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蕎麦湯ぶれいく

慶雲館

2014年4月8日

 以前から、一度行ってみたいと思っていた旅館のひとつが、山梨の[慶雲館]。このところ関東周辺の温泉に行くのが趣味のひとつとなってしまったが、去年の12月に「次はここだな」と思い定め、すっかり行く気になっていた。その直後、母の容体がおかしくなり、泊りがけでどこかに行くのは不安になってきて、旅行は中止。年が明けたら明けたで、゜寒くてちょっと山梨の山の中に行くのは嫌だなと思ってしまった。そして、先月母もついに他界。4月に入って陽気も良くなったことだからと、[慶雲館]行きを実行することにした。

 [慶雲館]は、どうやら山の中の宿で、そこに行くには車で行くか、1日に何本かしかないバスを利用するしかなさそうだ。宿からの送迎は1日1便。JR身延線の、身延駅から、13時40分に出る。

 身延まで行くには東海道線を使う方法と、中央線を使う方法がある。東海道線を使うとすると、こだまで三島まで行き、普通列車に乗り換えて富士。そこから身延線の特急に乗り換えて身延だ。しかしこれだと二回乗り換えなくてはならない。一方、中央線なら、新宿新宿から特急で甲府。そこから身延線特急に乗り換えて身延。検討してみると、接続や現地到着時間から比較すると中央線で行った方がよさそう。それに料金も安い。もっとも、もっと安く上げようとしたら新宿から高速バスという手があるのだが、これは、もし仮に道路状況などで到着時刻が遅れたら、送迎車に間に合わなくなる。その危険だけは冒せない。

 新宿発11:00のあずさ13号に乗る。

 新宿駅南口コンコースの[駅弁屋]を覗いたら、新潟の人気弁当、えび千両ちらしが売っていた。インターネットを見たら、以前は1200円だったようだが、現在は1300円。それでも、この弁当にはそれだけの価値がある。蓋を開けると、弁当の箱一面は、大きな玉子焼き四切れで覆われている。その上には海老そぼろがパラパラと。知らない人が見たら、「えっ?」と驚いてしまうだろう。上の玉子焼きを除けると、中に四種類の寿司ネタが隠れている。茹で海老、イカの一夜干し、酢で〆たコハダ、そしてウナギ。その下には、とろろ昆布が敷かれて酢飯ごはん。これらの味付けが、ひとつひとつ見事。

 車窓からの景色がこんなに楽しかったのも、今までで一番。都心部を離れるに従って桜がちょうど見ごろ。都心部はもう葉桜になってきているが、八王子の先は今がちょうど真っ盛りだと言える。以前の日本って、こんなに桜があったっけ? いまではどこに行っても、桜、桜、桜。この季節はいいなぁ。

 12:30分甲府着。隣のホームに停まっている身延線特急ふじかわ8号に乗り換える。12:37分、甲府発。三両編成のローカル線。私は別に鉄っちゃんではないのだが、やっぱり鉄道の旅って楽しいなぁ。

 約50分、電車に揺られて、13:28身延到着。駅を出ると、[慶雲館]のマイクロバスが停まっていた。先客は、どうやら東海道線ルートで東京から来たらしい高齢者の御婦人4人組。やっぱり平日ともなると、こういう人たちが多くなる。高齢者とは65歳以上だそうで、私はまだ高齢者ではないが、その予備軍。

 13:40ほぼ定刻に身延駅を出発。富士川沿いの国道52号を北上する。この富士川沿いにも桜がたくさん植えられていて、それが満開を迎えていた。翌日は身延山に行く予定で、身延山の名物しだれ桜はもう見ごろを過ぎているだろうと思われるから、この桜が見られただけでも、いいやという気になる。

 車は下部で左折。早川町に入り南アルプス街道を進む。運転手さんがなかなか気さくな人で、いろいろな話をしてくれる。[慶雲館]のある早川町は日本一、人口密度の少ない土地なんだそうだ。家に帰ってから Wikipedia を見てみると、総面積が369.86Km。2014年3月1日の時点で、総人口1,108人。人口密度3人/平方km。そのほとんどは老人ばかりなのだそうだ。走っている道からの眺めは、とにかく田圃や畑が一切見当たらない。早川町では農業は行われていないのだ。それでは町の産業は何かというと、砂利の採掘。町の住民は、余所から来る砂利の採掘業者のおかげで暮らしているらしい。町には小学校が二つに中学校がひとつ。とにかく広い区域なので、ほとんどスクールバスでの送り迎えだそうだ。中学校の前を車は通ったが、凄く広い校庭がある。しかしこの中学校、現在、生徒数3学年合わせて22人とのこと。

