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蕎麦湯ぶれいく

小淵沢に母の除籍謄本をとりに行く旅

2014年5月14日

 母の遺産を相続するために、母の出生から死亡までの、戸籍・除籍謄本を集めてこなければならない。中央区、杉並区、文京区のものをとりに行ったことは、ブログ『静かなお喋り』の5月1日のところに書いた。

 母が生まれたのは浅草だから、最初の戸籍は台東区になるものだと思い込んでいたのだが、文京区の除籍謄本をとってみてびっくりしたことがある。父と母は結婚して文京区に籍を置いた。そのときの母のそれまでの戸籍が山梨県になっていたのである。母の父、つまり私の母方のおじいさんという人は、山梨から東京に出てきて、籍を東京に移すことなく、子供が生まれてもすべて山梨の戸籍に入れていたのだ。

 文京区の謄本をとって、あとは台東区役所へ行けば、すべて揃うと思っていた私の考えはガラガラと崩壊してしまった。請求の書類を揃え、手数料の為替と、返信用の封筒と切手を送れば、郵送してくれるようなのだが、なんだか面倒。いっそのこと現地の市役所に行ってしまおうかという気になった。

 おじいさんの本籍が小淵沢ということは、北杜市役所ということになる。中央線で行けばいいのだが、ふと、高速バスで行ってみようかという気になった。料金はJRより安いし、所要時間もそれほど違いは無い。そこで、インターネットで新宿高速バスターミナルから岡谷行、小淵沢バス停までの高速バスのチケットを予約した。

 8時半に家を出て、都営新宿線で新宿。高速バスターミナルには9時ちょっと過ぎに到着。ちょうど9時10分発の、富士急ハイランド方面行のバスの搭乗時刻だった。このバスはどうやら満車らしい。キャンセル待ちの高齢の女性が乗れなくて困っていたが、発車直前でキャンセルが出たようで、喜んで乗って行った。

 一方、私の乗る9時20分発岡谷行はというと、それほどお客さんは乗っていない。若いカップルや女性同士の二人組といった人たちがほとんどだ。

 定刻9時20分。バス発車。この新宿からの高速バスというのは、実は私は以前から憧れ続けてた。新宿西口に来るたびにこの高速バスターミナルのそばを通ると旅情を掻き立てられるのだ。いつか私もこのバスターミナルからバスに乗って中央道方面に行ってみたい。そう思っていた。その望みが、いよいよ実現するのだ。

 甲州街道から首都高に乗る。と、いきなり渋滞。これは想定していたことではあるが、まさかこんな手前から渋滞とは思わなかった。インターネットで予約するときに、当日は中央高速道の集中工事期間であるむねの記述があったからだ。しかしまあ、急ぐ旅でもなし、ちょっとくらいの遅れはどうってことないと思っていたのだ。しかしこの予想は甘かったことを思い知ることになる。

 いつまでたってもノロノロ運転。いっこうに車の流れは順調に動かない。これは予想より大幅に到着が遅れそうだ。予定では北杜市役所で謄本をとったあと、小海線下り列車13時14分発で、ひとつ先の甲斐小泉まで行きたいのだが、無理かもしれない。当初、このバスが小淵沢停留所到着は11時48分。役所のある市街地まで歩くとしても20分程度らしい。謄本を出してもらうのに30分かかったとしても、13時14分は時間が余りすぎてしまうくらいと思っていた。しかし、これは無理っぽくなってきた。小海線は本数が異様に少なく、これを逃すと次は15時08分まで無い。これでは今日の予定を根本から見直しということになりかねない。参った。かといって。もうどうしようもないではないか。

 結局、このノロノロ運転は日野バス停付近まで続く。日野バス停では、リュックを背負った高齢者の男性ふたりが乗り込んでくる。「韮崎バス停まで乗りたい」という、予約なしの飛び乗り。どこかの山に行くらしい。

 ここを過ぎたら、急に流れ出した。今までの遅れを取り戻すかのようにバスはスピードを上げて走る。

 小淵沢バス停到着予定時刻の11時48分も廻った12時15分、双葉サービスエリア到着。15分の休憩がある。朝から何も食べてないので腹が減った。サンドイッチと缶コーヒーを買い込み、朝食兼昼食。

 小淵沢バス停に到着したのは、予定時間を一時間以上オーバーした12時55分。何しろ高速道路のバス停に降り立つなんていうのは初めての経験だ。バス停ってどうなっているのか。そして高速道路を降りたところはどうなっているのか。市内にはどうやっていくのか。初めてのことだらけでワクワクしてくる。小淵沢バス停で降りたのは、ほかには若い女性のふたり旅のみ。休暇でも取ってやってきたのだろう。やたらとはしゃいでいる。バス停の後ろに下に降りる階段があった。一番下に金属製の柵があり、「動物が侵入します。出入り口は閉めてください」の文字が書かれている。

 外に出ると、はるか向こうに山並みが見える。あれがいわゆる南アルプス。駒ケ岳に違いない。標識に矢印があり、市街地とある方向に歩き出す。一緒に降りたふたりの女性は、どうやら宿の車が迎えに来てくれたらしくて、それに乗り込み去って行った。私は市街地へと向かって歩き出す。前の山並みはきれいだし、色とりどりの花が道に咲いている。それになにより、「すごいところに放り出されてしまったなぁ」という興奮した感情がある。こういうのってワクワクしてくるのだ。道々に道祖神がいくつも立っている。Utamさんだったら興奮するだろうなぁ。

 鉄道の上の陸橋を渡って小淵沢駅方面へと歩く。小淵沢の駅でちょうど13時14分ちょっと前。いまからなら小海線に間に合うのだが、これから北杜市役所に行かねばならない。なにしろ今回の旅の目的は母の戸籍謄本をとりにくることなのだから。

