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蕎麦湯ぶれいく

2012年10月18日みなかみ

 11時52分東京発の上越新幹線で水上に向かう。

 水上は小学生のときに家族旅行で一度だけ行った記憶が微かにあるのだが、ほとんど憶えていない。どんな旅館に泊まったのか、そこでどんな事があったのかどうしても思い出せないのだが、確かに「行った」という記憶はある。なんとなく憶えているのは、ずっと雨が降っていて、どこへも出られず、子供の私にはつまらないと感じていたということ。

 昨夜は雨。今朝は家を出るときには小雨がパラついていたが、そうひどい雨にはなりそうにない。なんとか小学生時代の嫌な体験だけは免れそうだ。

 上越新幹線には初めて乗る。。Maxという二階建ての車両だ。車内は主にビジネスマンでいっぱい。案外混んでいる。

 自動販売機で買った座席指定券は通路際。隣の窓際の席は誰も座らないうちに発車したが、大宮から、その席のお客さんが乗り込んできた。大柄な人で、しかも私の前の席の人がリクライニングを倒しているので窮屈そうに私の前を通って窓際の席へ納まった。私が一旦どいてあげればよかったかなあ。

 13時08分上毛高原駅到着。約1時間15分で着いてしまった。

 13時16分発の水上行の路線バスに乗ろうと外に出てるとバスはもう駅前の停留所に停まっていた。

 諏訪神社前という停留所まで約10分。本当はひとつ手前の銚子橋で降りて、諏訪峡の遊歩道を歩いて水上まで行きたかったのだが、現在は途中まで通行止めになっているとか。

 停留所を降りると、リンゴの果樹園が見えた。手を伸ばせば取れそうな位置にリンゴが生っている。明日はどこかでリンゴを買って帰ろうか。

 ちょっと歩いたところに、諏訪峡大橋があった。バンジージャンプの名所だ。42m上の橋の上から飛び降りると説明が書いてあるけど、実際に橋の上から覗き込むと、足が震える高さだ。若いころなら是非とも体験してみたかったが、さすがに大病をしたあとだと自信がない。第一、健康診断でも心臓には黄色信号が出ている。もうあまり無理はしない方がいいだろう。

 ジャンプしたつもりで橋の下まで降りてみる。見上げてもやはりかなりの高さだ。しかも下の川はきれいな流れだけれど、岩肌がむき出し。これは怖い。

 向かい側に遊歩道が見えるが、そこへ行くには、ずっと上流まで回らなければならないという。車道を歩いて標識に従って、また川へ降りる。鉄道の下のトンネルを抜ける。遊歩道を通って、川を下ろうかとも思ったが通行止めでもあり今回は断念。笹笛橋を渡り対岸の広いエリアへ行く。

 ここはバンジージヤンプと並んでラフティングも名所。ゴムボートに乗って川を下っている人の姿も見られる。これも体験ができるのだが、うーん、これも病気する前だったらなあという思いがする。同乗する人に迷惑をかけそうで、私なんてとても。

 遠く谷川岳が見える。明日、天気がよければ行ってみよう。

 風か強く、寒い。上毛高原駅に着いたときに、ちょっとひんやりしたが、歩いているうちに手が冷たくなってくる。手袋を持ってくるべきだった。それに服装もダウンジャケットが欲しいところ。東京はまだあったかいからダウンジャケットを着て歩いていると浮いてしまうが、ここを歩いている旅行者はみんなダウンジャケット姿だ。なにしろ平日だから旅行客の大半がリタイア組の高齢者。旅慣れていて、この時期にこういうところへ来るには厚着でないとならないという知識があるらしい。

 この川沿いは桜が植わっていて、春はさぞかしきれいだろうと思えるが、今はコスモスがあちこちに咲いている。これもまたきれいだ。

 道の駅があった。水紀行舘。中に水産学習館というミュージアムがあったので入ってみる。ちょっとした水族館。流行りのドーム型水槽もあり、魚を真下から眺められたりする。アマゾンあたりにいそうなナマズがいたので水槽にカメラを向けたら口を開けてくれた。お客さんにはちゃんとサービスをするように飼いならされていたりして。淡水魚ばかりで派手さは無いが、これで300円は安いと納得。

 小腹が空いたので、飲食コーナーで何か軽く食べることにする。群馬名物の麺類おっきりこみを食べてみたかったが、夕食を前にして今から食べるには、いささかハード。もちびとんというのが気になる。なんだろう、これ。おにぎりのようなのだが。ひとつ280円。これくらいなら食べられそうだ。注文すると、もちびとんを温めてくれる。棒葉に包まれた中身はもち米。具は山椒が効いた豚肉。インターネットで調べるとこれはもち豚なんだそうだ。それで、もちびとん。びとんって何だ? ルイ・ビトンから来てたりして。アハハハハ。でもこれ、おいしい。中華ちまきに似ている。

