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蕎麦湯ぶれいく

三原山〜荒野を歩く

2013年3月7日

 目覚まし時計を合計4個仕掛ける。去年一度、旅行に行く当日に目覚まし時計を無視して寝過ごしてしまって、もう少しで買ったキップに間に合わなくなりそうになって焦ったことがあったから。
 今回は一つ目の目覚ましが鳴ったときに起きだして、残りの3個を止めて廻った。

 洗面を済ませ、旅支度をする。
 今日は、伊豆大島へ一泊しに行く。
 まだちょっと時間があるので、インターネットで調べて資料をプリントアウトしたものを読み返して、プランを再検討する。伊豆大島は、あまり詳しいガイドブックが見当たらなかったのでインターネットを使った。ちょっと大変だったが、こうやっても結構調べられるものだ。路線バスの現在の時刻表なんてガイドブックでは絶対にわからないものだし。

 地下鉄で大門まで出て、竹芝桟橋まで歩こうかと思ったが、タクシーを使うことにした。

 竹芝桟橋から船に乗ったのは、若いころに八丈島に行ったことが一回と、25年くらい前にスキュバダイビングの講習を受けに大島に合宿に行ったことくらい。どちらもフェリーを使った。私らの間では、難民船と陰口を叩いている畳敷きの雑魚寝席。夜遅くに出発して翌日に到着する便だ。
 大島にダイビング講習に行ったときは、ゴールデンウイークを使ったものだったから、その混み方は並大抵のものではなかった。畳敷きの横になれる空間を確保できなかった乗客は立ったまま一夜を明かすしかなかった。幸い横になれる空間を確保できたとしても、およそ眠れるような状態ではなかったよなぁ。
 今回は高速船を使った。クルマごと移動するなら、どうしてもフェリーでということになるが、なんたって高速船の方が早い。竹芝→大島間を2時間で結ぶ。
 乗船手続きをして待合所で待つ。

 8時15分発の高速船は8時ごろ改札になった。
 指定された席に座って出港を待つ。
 乗務員が回ってきて、シートベルトを必ずするようにと確認して回っている。飛行機のキャビンアテンダントはほとんど女性だが、こちらは男性のみ。
 救命胴衣の説明のビデオが流れるが、こちらもモデルは男性。それもイケメンくんではなくて、オジサン。やはり海は男の世界だ。
 高速船は比較的安定した走行の乗り物だが、シートベルトはしなければならない。その理由はアナウンスによると、「大型海洋生物に接触する恐れがあるため」 大型海洋生物ってなんだ? やっぱり東京湾にゴジラが接近することがあるからだろうか?

 船は定刻通り出航。レインボーブリッジをくぐり、時速80キロ近いスピードで走る。途中、久里浜に寄る。神奈川方面の人は、竹芝で乗るより久里浜の方が便利なんだね。
 久里浜を過ぎると陸地が遠くなる。窓からは海しか見えない。フェリーと違ってデッキに出て海風に当たるという楽しみもなく、じっと座席に座っているだけ。う〜ん、優雅な船旅というのとは、ちょっと違うか。

 10時15分。定刻通り、大島岡田港へ入港。
 幸いゴジラとは接触しなかった。
 港に降り立つと、磯の香りがぷ〜んと漂ってくる。島へ来たんだなぁ。
 ドックを歩いて出口へ向かう。ツアー客をバスへ呼び込む旅行者の人、合宿免許に来た人を待つドライビング・スクールの人、レンタカー会社の人、旅館への送迎の運転手。いろいろな人が手にフリップを持って立っている。

 なんだか旅先ではネコに出会う事が多いが、今回もネコさんが港で出迎えてくれた。フリップは咥えてなかったけど、何やら歓迎してくれているに違いない。頭をナデナデしたら、太陽をいっぱいに吸っているらしく温かい。

 売店で何か腹の足しになりそうなものを探す。明日葉のおにぎり、サンドイッチ、あんドーナツ、今川焼きなどが売られている。今川焼きなんて長いこと食べてないよなぁと思い、130円の今川焼きを買う。

 三原山頂口行のバスが停まっていたので乗り込む。さっそく買って来たばかりの今川焼きを食べる。以前は甘いものにはあまり興味がなかったのだが、この数年、だんだん甘いものが好きになってきている。今川焼き、おいしいなぁ。それになんとなく懐かしい。

 定期観光バスが何ルートかあり、そちらの方は結構埋まっているようだ。次々に出発していく。
 三原山頂口行のバスにも十人くらいの人が乗っていた。10時40分発車。緩やかな勾配を登って行く。
 25分ほどで三原山頂口到着。
 展望台から海の方を眺めたが、モヤがかかっていて視界はあまりよくない。まあ、曇っていたりするよりはましか。雨も降っていないし、気温も暖かいから、運がいいほうだ。

