松阪 2012年11月15日 7時起床。 もうすっかり夜は明けて、眩しい太陽が昇っている。今日もいい天気になりそうだ。 それにしても昨夜は寒かった。宿の人も昨日は最近になく冷え込んだと言っていた。危ない、危ない。熊野古道の山道を通っていて、日が暮れて、もし道に迷ったら遭難していたところだ。この寒さだったら、たまらなかっただろう。 今朝は念願の露天風呂へ。植わっているモミジが真っ赤になっていて、いい風情。でも、寒っ! 空気がひんやりしている。お湯に入っているうちはいいが、湯から出ると途端に震えてしまう。そろそろ露天風呂には辛い季節になってきたようだ。こそこそと内湯に移動。軟弱者と言われてもていいもんね。冬の間はやはり内湯が一番。それでも、ここの温泉は気に入った。特に、さまし湯。あれは効くわぁ。体重を量ってみる。54.3Kg。 朝食も部屋で出された。もちろん朝食も温泉で料理してある。野菜の煮物に、鯵の南蛮漬け、温泉卵、温泉水の湯豆腐など。でも何といっても、これ。温泉水で作ったお粥。これがおいしかったなぁ。温泉の匂いがして、なんか優しい味がする。消化器官にもよさそう。今朝はお通じも快調だし。 9時半ごろまでのんびりし、お世話になった湯の峰温泉あづまやを後にする。川湯温泉まで熊野古道を通って抜けようかと思ったが、熊野古道への入り方がよくわからず、そのまままた自動車道を下る。それでもほとんどのクルマの通らない道でもあり、川沿いに続く田圃や畑、点在する民家の中を歩くのは気持ちいいものだ。展望もいいし悪くない。熊野古道はまた別の機会に歩くこともあるだろう。 ぶらぶら歩いているうちに国道311号線に出た。ここをさらに進んで右へ。温泉トンネルという長いトンネルを抜ける。歩道は身体を横にしてすれ違うのがやっとというくらいの狭い道。閉所恐怖症の人は絶対に通れそうもない。暗くて長い。出口は見えているのに一向に辿り着けないような怖さを感じる。 思わず景気づけに、頭の中で音楽を鳴らす。 ♪トンネルぬけてー トンネルぬけてー トンネルぬけてー オンボロ電車でー 田舎の町へー くりだそう イェイェイ イェイ! ザ・ダイナイマイツ『トンネル天国』。そんな曲で育った世代なのです。 とかなんとかするうちに、ようやくトンネルを抜けたときにはホッとした。 トンネルを抜けたところは、川湯温泉。10時58分のバスが来るまでにはまだ20分以上ある。河原付近を散策。二羽の鴨が川に浮かんでいる。時折川に顔を突っ込んでいるのは小魚を探しているらしい。この温泉場も一泊するにはよさそうなところ。行きたいところがますます増えるなぁ。 10時58分のバスは5分遅れくらいで到着。途中からまた行きと同じ道になって新宮まで戻る。熊野川の川下りの船が見える。あれにも乗りたかった。まあ、また来ればいいか。 12時新宮着。このあと12時43分の特急列車に乗らなくてはならない。となると、これまた時間が半端だ。新宮城跡にも行ってみたいが、それには時間が足りない感じ。結局、また駅の付近をぶらぶらして駅へ戻る。 ここから2時間以上かけて松阪まで行く。とにかく紀伊半島は大きいという印象を得た。ここを旅するには一点に絞って観光した方がよさそうだ。今後の参考にしよう。 15時ごろ、本日の宿、ホテルAU松阪チェックイン。シングルは二種類あって数百円高くなるが広めの方の部屋にする。ビジネスホテルは寝るだけとはいえ、やはり機能一点張り必要最小限の部屋より、多少余裕があった方がいい。気分の問題なんだが。 軽く横になって、すぐに松阪の街を歩きに出かける。[和田金]を見つけ、「18時にまた来ますから」と予約を入れる。 本居宣長旧宅跡、松阪城跡、武家屋敷群などを日が暮れるまで散策する。松阪に以前来たのは学生時代。松阪に来たという事だけは憶えているが、街並みも、こういった史跡もなにも憶えていない。憶えているのは[和田金]ですき焼きを食べたということだけ。我ながら何をしていたことやら。自分で自分が情けなくなる。それにしても松阪って歴史のあるいい街だよなぁ。 一旦ホテルに戻って休憩。18時に[和田金]へ食事に行く。もちろん目当てはすき焼き。部屋に通され、メニューを見ると、すき焼きは一種類。よくこういう店に行くと肉の種類によって松竹梅などと値段のランク分けされている場合があるが、ここはすき焼きはすき焼き一種類。こういうのは助かる。正直に言うと、ランク分けされたメニューというのはほんとに困る。 例えば、特上、上、並と三種類に分けられていたとしよう。高級すき焼き店だから、例え並だったとしてもそれなりの値段はする。懐具合を考え、「まあ、並でいいか」と思っても、一方で「せっかくたまに贅沢に来たんだから、いいものを食べてみたい」という気持ちもある。ましてや、こういうところは仲居さんが目の前で調理してくれる。「並をください」とはなかなか言い出せない。ついつい見栄を張りたくなる。それなら特上にしようか。いや、待てよ。特上なんて頼もうものなら、「この見栄っ張りが、無理しちゃって」と思われはしないだろうか。となるとここは真ん中を取って上にしとこう。と、「すみません、上でお願いします」と口にしようものなら、「やっぱりね。そう言うと思ったわ」と思われているような気がしてくる。妄想は食べている間中頭の中を駆け巡り、落ち着かないったらないのだ。あぁ、我ながらなんて小心者なんだろう。 火力はなんと炭火である。今はどこへ行ってもガスだろう。そこに鉄なべを乗せ、肉、野菜を調理してくれる。 ここへは先に書いたように学生時代に一度来たことがある。当時は木造だったと仲居さんに話すと、25年前に鉄筋のビルになったとのこと。なんで松阪まで来たのかもう忘れてしまったが、もう一生ここに来れることはあるまいと、アルバイトで貯めた金をはたいて、ここですき焼きを食べたことがある。あれ以来、まさか再びここのすき焼きを食べられるとは思いもしなかった。生きていてよかった。 昔のことは忘れてしまったが、私は今回[和田金]のすき焼きがすっかり気に入ってしまった。肉が柔らかく味がいいのはもちろん、タレが東京のものより甘く、肉の味をわからなくしてしまうほどではないこと。そして肉以外の具が多い。豆腐、ねぎ、しいたけはもちろん、玉ねぎ、にんじんまで入ってくる。玉ねぎ好きの私はこれはうれしい。 これでご飯と漬物まで付いて一万円でお釣りがくるというのは、この手の店としては安いと言えるだろう。 満腹して、ホテルへ戻る。 ここはバスルームも付いているが、地下に大浴場がある。外は寒かったので、さっそく浴場へ。きーもちいいー。 大きなベッドに潜り込んで、眠りに就く。おやすみなさーい。 11月19日記 |