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蕎麦湯ぶれいく

須崎遊歩道

2015年11月11日

 夜明けは6時15分ごろだと聞かされていたが<、ちょうど6時ごろ目が覚めた。オーシャンビューの大きな窓のカーテンは開けておいたから、東の空から太陽が昇ってくる大自然のショウを見ることができた。今の時期、この旅館からだと、ちょうど大島の右肩から日が昇る。右肩上がり。縁起がよいではないか。思わずお天道様に手を合わす。これが東伊豆の海岸沿いの宿に泊まる醍醐味なんだよなぁ。なんだか得した気分になれる。

 このまま二度寝が楽しいのだが、それは一度、温泉に入ってから。なんといっても朝湯のあとの朝寝に尽きる。

 起きて大浴場へ。ちなみに[熱川 大和館]は浴衣を出してくれるのだが、浴衣は苦手。とくに浴衣で寝ると寝相が悪いせいか、朝になると、ただ身体に浴衣が巻き付いているだけという状態になってしまう。300円の別料金で作務衣を出してくれるというので作務衣にした。ここで300円節約するよりは、快適な部屋着の方がいい。まあ、せっかく旅館に来たんだから浴衣っていう人も多いんだろうけど、これだけ年中、温泉旅行に来ていると、浴衣はいろんな意味で着心地が悪いと思うようになった。

 8時朝食。
 干物、鱈と湯豆腐、海老しんじょう、塩辛、ひじき、しらすおろし、サラダ、フルーツ、納豆、卵、カニ汁など、朝のご飯はおいしい。

 二泊するのだから、正しい温泉旅行は、今日は一日宿でビールに温泉でゴロゴロしているというのが正しいのだが、やはり時間を持て余しそう。そこでやはりどこか海岸線でも歩いてくることにした。熱川まで来れば下田までは伊豆急で30分とかからない。滅多に下田まで行くこともないから、この機会に下田の海岸線を歩いてみることにしよう。

 というわけで、10:08の下りで下田。今回は伊豆民宿発祥の地だという須崎から灯台のある爪木崎までの海岸を歩くことにした。下田に着いたのが10:35。須崎行のバス停に行ってみたら、次のバスは11:45。まだ一時間以上もある。ひとつ前の9:24の列車に乗っていれば10:10のバスに間に合っていたのにと思うと悔しい思い。しかし今回はのんびり二泊の旅。気楽に行こう。それでも須崎までの距離は4Kmほどだと聞き、それなら「歩いちゃおうか」という、いつもの悪い癖が頭をもたげ、須崎方面と思われる道を歩き出したのはいいけれど、道に迷ってしまい、いつまでたっても市内から抜けられない。ウロウロしているうちに、11:45のバスの時間が迫ってきて、それならやはりバスに乗ろうと駅前に引返す。

 須崎海岸経由爪木崎行きの路線バスの中には、地元の人たちがけっこう乗り込んでいた。近くに座った男性が「どこまで行くの?」と聞いてきたので「須崎です」と答えると、「俺もそこまで行くし、今乗っている人たちもほとんど須崎で降りるよ」と、ややぶっきらぼうに教えてくれた。

 バスは下田港の海岸線を通り、いつのまにかアップダウンのある地帯に入り、やがて須崎海岸停留所に着いた。須崎は伊豆民宿発祥の地なんだそうだ。そういえば、あれも30年くらい前になるんだろうか、一度だけ須崎の民宿に泊まったことがある。どこか伊豆方面に一泊したいと思って、旅行会社のパンフレットを見ていた。すると格安の料金なのに、夕食に伊勢えびとステーキが付くという宿が出ていた。それが須崎の民宿だった。「民宿かぁ」という不安もあったが、伊勢えびとステーキの魅力に惹かれて予約して行ったことがある。それで・・・確かに伊勢えびとステーキは出てきたけれど、やっぱりいかにも民宿らしい家庭的な味。しかも民宿の壁は薄くて、隣の泊り客の声がうるさくて閉口したっけ。民宿に泊まったのは、あれが最後だった。

 須崎遊歩道はどっちだろうかとキョロキョロしていると、お年寄りの女の人が、また声をかけてきた。遊歩道はそっちだと指さしてくれて「私は行ったことないけどね」と言う。土地の人は、わざわざそんな遊歩道を歩くなんてことはしないらしい。