 身延から[慶雲館]まで約1時間かかった。しかし、このドライヴは楽しかった。運転手さんも面白いし、景色も今まで見たことが無かったような風景が続いている。運転席の隣のカーナビがひたすら南アルプス街道の一本道を映し出していくのも面白かったし。車はほとんど走っていない。早川町の信号機は一本。それも黄色の点滅を繰り返しているだけ。歩行者が渡るときはボタンを押すらしいのだが、それも押す人間はまず、いないそうだ。

 [慶雲館]に着くと、表で宿の人が迎えてくれた。ロビーでのウェルカムドリンクは、柚子とはちみつのドリンク。爽やかな味わい。

 部屋に通される。渓流沿いの部屋で川の流れの音が聞こえてくる。運転手さんが、ここは山と川と空しかないところと言っていたが、まさにそんな感じだ。この西川温泉というところは、[慶雲館]以外に、もう一軒の旅館と、酒屋が一軒あるだけ。それらもこの窓から見れた。

 とにかくまずは風呂だ。このあと団体さんが来ると言うから、今のうちに一風呂浴びてきた方がいい。ここには全部で六つの風呂があるが、とりあえずは、この時間帯に入れる大浴場と露天風呂(岩風呂)をハシゴすることにする。大浴場、大きい。最近は規模の小さい旅館しか行かなかったせいもあるが、この大きさには感激。誰も入っていない風呂場でゆっくりと湯に浸かり、身体を洗う。次に露天風呂。なにしろ人も住んでいない場所。外から覗かれるってこともないやね。解放感いっぱいだ。それに、このお湯、かなりいい温泉だ。薬効成分が強いのか、風呂から上がったらグッタリした。身体に効いているという実感がある。

 湯から上がって、まだ日も高いし、夕食まで時間があるので散歩することにする。玄関ロビーに出ると、ちょうど団体さんがやってきた。大型バス。バスの添乗員さんに聞いてみたら、クラブツーリズムの観光バスで、ツアー客は今夜ここで宿泊するとのこと。

 宿の先に郵便局があり、その先に吊橋がかかっていた。「5人以上乗らないこと」の立札がある。渡ってみると、そこは「休業中」と書かれた食堂のようなものがあるだけだった。南アルプス街道をさらに進むと奈良田というところに出るはずなので歩いて行ったがなかなかたどり着けないので途中で引き返す。それでも今日はほとんど歩いていないので、いい運動になったかな。

 貸切露天風呂を予約しておいたので、今度はそちらに入る。ここはこじんまりとしていて落ち着く。いいね。

 18:30に夕食。食事処で。旅館のハウスイン・ハーフボトルを貰い、お食事。
 食前酒はかりん酒。
 先付 桜豆乳豆腐
 前菜 甘子有馬煮、こごみの黄味揚げ、蕗の味噌和え、筍木の芽風味、アスパラ辛子風味、合鴨松風、吹寄玉子。甘子(あまご)はマスの稚魚で、山椒をきかせて柔らかく煮てある。
 吸い物 深山鮭節仕立てだそうで、いい味出してるなぁ。
 お造りは山という事で、海のものではなく、鱒と湯葉。こういうのがいいんだよね。山の中なんだから。
 温物 牛筋肉と蕪の蒸し物。牛筋の味付けがいいね。

 ここで、ワインを飲み終えてしまったので、ブルーワインというものが珍しいので貰う。ナイヤガラと甲州をブレンドしたものだとかで、甘口。
 焼物 岩魚の幽庵焼き。山に来たらこれだよね。
 名物 甲州牛の溶岩焼き。A5ランクだそうで、さすがに柔らかくておいしい。タレと塩が出てきたが、塩がシンプルでおいしい。またこの塩がいい塩使ってるね。
 酢の物 ウドのばんしょう煮、ササミ、金魚草、きゅうりをマヨネーズソースで。
 止め碗 正方形に切ったホウトウを赤だしで。これ、おいしい! まさかホウトウが大きな正方形で出てくるとは意外だった。
 ご飯は、もうお腹いっぱいで食べられないと思ったが、ごぼうごはんと聞いて、食べてしまった。
 これにさらにデザートもお皿いっぱい。桜のケーキとゼリー、それにキウイなどのフルーツ。
 うわー、食べ過ぎた。

 部屋に帰ったら、猛烈に眠くなったが、しばらくテレビを観ているうちに、また元気が出てきた。

 寝る前に、別の露天風呂に入って夜空を眺める。星がきれいだね。

 夜中に二度ほど目が覚めて、また温泉に入りに行く。一晩中入れる温泉はうれしい。

4月10日記





















静かなお喋り 4月8日

静かなお喋り

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