 休憩して元気が出たので、再び歩き出す。水上の温泉街を抜けて水上の駅を目指す。なぜか最近は旅行に出ると猫さんに会うなあと思っていたところで、茶トラに会う。ちょっと警戒していて逃げて行っちゃったけど、どうもまだ子猫みたい。逃げながら枯葉にじゃれてるんだもん。そこからまたしばらく歩いたら道端にうずくまっている猫さんに遭遇。声をかけながら近づいたら、ムクッと起き上ってこちらに歩いてきた。こいつは、懐っこいやつだあ。カメラを向けるとズンズン近づいてきちゃって撮れなーい。甘えん坊で、顔もカワイイやつだったなあ。これだから旅は楽しい。

 水上の駅前の土産物屋で、あまりの寒さに手袋を購入。この店にも懐っこい猫がいて、看板猫らしいのだが、寒くて奥に入っちゃってた。ガラス戸越しに挨拶だけする。また来るね。

 タクシーで今宵の宿、上越館へ。運転手さんに宿の名前を告げると「初めてですか?」と言われる。
 「ええ」と答えると、
 「いい旅館ですよ」と言われる。うれしくなってくる。

 上越館の前に停まると、ニッコニコの笑顔の若い女性が迎えに出てくださる。案内されて部屋に案内される。もっと古い建物の旅館を想像していたのだが、建ってからそんなに年月は過ぎていない新しい感じがする。インターネットで見て、十畳の和室にベッドルームが付く美女柳という部屋を予約していた。丸い卓袱台のような机が楽しい。

 若いおねえさんから宿の説明を聞き、宿帳に記入する。入れ替わりに女将さんが挨拶にやってくる。ここにきて急にめっきり寒くなったとのこと。お茶と、杏子で作ったというケーキをいただきながら、こんな季節の話題に耳を傾けていると気が和んでくる。

 夕食前に、ひと風呂、浴びることにする。この旅館は風呂がふたつ。なにしろ五部屋だけの旅館だから大浴場というようなものはない。それでも、この規模の旅館からいったら、そこそこの大きさの浴室で、貸切風呂のシステム。つまり中から鍵がかけられるようになっていて、空いていればいつでも入れる。翌日のチェックアウトまでに何回か入ったが、入浴中で入れなかったのは一度しか無かった。それもちょっと待てば入れた。となるとこのシステムは合理的。入る人はいつでも他の泊り客に気兼ねしないで、のんびりと温泉に浸かれる。しかも一晩中入浴可なのもうれしい。

 6時に夕食。食事は食事処で、個室になっている。「待ってました!」の岩魚(イワナ)の塩焼き。お作りにも、ヒラメ、ボタンエビ以外に岩魚が付いた。岩魚の刺身を食べるのは初めての経験。クセも臭みもなくイワシをもっと淡白にしたような味。おいしい。他にも冬瓜のあんかけ、牛もも肉のステーキ、酢牡蛎など、ひとつずつ順に持ってきてくれる。どれもが工夫が凝らされていておいしい。中でも天ぷら三種の中に入っていた無花果(いちじく)は珍味だった。もう満腹だなあと思っているところへ、きのこの炊き込みごはん。味の付いたご飯に目が無い私は、やっぱりおいしくいただく。そしてデザートまで完食。食用のほうずきっていうのも初めて食べた。食べたことのない味が口に広がる。これはぜひまた食べてみたいものだ。

 食後、またひと風呂浴びてから、部屋にDVDプレイヤーとソフトが何本か備えてあったので、映画鑑賞にする。なんと、見落としていて前から観たかったホラー『ホステル』(Hostel)があるではないか。旅館に泊まってホラーを観たがる客も少ないだろうが、私はその少ない客のひとり。うれしいなあ。しかもマイナーな『ホステル』だもんなあ。拷問ものホラーなのだが、案外痛さは無かった。それにはちょっとホッとしたけど。スロバキヤにやってきた若者が得体のしれない者に拉致されて、拷問を受けるホラー。知らない国に行って街をうろつくのが大好きだった時期のある私は、こういうのほんとに怖い。知らない国って、なにがあるのかわからないもの。

 お腹いっぱい。温泉にも、そしてホラー映画にも満足して、いい気持ちで眠りに就いたのだった。

 食後に風呂に入ったときに、体重計に乗ってみたら、55Kgだった。先月、旅先で量ったときは55.5Kg。0.5Kg下がっているが、まあ大丈夫だろう。





















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