって、なんて贅沢な事だろう。展望台から下へ降り、さらに下に降りる。ここには、汐吹公園の名前の由来になった汐吹岩がある。この汐吹岩、小学生のころに来た記憶がある。しかし、当時とは、そこに至る道が大分変ってしまったように思えるのだが、私の記憶違いだろうか? あるいはこの場所ではなかったのかも。伊豆の海岸線はよく似た場所があるから、ここだったとは断言できない。それはともかく、今日は海はすっかり薙いで波が静か。汐吹岩も汐が吹かず穏やかな表情だった。

 そろそろ暗くなりつつある。[風の薫]に戻りチェックイン。ラウンジでウェルカムドリンクとオードブルをいただく。スーパークリングワインとスモークサーモン。ふわ〜、酔いが回る。

 部屋は全室オーシャンビュー。ベランダには露天風呂がある。薄暗くなってきた海を眺めながら、まずは風呂。潮騒の音を聴きながら、そしてすぐ下はもう海という場所で入る露天風呂。堪んないくらい気持ちがいい。

 風呂から出て冷蔵庫の缶ビールを出してきて、風呂上りの一杯。これが楽しみなんだ。しかも冷蔵庫に入っているビール、野菜ジュース、缶入りのお茶はすべて無料というからうれしいではないか。

 夕食時間が来たので食事処へ。
 飲み物は地酒利き酒セットを頼む。磯自慢、開運、初亀の三種類。全て純米吟醸。みんなおいしかったが、中でも初亀がしっかりした日本酒らしい味で気に入った。
 食前酒は小さな容器に入ったものが五種類。ブランデー漬けの梅酒、みかんワイン、いちごワイン、そしてノンアルコールの健康に良いとされるハーブ、エルダーフラワーとりんご酢とレモンミックス。こんなにいろいろ味わえるのはうれしいな。
 先付が長芋の酒盗がけ。淡白な長芋に酒盗で味付け。瓶詰の酒盗っておいしいと思ったことがないのだけど、これはさすがにおいしいなぁ。
 お凌ぎ。寒鯖の握り。鯖の握り寿司だが、締め方がうまい。酢が強すぎるとすっぱいばかりで鯖の味が変わってしまうが、この半分生みたいな微妙な手の入れ方が素晴らしい。
 お椀。丸大根。出汁の効いた薄味の汁がおいしい。柚子の薫も立って、口の中がうれしくなった。
 前八寸。
 雲子割り醤油、白子ですね。私の好物。
 サーモン石狩り、サーモンを麹で和えたものかな。
 射込み蓮根、蓮根の穴にに鶏の細かくしたひき肉を入れてある。
 海老進丈東寺巻き、あこがれの海老しんじょう。単品で頼むと高いんだよね。
 烏賊醤油漬け、烏賊の塩辛ではなく醤油漬け。さっぱりしてておいしい。
 花菜磯部巻き、菜の花をとろろ昆布(?)で巻いてある。
 鮑酒蒸し、鮑はこういう柔らかく蒸してあるのが一番おいしいと思う。
 お造り。太刀魚、鮪、金目鯛。醤油が三種類用意されて出てきた。刺身醤油、白身醤油、土佐醤油。こんなの初めて。飽きずに食べられて楽しい。
 焼物。鰆味噌漬け。味噌の加減が上品だね。
 中皿。鰤しゃぶ。鰤しゃぶを食べるのは初めて。おいしいものだねぇ。
 温物。金目鯛雪中蒸し。摩り下ろした蕪と大根と・・・あと失念・・・がかかった金目鯛の蒸し物。金目鯛って、刺身や煮魚が多いけど蒸してもおいしいんだね。
 お食事。牡蠣炊き込み、赤汁、香物。もうお腹いっぱいだったけれど、牡蠣の炊き込みご飯と聞いたら食べないわけにいかない。いや〜、おいしかったなぁ。
 デザートは和風杏仁豆腐。
 結構な料理の数々でした。ご馳走様。

 部屋には露天風呂以外にも檜風呂の内湯があるのだが、館内に大浴場というものは存在しない。そのかわり空いているときはいつでも入れる無料の貸切風呂がある。食後、一服してからその貸切風呂に入りに行く。ここはいわゆる寝湯と言われる底の浅い風呂。ほかに誰も入って来ることが無いという解放感があり、仰向けに横になって寝ていると、あまりの気持ちよさに、そのまま眠ってしまいそうになる。やはり他人と一緒の大浴場は気を使うから、こういうシステムの方が私は好きだな。

 いい気持ちになってテレビを観るともなく眺め、23時過ぎにベッドに入って眠りに就く。海沿いの宿って泊まるのは去年の千葉以来かな。波の音が子守唄になってくれるのって、いいものだなぁ。

1月15日記





















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