 駅の前を通り越して、北杜市役所。ついにやってきたぞ。中に入って書類に書き込み、謄本が出てくるのを待つ。こういう書類はけっこうどこでも待たされるから慣れっこだ。しばし待たされ無事に母の除籍謄本入手。これで今回の旅の目的は終了。

 小淵沢駅まで戻る。もう小海線の電車は行ってしまっている。次の15時08分まで待つメリットは無いだろう。駅前に停まっていたタクシーに乗り、一駅先の甲斐小泉駅まで行ってもらう。近いだろうと思ったら、けっこうの距離を走った。1630円。高くついてしまったが仕方ないか。

 今回の信玄棒道コースは北杜市観光協会のホームページに乗っていたウォーキング・コース。このコースどおりに歩いてみようというもの。出発地点の甲斐小泉を出発。最初の目的地、三分一湧水を目指す。自動車が通る歩道の無い道だけれど、車はほとんど走ってない。コースを解説してくれている文章が、やたら細かく道順を書いてくれているので読みながら進む。

 三分一湧水は、「さぶいちゆうすい」と読むらしい。この湧水はとても貴重な水資源らしく、付近の人が公平に利用できるようにと、湧水を三方向に分散させる枡が作られているところ。辺り一帯は公園になっていて、ここでのんびりもできるが、今日は先を急ぐので、ざっと見て、来た道を少し戻り、信玄棒道コースへと入る。

 最初のうちはアスファルトの、車もすれ違えるような、そこそこ広い道の登りが続いた。それほど急な坂というわけではないが、一生懸命に登ると、息も乱れがち。やがて道は坂を終え、平坦な道に入った。

 しばらく行くと、アスファルトは砂利道になり、さらに土の道へと変化して行った。そして道幅は、どんどんと狭くなる。ついにはようやく人がすれ違える程度の森の中へと入っていった。

 その森の中の道もそれほど長くは続かず、やがてまた道は広くなって行く。ところどころに別荘が点在する地域。なんとも素敵な森の中という感じだ。

 ところどころに、信玄棒道と書かれた立札が置かれ、道に迷うということはない。自治体がここをウォーキングコースとして管理しているという姿勢が感じられる。でもその割には、このコースはあまり一般には知られていないような気がする。もっとも人がわんさか集まって来られては高尾山のようになってしまうが。また、道にときどき現れる道祖神群が楽しみ。なかなかユニークな顔をしているものが多くて、それを見ながら歩くのも楽しい。

 新緑がきれいだ。今日は天気予報では温度が30°くらいまで上がり真夏日になるとのことだったが、幸いそこまでは上がらず、歩いていると、うっすら汗をかく程度。本格的な夏はさすがに暑いかもしれない。それとここはけっこう虫が飛んでいる。肌を露出して歩くと虫が寄ってくる。夏は虫よけスプレーが必要になってくるかもなぁ。

 やがて左にゴルフコースが見えてきた。平日ということもあってか、廻っている人も少ない。信玄棒道は戦国時代の軍用道路。こう思うと穏やかではないが、今は平和な散歩道だ。

 途中で信玄棒道を離れ、小淵沢方面へと曲がる。ここからは長い下り坂を一直線に道路が通っている。隣に車が行き交う道路があるが、歩いている道路は道幅も広いのに車はほとんど通らない。どうやら新しい道を作ったので、こちらは歩行者が中心の旧道になってしまったのかもしれない。

 ひたすら道を下ったところに、道の駅があった。その奥がホテル。そしてその隣が、日帰り温泉施設、スパティオ小淵沢。ここで休憩していくことにする。入浴料610円。大浴場があり、その奥には露天もあった。のんびり30分ほど温泉を楽しんだ。風呂から出て、喉が渇いて、売店で牛乳を飲みたくなったが我慢。上の階には展望レストランもあってビールが飲めるのだが、これも我慢。今日は小淵沢に戻って、うなぎを食べるのだ。

 再び別荘が点在する林を抜けて行くうちに、田圃や畑が見えてきた。そしてまた南アルプス。なんて気持ちがいいコースなんだろう。

 中央自動車道のガードをくぐり、歩き続けてスタート地点の小淵沢駅到着。駅で、帰りの便のチケットを買い、[井筒屋]という、うなぎ屋さんの場所を訊く。

 [井筒屋]は駅からさほど離れていない場所にあった。ここの名物は、うな箱二のう。二種類の焼き方で出てくるうな重だ。注文を受けてから30分くらいかかるというので、まずはこれを注文。出てくるまで、骨せんべいと、肝焼きを貰い、生ビール。ふわぁ〜、お疲れ様。席はテーブル席と、庭に面したカウンター席があった。せっかくきれいな庭があるのでカウンター席。庭には池に鯉が泳ぎ、ときどき猫が顔を出す。

 二のう到着。濃いめの蒲焼もおいしいが、薄めのたれで下にネギが敷かれ、わさびの乗ったうなぎも、さっぱりしておいしい。ここで日本酒が飲みたくなったので、生酒を注文。七賢のしぼりたてなま生だ。山梨の七賢を飲むのは初めてだが、これ、おいしい。後を引くね。

 いい気持ちに酔って、お腹もいっぱい。19時18分発のあずさ32号で東京に戻った。所要時間1時間48分。行きの工事渋滞に巻き込まれた高速バス約3時間半がウソのよう。帰りはさっさと帰りたいものね。

 じいちゃんが本籍を東京に移さなかったことで大変なことになったけれど、いい小旅行ができた。じいちゃん、「信玄棒道を歩いてごらん」「おいしいうなぎも食べてお行き」と私を呼んでくれたのかもしれない。

5月16日記





















静かなお喋り 5月14日

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