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蕎麦湯ぶれいく

半世紀ぶりの巣雲山

2015年5月15日

 4時半頃に目が覚めた。窓の外はもう、うっすらと明るくなり始めている。1月に来たときには、この時間はまだ真っ暗だった。

 せっかく目が覚めたのだから、部屋のテラスの露天風呂に入る。この広い海を高いところから眺めながら温泉に入るというのが、この宿の一番贅沢なところ。1月に泊まって、また4ヶ月後に来てしまったのは、優待券を貰ったということもあるが、この部屋に付いている露天風呂に、また入りたくて来てしまったということもありそうだ。そうだなぁ、このあとまた4ヶ月後ということはないにしても、またいつか突然に来たくなるかもしれない。

 風呂から出て、またベッドにもぐり込む。朝寝、朝湯が、温泉旅行の最大の楽しみ。

 次に目が覚めたのは7時。今朝は朝食を9時にしたので、まだ時間に余裕がある。

 チェックインのときに、朝刊の希望を聞かれたので、地方紙にしてもらった。『伊豆新聞』。ローカルな話題しか載っていない。ページ数の少ない新聞だが、ほとんど殺伐とした社会や政治の記事がない。きわめて穏やかな内容ばかり。こういうの癒されるなぁ。ローカルの新聞広告も楽しいし。

 9時、朝食。まずはマンゴージュースで気分すっきり。
 この朝食も4ヶ月前とはだいぶ変化していた。大きな違いは干物。前回は好きな干物を選ぶと、それを焼いてきてくれたのが、小さく切った何種類かの干物を自分で焼くシステムに変更になっていた。これはいろいろな干物が少しずつ食べられてうれしい。
 朝からお刺身。アジのたたきにタコにエビ! アジのたたきは手間がかかるだろうになぁ。
 前回もおいしいと思ったたらこ。塩分控えめなのを半分生加減に焼いてある。
 大根が中までしっかりと煮てあるのもうれしい。
 ほかに、イカの射込み煮、冷奴、なめたけ、わさび漬け、キンピラ、もずく酢、サラダ、フルーツヨーグルトなど。
 ご飯は前回は温玉粥だったので、今回は酒盗茶漬けにした。お茶漬けって、ご飯を噛まないで飲み込む形になってしまいがちなので滅多に食べないのだが、大好物。これさえあれば何もいらないくらいに好き。
 ごちそうさまでした。

 部屋に戻って仕度をして、チェックアウト。タクシーで伊東駅。10時16分の上り電車で一駅、宇佐美まで。宇佐美。ここは私が小学三年生から六年生までの間、東京を離れて全寮制の生活をしたところ。ちょうど成長期に当たる四年間をこの場所で生活した体験は、その後の私の性格や考え方にも大きな影響を与えたといえる。今から思うと、親からも解放されて、周りが自然の中で貴重な体験が出来たと思う。学校の方針も担任の先生の教え方も、詰め込み式の教育ではなく、私に適した教育をあたえてくださったと思う。授業も毎日あるわけではなく、年中、様々な行事があり楽しかった。体育の授業が山歩きなんていうこともあった。
 あれは六年生の最期の頃だった。卒業を間近に控えたある日のこと。担任の先生が、六年生だけ一日授業を休んで山に行くと言いだした。それが巣雲山(すくもやま)だった。朝食を済ますと、六年生は全員集合して山に向かった。ゴルフ場を突っ切る形で歩き、山道に入り、やがて巣雲山の頂上へ出た。巣雲山の頂上は芝生になっていて、段ボールを尻に敷いて橇の代わりにしてみんなで遊んだことを憶えている。
 今回の目的は、あの50年前に行った巣雲山へ再び登ってみようという計画。果たして巣雲山は50年前と同じ姿を私に見せてくれるだろうか?

 宇佐美駅から標識に従って舗装された道路を登って行く。途中、地元の人と思われる人とすれ違う。
 「巣雲山へ行かれるんですか?」と訊かれたので、
 「はい、そうなんです」と答えると、
 「先ほども若い人がひとり、登って行きましたよ」と言われた。
 若者と競争する気はないから、のんびり行こう。

 みかんの花咲く丘コースというのを選んで登って行く。道の両脇にみかん農園がずーっと山に向かって続いている。『みかんの花咲く丘』という童謡が頭に浮かぶ。ウィキペディアを見てみると、この曲は加藤省吾作詞、海沼實作曲。どうやら加藤がイメージしたのは宇佐美の丘のみかん畑だったようだ。そして海沼も東京から伊東に向かう列車の中で曲を作り始め、ちょうど宇佐美あたりで曲が完成したという。いや〜、まさに宇佐美の曲なんですね。ところで、みかんがなっているところは見たことはあるが、みかんの花ともなると「はて?」、どんな色のどんな花なのかまるでわからない。それが今回、ついにみかんの花というものを見ることができた。そう、みかんの花というのは5月ごろに咲くんですね。白い花。へえ〜、こんな形をしているんだ〜。

 みかん畑が途切れたあたりから舗装路は途切れ、山道になっていった。ヒーヒー言いながら登って行くと、宇佐美の町と海岸線がきれいに見渡せる場所に出たので休憩。この眺望が見たくて苦労して登って来たようなものだ。

 そこからさらに急な坂が続き、涙目になったころ、ようやく大丸山頂上付近に抜ける。ここから富士山が見えるというので、目を凝らしてみると・・・う〜ん、今日もモヤッている。でも微かに富士山の輪郭は確認できたな。

 ここから巣雲山まではすぐだろうと思ったが、どっこいそう甘くなかった。伊豆スカイラインに並行して走っているらしい山の尾根を上ったり下りたり。でもこのあたり、山ツツジがまだあちこちに残っている。昨日、小室山公園のツツジはもうすっかり散ってしまっていたが、こちらはまだ見ごろだ。

 もうこれ以上こんな道が続くのは嫌だと思い始めたころに巣雲山到着。うん、なんとなく見覚えのある場所だ。そうだ、この芝生の坂を使って段ボールの橇で遊んだのだった。山頂には展望台も出来ていて、そこからは360°の眺望。富士山方向を目を細めて見つめてみたが、ついにここでは富士山を見ることはできなかった。

 展望台で若い男性がラーメンを作って食べていた。ああ、あの人が例の若者らしい。ラーメン、おいしそうだな〜。

 帰りは峰コースというルートを使って下山する。途中までやや険しい山道で、この調子が続いたら辛いなと思ったところで舗装路。しかしこの舗装路というのが癖ものなのかも知れない。やはりこの手の道は歩くには疲れる。

 足も嫌がりだしたところで宇佐美駅到着。上り列車をチェックすると20分後にある。キップを買って、時間までまだ少し時間があるので駅前の食堂に入り、瓶ビールを注文。ひや〜、うめ〜。サービスに出してくれたのが蕗とジャコの煮物。これまた、いいね〜。

 宇佐美から熱海へ出て、こだま自由席で東京。さすがに疲れてウトウトしてしまった。

 このところ伊豆箱根方面に来たときには小田原の[魚國]へ寄って帰ったのだが、今日は東京駅八重洲地下街。場所が移転して大きくなった[The Cave De Oyster]で、牡蠣のバターソテーとカキフライ、それにガンボ。南アフリカのKWVシャルドネを開けて、お疲れ様でした。

5月17日記





















静かなお喋り 5月15日

静かなお喋り

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