 三原山に上るには、通常、山頂遊歩道を歩く。アスファルトで舗装されているから歩きやすく、観光客のほとんどはこの道を歩くことになる。
 しかし私は、インターネットで見た、表砂漠コースを選ぶことにした。こちらは未舗装。足元は砂。いわばダートコース。こちらの方が足に優しい気がしたが、それでもやはり歩くには力がいる。なんとなく西部劇にでも出てきそうな風景だ。誰も歩いていない。反対方向から歩いてきた人とひとりだけすれ違ったが。
 ミハラ砂漠という言葉が頭に浮かぶ。サハラ砂漠と似てないか?
 しばらく歩いて行くと、突然木でできた標識がポツンとあった。ここから三原山への直登ルートになるらしい。
 それにしても、この付近は、“荒野”という表現がぴったりくる。なんにもない荒れ果てた土地。まさにマカロニウエスタンにでも出てきそう。頭の中で突如『夕陽のガンマン』や『続荒野の用心棒』のメロディが流れる。
 今までの人生で、荒野と呼ばれるところにポツンと立ったことがあっただろうか? なかったなぁ、そんな経験。
 あまりにもこの荒野が気に入ってしまい、付近をしばらく歩き回る。

 三原山へ登るルートはさすがにきつかった。こんなことなら舗装ルートにすればよかったと、ちょっぴり後悔もしたが、これぞこのワイルドな三原山にはうってつけだと納得させる。

 登りきったら、お鉢めぐり噴火口一周道路に出た。山頂遊歩道方向に行き、火口見学路を歩いて火口近くまで舗装路を歩く。

 一般の観光目的の人はここまで来て引き返すのだが、せっかくここまで来たのだ。噴火口一周道路も歩いてみることにした。この道は舗装されていなくて足元は溶岩だらけ。革靴ではちっょと無理だろう。それに風が強い。強風に身体が飛ばされそうになる。

 火口は、舗装路で行けるところよりも、こちら側のルートで行った場所の方がよく見えた。本当に見たいという人は、少々たいへんだが火口一周をお薦めしたい。

 ほぼ一周したところで、大島温泉ホテルへ抜ける裏砂漠ルートへの分岐点に着いた。ここからは下り。最初のうちは溶岩と枯れすすきしか見当たらないルートだが、徐々に緑が混じり出す。道幅も広くなっていくし、だんだん歩きやすくなっていった。ここも見渡すがりの荒野だが、表砂漠ルートよりは穏やか。なんとも気持ちのいい道だ。

 一時間ほど歩いて、大島温泉ホテル到着。
 路線バスの時刻表を見れば、次は15時42分。まだ45分ほどある。ホテルでコーヒーでも飲もうと思ったら、あいにくレストランもラウンジも営業していなかった。自動販売機で缶コーヒーを買って飲む。それでも疲れが取れていくよう。

 バスで岡田港へ。ここから今夜の宿[マシオ]のある元町港までは、またバスを乗り継がなければならない。どうしようか迷ったが、タクシーで直接行ってしまう事にした。女性ドライバーとのんびりと話をしながら宿に向かう。渋滞も無くスイスイと進む。若いころ、時間さえあって大島に合宿自動車免許に来れば、路上教習も楽しかったろうなぁ。

 [マシオ]は街からちょっと高台に上ったところにあった。
 大きなドアを押して入ると、そこはレストラン。ここでフロント業務も兼ねているらしい。女性に渡された宿帳に記入する。ここは三室しかない小さなホテル。ほかの二部屋の宿泊客はもう到着しているらしい。

 予約したのが遅かったので、一番高いメゾネットタイプの部屋しか空いてなかったが、この方がゆったりしていて、結果的にはよかった気がする。
 必要最低限の説明をさっきの女性がしてくれて去ると、まずは風呂。内風呂も付いているが、貸切風呂へ行く。なにしろ三室しかないから、予約制というわけでもなく、空いていたら、中から鍵をかけて入れるというシステム。幸い誰も入っていなかったので、手足を伸ばし、旅の疲れを癒す。日本人はやはり大きな浴槽だよ。

 部屋に戻って、冷蔵庫から缶ビールを取り出す。ふわー、うまい! これが楽しみで昼間歩いているようなものだ。

 18時夕食。大島名物、明日葉を使った春巻きやらお浸し、明日葉麺といった前菜、ロマネスコのスープ、ルッコラとマグロのマリネ、トコブシのオーブン焼き、鰻と茄子の焼き物、豚肉のソテー、金目鯛の唐揚げ島唐辛子風味など、箸で食べられるフレンチ風創作料理が次々に出てくる。野菜がみんな自然食材らしくて、健康によさそう。

 食事を持ってきてくれるのは、フロント係兼客室案内係だった女性。結局翌日帰るまで、この人以外のスタッフの姿を見なかった。

 これは去年、伊豆高原の[クラリス]に泊まった時にも感じたことだが、過剰なもてなしをしないで、お客さんをそっとしてあげようという心遣いからなのかもしれない。かといって無愛想というわけではない。こちらから話しかければ明るい笑顔で応対してくれる。この加減がほどよいのだ。大女将だ、若女将だと挨拶に来られたりするのも気疲れするし、ペンションのように妙に馴れ馴れしくされるのもわずらわしかったりするものだ。

 食後に、もう一風呂浴びて、持参したしたCDを置いてあるコンポに入れて聴いたりしているうちに、夜は更けて行った。

3月9日記





















静かなお喋り 3月7日

静かなお喋り

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