 須崎は漁港の町。漁船が並んでいる港を見ながら歩く。やがて前方に遊歩道入口らしきものが見えてきた。と、その前方から小型犬が二匹、吠えながら飛んできた。こっちを威嚇しているし、足もとまで来て噛みつこうとする。なんでこんな犬が放し飼いになっているんだ? すると停まっていた自動車から飼い主らしき人が犬をたしなめるような声。しかしクルマから出てきて犬を抑えるような行動はしない。放っておいても人間を強く噛むことはないだろうと思っているのだろうか? 足にぶつかってくる犬を無視して歩き続けていたら、途中で犬は追いかけて来なくなった。犬を自由に散歩させたいという気持ちはわかる。しかしどんなに小さい犬だったとしても、吠えついてくる犬に恐怖を感じる人間だっているだろう。現に私も強く噛みつかれたわけではないが、怪我にはならない程度に軽く噛まれた。それに対して飼い主からの謝罪の言葉もないというのはどうしたことだろう。昨日出会った人間好きのフレンドリーな犬はともかく、自分のテリトリーに近づくと威嚇するような犬をリードも付けずに離すというのは迷惑な話だ。

 ちょっと気分を害したけれど、気を取り直して、須崎遊歩道に入る。須崎遊歩道は爪木崎まで、主に海岸線を通り、ときに山側に入ったりして続いてる。道は整備が行き届いていて歩きやすい。四年前に歩いた伊豆高原→城ケ崎間の道に比べると、アップダウンも少ないし、道が海のすぐそばの低いところを通る場所が多く、気持ちがいい。まさに遊歩道の名前にふさわしく、登山道というよりは散歩道。利用者も少ないらしく、爪木崎までにすれ違ったのは一組だけだった。

 道の途中から、目的地の爪木崎の灯台が見えるようになる。あそこが目標地点だと自分を励まして歩く。須崎海岸から歩くこと一時間半ほど。遠くに見えていた爪木崎灯台に到着。この灯台から眺める海の素晴らしいこと! 歩いてきてよかったという実感があった。

 爪木崎のバス停の時刻表を見ると、14時ちょうどに一本あり、その次は16時ちょうど。須崎まで歩いて引き返して、爪木崎を16時に出るバスを拾うという手もあるが、今の季節、日が暮れるのが早いのと、宿の夕食が迫ってくるので、爪木崎14時のバスで直接下田に戻ったほうがよさそうだ。というわけで、まだ日が明るいうちに帰ることにする。

 下田に着いて、コンビニで猫にあげるためにカニカマを購入。14:49の伊豆急熱海行に乗ったら、憬れだったリゾート21黒船電車だった。横から海側を真正面に見られる席に乗って、30分の快適な列車旅。私は鉄っちゃんじゃないけれど、やはり鉄道は楽しい。

 熱川に15:17に戻って、まだ時間に余裕があるから猫にカニカマをあげに行く。今日はなぜか猫が少ない。尻尾の短いやたらと懐っこい猫と、例の子猫がいるだけ。子猫の方はカニカマをあげようとしても逃げてしまう。警戒心強いなぁ。まだ夕食までには時間があるので、四年前にも行った穴切海岸まで歩いていく。四年前には、途中のお地蔵さんを祀った岩のところで、これまたやたらと人懐っこい猫に出会ったのだが、さすがにあの猫はいなかった。あいつ、どうしたかなぁ。

 宿に戻って温泉に入り、今日も自販機でビール。静岡麦酒だって。サッポロが作っているご当地ビールらしい。さわやかな飲み心地で、これは私の好みの味。

 夕食は昨日が鉄板焼きコースだったので、今日は和食。
 前菜五点盛り、お造り四点プラス鮑、カサゴ姿あげ野菜あんかけ、伊勢えび具足煮、煮物、揚げ物盛り合わせ、紅ズワイ蟹と、テーブルに乗り切れないほどの料理が並んだ。ご飯はテーブルで作る炊き込みご飯。これは具足煮のタレを入れるときっとえいしくなるなと思い、具足煮の身をほぐしてタレにたっぷり漬けておいたものを、ご飯の上からかける。これが大正解。おいしくいただけました。
 しかしそれでも、昨日の鉄板焼きのコースの方がよかった。料理をひとつひとつ、ゆっくり出してくれたし、お造りだって昨日の方が鮮度もよかった気がする。大人数の泊り客を相手にするのだから、ある程度の作り置きは仕方ないし、料理を一辺に並べてしまうというのも仕方ないかもしれない。それでも同じ料金なら鉄板焼きのコースの方がいい。それでもまあ、この料金なら、それほど文句も言えないし、二種類の夕食が楽しめたことに満足。
 デザートで出たフルーツと杏仁豆腐がこれまたおいしかった。満足いたしました。ごちそうさま。

 二日目の夜は、やはり疲れも出たのか、早々と寝てしまった。そのまま珍しく朝まで一度も目が覚めず。楽しみな深夜の入浴も今回はなしとなってしまった。

11月15日記





















静かなお喋り 11月11日

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