蕎麦湯ぶれいく
三度目の検査結果前の伊豆一泊旅行A
今回の旅行で、なぜ星ホテルを選んだかというと、
このホテルの「売り」が個室露天風呂があるということ。
ここには大浴場以外に、
鍵の締まる三種類五つの露天風呂があり、
宿泊客はいつでも24時間好きに入れるのだ。
岩風呂がひとつ、
檜風呂と陶器風呂がそれぞれふたつ。
私は、この露天風呂がすっかり気に入ってしまい
昼となく夜となく、何回も何回も入った。
とくに素晴らしかったのは夜明け前。
外は薄ぼんやりして、これから陽が昇ろうとしている状態。
その幽玄な景色は表現のしようが無かった。
もちろん私が持っているオモチャみたいなカメラでは、
とても写しようがなかった。
そして、ハイライトはやはり水平線に日が昇ってくるところ。
ここは伊豆東海岸だから、朝日が昇るのが見える。
湯に浸かりながら、頭の中は
『朝日のあたる家』が流れていた。
Oh mother,Tell the children
Not to do what I have done
Spend your life in sin and misery
In the house of the Rising Sun
マザー、子供らに話してくれ
オレがしたようなことはするなと
朝日のあたる家で
罪と惨めさにまみれた人生を送るなと
朝食。
鯵の干物にカニのみそ汁。
それに雑炊。
疲れた胃に優しい献立。
チェックアウトの時間を正午までにしてもらって、
さらに何回か露天風呂を楽しむ。
送迎車で伊豆北川の駅まで送ってもらう。
周りには何も無いところにポツンと駅だけがあった。
伊豆高原までのキツプを買いホームへ。
このホームからの北川の海の眺めが抜群だった。
いつまで眺めていて飽きない。
なんか時間を忘れて、いつまでもこの場にいたい。
心が安らぐ、そんな時間と空間だった。
12時14分発の普通列車に乗って伊豆高原へ。
12時25分、伊豆高原着。
伊豆高原駅が立派になってしまっていて、まごつく。
もっとも最後に行ったのはもう20年くらい前か。
記憶を頼りに、吊り橋のところまで行こうと歩きだすと、
標識も完備されていて、川沿いを歩く道まで出来ていた。
この道がまた気持ちいい。
伊豆高原の吊り橋へ到着。
このすぐ近くの岩場に以前は毎年のように
夏になると素潜りにきていたところ。
この吊り橋にはもうひとつ思い出がある。
映画『女必殺拳』で、志穂美悦子と石橋雅史が闘ったところ。
これがおそらく、この吊り橋であると思われる。
映画では志穂美悦子はこの吊り橋から落ちてしまうという展開になる。
以前、石橋さんにうかがったところによると、
撮影は人間の替わりに人形を落とすことになったのだが、
この人形を回収しなければならない。
そのために人形に紐をつけて落としたのだが
その紐に石橋さんが、もう少しで絡まれて
一緒に落ちそうになったのだとか。
話はさておき、きょうの目的はここから城ヶ崎海岸に向かって
海岸線の遊歩道を歩き通そうということ。
事前の知識では3時間くらいかかると聞かされていたが、
伊豆高原駅から伊豆城ヶ崎駅までは電車で2分。
そんなにかからないだろうと、たかをくくっていたが
それは歩き始めて思い知らされることになる。
道は右にときどき視界が開ける険しい海岸線を眺めながら
遊歩道とは名ばかりのアップダウンが続く山道。
それが、いつまでも続く。
波の音がBGMになって気持ちがいいと言えばいい道なのだが、
いつまでもいつまでも続くのだ。
結局、すれ違ったのは欧米人の男性ひとりだけ。
たまに見える人影は、どうしたらそんなところに行けるんだ
というところで釣りをしている人だけ。
ときどき休憩。水分補給は必要だ。
そして、さらに歩く歩く。
ひたすら歩く。
もう、うんざりだ!
そして道はいきなり平坦になり、広い場所に出た。
漣着寺だ。
とうとうここまでたどり着いたぞ。
さてこの隣が海洋公園なのだが、ここで一服してと、
抹茶とバニラのソフトクリーム。
ご褒美。
さて、話を『女必殺拳』に戻すと、
志穂美悦子は、怪しげな武道家を用心棒にしている
悪の組織の別荘に秘かに潜入するのだが、
その別荘にプールが欲しいと思ったのだろう、
別荘に設定したロケ現場は、なんと海洋公園のプール。
競泳用のプール付きの別荘ってあるかあ?
武道家たちは泳がないだろうし。
ここで志穂美悦子は、石橋雅史に見つかってしまい、
伊豆高原の先ほどの吊り橋で闘うのだ。
私が2時間以上かかって歩いてきた距離を
彼らは一瞬にして移動してしまったわけで、
とんでもない身体能力の持ち主だということがわかる。
さあ、ここからは城ヶ崎ピクニックロード
と名前も変わり、歩きやすい道になった。
城ヶ崎灯台到着。
ここを回り込むと、いよいよ城ヶ崎の吊り橋。
下を覗くと、こんな感じ。
ここまでで、一応目的は達したのだが、
道はこの先のぼら茶屋まで延びている。
もうこうなったら、最後まで行くしかないと歩きだす。
ぼら茶屋は海鮮料理を出すお店。
ところが、やけに静か。
ふと見ると、ここはきょう定休日だ。
さて、城ヶ崎海岸駅へ行って電車に乗り、
夕食を予約した熱海のレストランに向かおうと思ったのだが、
たいへんなことに気がついた。
このボラ茶屋からは路線バスの類は出ておらず、
周りにタクシーの姿も見えない。
看板を見ると、城ヶ崎海岸駅まで徒歩30分。
現在、16時。
次の城ヶ崎海岸駅を出る上り電車は16時29分発。
急いで歩いたとしても、
駅でキップを買ったりする余裕を入れるとかなりキツイ。
しかし、これに乗らないと次の上りは16時57分。
これだと熱海着が17時43分。
レストランには17時30分で予約を入れたから、
これでは間に合わない。
仕方ない、駅からレストランに電話を入れて
到着が30分遅れると連絡を入れるか
と、自動車道を歩きだしたら、しばらくして
進行方向からタクシーが来るではないか。
こんなところに、流しのタクシーは来ないだろうと思ったが、
試しに手を上げてみたら、タクシーが停まった。
城ヶ崎海岸駅まで乗せていってくれるという。
「駅まで何分で行きますか?」「5分だね」
やったぁー、16時29分には余裕で間に合う。
城ヶ崎海岸駅到着。
熱海までのキップを買っても十分に時間が余った。
それではと駅前のテラスがある店に入って地ビール。
ぷはー、うめえやぁ。
上り電車で熱海へ。
熱海着17時10分。
駅からタクシーで、レストラン・クレールへ。
席に着くと、ドッと疲れが襲ってくる。
スパークリングワイン、チンザノ・ピノ・シャルドネを飲んで、いい気持ち。
おまかせのコース料理をいただくことにする。
オードブル
スープ
スズキのプロヴァンス風
仔牛のマデラー・ソース
デザート
みーんな、おいしかった。
ごちそうさま。
勘定を払って外に出たら、ちょうどタクシーが通りかかった。
熱海から新幹線で東京へ。
楽しかった。
明日はいよいよ、耳鼻咽喉科の検査結果がわかる日。
いい思い出になった。
2011年10月31日記
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